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第121話 忘れていた温もり

 ――西暦2071年12月24日 新東京都中央エリア・国会議事堂




「だからフィルズなど皆殺しにしておけば良かったんだ! 一体国防軍は何をやっとるんだ!」


 大臣の一人が声を荒げる。


「ですが、黒夢は最近平和的な活動が増えてるから、下手に潰そうものなら世論がうるさくなると総理も仰ってたじゃありませんか!」


 話を振られた総理大臣は、ニヤリと笑みを浮かべる。


「フン、だからこそ今回の件はチャンスじゃないか? これで黒夢を駆逐する大義名分が出来たのだから」


「ですが総理、今回のテロは黒夢ではなく陽炎が裏で手を引いてるとの報告も……」


「関係あるか! 黒夢も陽炎もまとめて潰せば良い。 元々ギフト能力者など、我々()()()()にとって危険因子でしか無いのだ。 国防軍で我々の為に犬の様に働くぐらいしか生きる価値など無い。 それ以外の能力者などいらぬ!」



 国会議事堂の会議室。


 集まったのは、総理大臣を含む内閣を構成する者を中心とした二十人の国会議員。 その全員が、ギフトを持たない自分たちこそ純正人類だと語り、フィルズ……いや、ギフト能力者全員を同じ人間とは思っていない者たちだった。


 この者たちを中心とした、自分たちをギフト能力者よりも上位と考える人間たちが、今の日本を作ったのだ。 ギフトを持つ者と持たざる者との格差社会を。



「ですが……黒夢にはあの桐生と、今や世界最強とも言われるブライトがいます。 国防軍の現戦力ではとても……」


「その二人は別格だとしても、それ以外は特殊部隊でゴリ押しすればなんとでもなるだろう? 判明してる奴等のアジト全てにミサイルをぶち込んでやれば良い。 今回の大義は我々にある」


 だが、総理の楽観的な意見に、国防大臣が苦言を呈する。


「奴等を舐めてはいけません。 確かに、並のフィルズなら特殊部隊の兵器で圧倒出来ますが、桐生やブライトをはじめ何人かのフィルズには通常の兵器では太刀打ち出来ません。 だからこそ、これまでも駆逐しきれないでいたんですから」


「ならどうする? このまま、純正人類である我々が、能力者などと言う異分子に怯えて生きろというのか? 奴等を人間だと思うな! 今回の件をきっかけに、ありとあらゆる悪評をでっち上げて、黒夢など社会的に抹殺してしまえ!」


 もはや聞くに堪えない暴挙としか言い表せない言動を、ブライトは冷淡に聞いていた。……当の総理大臣の隣で。



「とにかく、あんな異端じば……」


 次の瞬間、総理大臣の首が飛んだ。 それと同時に、ブライトはサイレント・ステルスを解除する。


「……悪いが、全員死んでもらう」


 突然のブライトの登場に会議室内はパニック状態に陥り、我先にと部屋を出ようとするも、ブライトにとってこの部屋にいる人数を片付けるのに五秒と必要はなかった……。



 ワールド・オブ・ウィンダムによる風の刃が部屋中に発生……。 総理大臣を含め、どうやって殺されたのかも理解出来ない間に、この国の政治を担ってきた純正人類たちは絶命したのだった。



 横たわった亡骸を見つめながら、ブライトは考える。


(おまえらにはおまえらの理が有るように、俺たちには俺たちの理がある。 おまえらの理は、俺たちにとって邪魔だった。 ただそれだけの事)


 散々能力者を卑下する発言をしていた純正人類たちを、ブライトは決して絶対悪だったとは考えていなかった。 ただ、自分たちとは価値観が決定的に違う事で解り合えなかっただけなのだと。



 本来なら、姿を現す事無くこのまま部屋を出れば、桐生が上手くやってくれる予定だった。


 だが、ブライトは既に姿を現していた。 そして、敢えて稼働している監視カメラを見つめる。 全ては自分が単独で殺ったのだと、世間に知らしめるために。


「我が名は闇の閃光・ブライト。 この世界を……破滅させる者だ……」


(あとは……ボスたちが上手くやってくれるだろう。 俺がいなくても)


 再びサイレント・ステルスを発動し、ブライトは首相官邸を後にした。



(さてと……どこか遠くへ、誰もいない所へ行くか。 そこで……)


