第12話 光輝の変化
※一部表現を修正しました。
「おはよー!光輝!」
朝。いつもの様に通学路を歩いていると、いつもの様に比呂が遥と梓を連れ立って光輝に近付いて来た。
声を聞いた瞬間、昨晩の殺意が漏れそうになった光輝だったが、グッと堪える。そして…
「…ああ、おはよう、比呂。伊集院も浅倉も、おはよう」
爽やかな笑顔で挨拶を返したのだ。
光輝のその反応に、比呂ばかりか遥と梓までもキョトンとしてしまう。それほど、光輝が笑顔を見せる事など久しく無かったのだ。
「あ、ああ、おはよう。…なあ光輝、今日、どうかしたのか?」
「どうかした?なんでだ?」
「だって、光輝はいつもは…そんな笑顔なんか見せないだろ?」
「そうだったか?それはすまなかったな。俺も、いつまでもギフトが発現しなかったからと云って腐ってる訳にもいかないからな。ちょっとは明るく生きようって決めたんだ」
「…へ~、そ、そうなの」
微妙に呆気に取られてる比呂を他所に、トラブルズの二人も不思議そうに光輝に問い掛けて来た。
「珍しい…。貴方みたいな無神経な方でも、笑顔になる事もあるんですね…」
「えっと…私、光輝が笑ってる所見たの…何年ぶりかしら?」
散々な言われ様である。思えば、この二人の口から出る言葉は、自分に対して批判的な感情が混じっていた。しかし、改めて考えてみると、自分には悪く思われる理由に全く思い当たらない事に気が付く。
でも今は、多分比呂が何か自分の悪い噂を吹き込んだからなのだろうなと予想が出来た。
(…って事は、もしかしたら梓だけじゃなく、遥も元々は俺に好意を抱いてくれてたのかもな…。あれ?俺って本当にモテてたのか?)
そう思うと、光輝も出方を考える。
「浅倉…いや、梓、なんか今まで誤解を受ける様な態度をとってしまってたのなら謝るよ。ごめんな。お前とは幼なじみなんだし、出来ればさ、昔みたいに仲良くしたいんだけど…駄目か?」
突然の光輝の言葉に、梓も驚いて言葉を失った。だが、少し頬が赤くなっていた。
「え?えっと…今更…。わ、私はあの時の光輝の言葉…そ、そう簡単には許さないんだからね!」
(許さないって…?あの時の…?俺、何か言ったのかな?…駄目だ、思い出せない。どうせ糞野郎が何かを吹き込んだんだろ?)
「伊集院さんも、初めて見た時からあんまり綺麗な人だから緊張しちゃってさ。俺、素っ気ない態度だったかもしれない。謝るよ、ごめん」
「え?あ~…いや、でも、貴方が私にした事は許せません。だから、あまり馴れ馴れしく話し掛けないで下さいね」
(お?口ではそんな事言って、照れてるのが丸分かりだ。つか、俺が何したってんだよ?これもどうせ比呂だろう。
…そうだ、このトラブルズを比呂から奪ってやる…いや、奪い返してやるのも面白いかもな…)
「ちょっ、ちょっとちょっとー!本当にどうしたんだよ光輝!何か良い事でもあったのかよ!?」
「…ああ、あったよ」
(とびきり刺激的な事がな…)
「へ~、気になるな~!何があったか教えてよ~」
比呂はあくまで幼馴染として興味を抱いてる風に装おっているが、今の光輝には分かる。その表情に、若干の猜疑心が含まれている事を。
(なるほど。俺も今まで、平静を装ったつもりでもこんな顔してたんだろうな。そりゃバレるわ…。でも、これからは俺がお前を嵌める番だ)
比呂は相変わらず何があったかを聞きたがったが、光輝は適当に勿体ぶりながら歩いていると、目の前に風香が立っていた。
「あ、おはよう、周防くん!真田くんと伊集院さん浅倉さんも」
相変わらずモデルの様な美貌で、眩しい笑顔で接してくれる風香には、光輝も少なからず好意を抱いていた。でも、昨日は尽く比呂がおいしい所を持って行ったのを思い出す。
(今思えば、昨日のも糞野郎が邪魔したんだろうな……ようし)
「あの、周防くん、昨日は…」
「おはよー!風香ちゃん!今日も綺麗だねー!」
案の定、光輝に話し掛け様としていた風香を遮るように比呂が割り込んで来た。
「え?あ…ありがとうございます」
光輝はその様子を見て、やっぱりな…と思うと共に、今までの様にはいかないと気を引き締めた。
「風香ちゃん、今日もお昼俺達と…」
「水谷、昨日は弁当ありがとうな。凄く旨かったよ」
強引に割り込んだ光輝に比呂が戸惑う。だが、風香は満面の笑みを浮かべた。
「本当ですか!?良かった~。あ…だったら、良かったらで良いんだけど…もしお節介じゃなければ、明日から周防くんのも作って来ても良いですか?私、一人暮らしだから、折角お料理作っても余っちゃって…」
「マジで!?やったー!んじゃあ楽しみにしてるよ!あと、俺の事は光輝でいいよ」
「え?じゃあ…光輝くん」
「おう!別に呼び捨てでも良いんだけどな。さ、遅刻するとヤバいから早く行こうぜ!」
「うん!」
二人の世界を作りながら歩いて行く光輝と風香の背中を、比呂達三人は呆然と眺めていた。
「…なんか、今日の光輝、昔の光輝みたいだったわね…」
「私は昔の事は存じませんけど、いつもの根暗な雰囲気はありませんでしたわね」
梓と遥も驚いていたが、どこか光輝の事を見直した様だ。
そして比呂は、そんな二人を見て舌打ちをするのだった…。