 命を絶とう……。 生きていればいずれ狂人化する。 そうなれば、自我を失った自分は何をするか分からないのだから。 ただ一つ確かなのは、このままなら間違いなく桐生に牙を向けるだろう。 それだけは看過できなかった。


 死を決意しても、ブライトの心は揺れ動く事は無い。 自分がこの世から消えるだけ、ただそれだけの事だと。 遂には死への恐怖という感情までもが麻痺しはじめていたから。



 最期に、何かやり残した事は無いだろうかと考える。 いくら感情は淡々としていても、せめて最期に何かなかったかと。


(……そうだ、風香に別れの挨拶くらいしておくか。 もう、会う事も無いんだから)



 そうと決めると、ブライトは黒夢の情報部隊に電話し、現在の風香の居場所を訪ねる。


 すると、風香はナンバーズと交戦し、ヴァンデッダのギフトに敗れ、都内の自宅で療養しているとの情報を得た。


(精神攻撃を受けたのか? 会いに行くのはやめようか……)


 そう思ったが、会って話をしなくても、一目だけこの目で見ておきたいと決め、風香の自宅へと向かった。



 風香の現在の自宅は都内一等地の豪邸で、あの鬼島も同居しているのだが、鬼島は比呂との特訓のためしばらく家を空けている。


 本来なら国防軍本部の医務室や系列の病院に入院するのだろうが、今回のテロでは国防軍にも多くの怪我人が出たため、外傷が少ない風香は自宅療養になったのだ。


(さて、着いたはいいけど、風香の部屋が分からないな)


 目を閉じて、気配を探す。 微弱だが、風香の気配を感じる事が出来た。


(やはり眠ってるか? ……好都合だ)



 自室のベットで、風香は悪夢にうなされていた。 ヴァンデッダに見せられた幻を、何度も何度も夢の中で繰り返して……。


 その様子を、窓の外からブライトは眺めていた。


(ヴァンデッダの奴、一体どんな幻を見せやがったんだ? 会って説教してやりたい所だけど……もう無理だしな。 さて、帰るか)


 うなされる風香が気にはなったが、自分に出来る事など無いと割り切り、その場を後にしようとすると、風香の呻き声が聞こえて来た。


「……ごめんなさい、ごめんなさい、光輝君……」


 自分の名が聞こえ、思わずブライトは立ち止まる。


(まさか、俺関連の幻を? ヴァンデッダのやろ~)


 ヴァンデッダに静かな怒りを覚えたが、それよりも自分のせいで風香が苦しんでいるのだと思うと、何かしてやれないかと思いとどまる。


(……少しだけならいけるか?)



 ブライトは窓を切り抜き、施錠を解除すると、静かに風香の部屋に忍び込む。


「光輝君……ごめんなさい……」


 そして、うなされる風香の手を握った。


「謝らなくていい。 おまえはなんにも悪くないから……」


「光輝君……」


 うっすらと、風香が目を開けた。


 だが、ブライトは焦らなかった。 それどころかマスクを外し、風香に微笑んだ。


「俺はここにいるから。 だから安心して休んでくれ」


 薄目を開けた風香は、安心した様に微笑んだ。


「ごめんね。 ずっと、そばにいてくれる?」


「ああ。 俺はずっとおまえを想ってるから。 今はゆっくり休んで……」


「ありがとう……」


 そう言って、風香は再び眠りについた。 だが、先程までのうなされた様子が嘘の様に、静かな寝息をたてながら。



(風香……早く立ち直って、幸せになってくれ)


 自分は感情を失いつつある事は自覚している。 でも、今は、久しく忘れていた、温もりを感じていた。



「ありがとうな……さよなら、風香」



 そして、ブライトは消えた。 思い残す事は無いと、自分に言い聞かせて……。

次回から新章です!本日から23時に投稿予定なのでお見逃しなく!


さて、久しぶりにお願いしときます。


この作品がつまらなくはなかった。 続き読んでもいいけど? と思った方、☆評価とブックマークがまだであればこの機会に是非宜しくお願いします!


あと、書籍の方も、Web版とちょっとだけ違う内容が気になると思ってくれた方は是非是非ご購入をお願いします!

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