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第117話 重ねられた後悔

 ――黒夢本部



 フェノム撃退の際、黒夢を核としたフィルズ連合軍は、長年に渡って敵対関係にあった国防軍と手を組んだ。


 桐生と財前。両勢力のトップ同士が決めた事ではあったが、両者の積年の蟠りが懸念されたものの、特に問題なく、国防軍と連合軍はスムーズに共闘を果たした。


 それには、桐生と財前が時間を費やして張りめぐらされた幾つかの伏線があった。



 財前は、国防軍の中でもフィルズに対して特に蔑んだ思想を持った者を任務として排除していったし、桐生もまた、理想に賛同せずに傍若無人な振る舞いを辞めない者や、国防軍に対してどうしても拭えない敵意を持った者を任務として国防軍と対峙させた。


 そして、決定的な行動として、陽炎による爆弾テロ。


 陽炎には、黒夢の方針転換により、黒夢からも多くのフィルズが加入した。だが、それもまた桐生の想定通りであり、排除すべき……自分の理想に賛同しない者達を切り捨てるべく、陽炎という黒夢の対抗組織に集め、テロを実行させたのだ。


 結果、多くのフィルズがその際に死亡し、ブライトが内閣総理大臣を暗殺した事で、陽炎は完全に悪の組織と断定された上に、黒夢によって壊滅させられた。


 この計画の最大の協力者となったのが、陽炎のボスであった霧雨だった。


 霧雨は、ギフトに目覚め、育った孤児院を出てから暫くして、死の危機に陥った所を、桐生に救われた。


 桐生も、霧雨の稀有なギフトに一目を置き、極秘に白蛇雪と共に有能な能力者に育て上げたのだ。


 そして、当時は本当に黒夢と敵対関係にあった陽炎にスパイとして送り込み、内部からけしかけさせ、全面戦争後は陽炎のボスとして、適度に黒夢と敵対関係を維持させた。



 全ての事実を知った黒夢ナンバーズは、桐生の行動に理解を示す者がほとんどだったが、中にはどうにも自分の中で消化出来ない者もいた……。



「……はぁ」


 黒夢本部・カフェブースでは、最近は気が付けばため息を吐いているイーヴィルが、注文から一時間経過して氷が溶けてしまったアイスコーヒーを目の前にして項垂れていた。


「相変わらず……いつまで湿気た顔してんのよ」


「……ミートゥ」


 そこへ、同じく疲れた雰囲気のティザーがやって来た。



 ドイツでの任務後、空港に降り立った彼らを待っていたのは、個別任務のため所在不明とされていた桐生だった。


 そして、桐生は急用だと言ってブライトだけを連れて行き、気が付けばブライトは最大のテロを起こした上、粛清された。


 ……だが、イーヴィルもティザーも、桐生がブライトを粛清したなどとは信じなかったし、実際に桐生本人もそれは否定した。


 それでも、その後ブライトが行方を眩ましたのは事実で、桐生や他の黒夢の仲間達も、何故そんな事になったのか分からずにいたのだ。 ……イーヴィル以外は。



(あれから半年……。 ドイツでカズールが言ってた事が事実なら、もう光輝は自我を失ってるのかもしれない。 ……クソッ、結局俺は、アイツに何もしてやれなかった……)


 イーヴィルは、あれから必死でブライトを探したが、居場所を特定出来なかった。

 ドイツに向かったのではないかとカズールにも連絡したが、駄目だった。



「上が出した法案、近々国会でも可決されそうだって、ラインさんも言ってたわよ」


「……へ~、そっか。 そりゃなによりだな」


 気の抜けた会話をする2人。


 ティザーもまた、自分の中で消化不良の気持ちを抱えていた。


 ブライトの異変に気付きながら、結局自分は何も出来なかった。あれこれと理由をつけて、想いを伝える事も。



 そんな、後悔に苛まれて覇気の無い2人の下に、ヴァンデッダがやって来た。


「相変わらずね、2人とも。 ナンバーズが2人も揃ってそんなんじゃ、他のメンバーに悪影響なんだけど?」


 苦言を呈しつつも、ヴァンデッダもこの2人が何故こんな調子なのかを知っているからか、あまり強くは言えずにいる。


 桐生の策略は、全ては理想実現のためだった。 ヴァンデッダ自身は、それで全てを飲み込んだ。


 だが、ブライトが居なくなり、改めてナンバーズのナンバー1となったジレンと、ナンバーズ最古参であるクロノスが、桐生に対して僅かではあるが猜疑心を抱いていたのだ。


 霧雨の影の軍勢の中に、かつての仲間であるロージアがいた事で、内通者がいるのではないかとクロノスは考えていたのだが、ふたを開けてみれば内通者が桐生だったのだ。


 霧雨自体が元から桐生通じていたのだと知っても、クロノスと……かつての恋人だったロージアを影の軍勢にされたジレンは、なら仕方ないとは思い切れずにいる。


 ナンバーズの中心であるジレンとクロノスがそんな状況なのだから、ヴァンデッダもイーヴィルやティザーに強くも言えなかったのだ。



「そういえば、あなた達のお友達の風香ちゃん、長期の休暇をとったらしいわよ」


「風香が?」


 ティザーにとって、風香は妹の様な存在だったが、ブライト粛清以後、かれこれ半年以上も連絡をしていなかった。


 表向きで光輝が死んでからも、ティザーは瑠美としてたまに風香とメールや電話などで連絡は取り合っていたのだが、瑠美が黒夢の一員だとバレると何かと不都合だと考え、次第に疎遠になってしまっていた。


「うん、東北の任務に向かった直後らしいわ。 なんか、急に休みを申請して、こっちにも帰って来てないみたい」



「…………ヴァンデッダさん、東北って、どこら辺?」


 イーヴィルが何かに気付いた様に、ヴァンデッダに問い質す。


「仙台ってフェノムが出現しなかったでしょ? だから、華撃隊が近辺を調べる任務に赴いたらしいの」


 イーヴィルは考える。


 曲がりなりにも風香は国防軍の将軍だ。 どんなに辛い目にあっても、表立って休暇をとった事はなかったはず。

 そんな風香が休暇をとった。 しかも、任務で赴いた東北に、そのまま滞在しているかもしれない。


 ここから導きだされる答えは、可能性としてはそれほど高くはない。だが、八方塞がりだったイーヴィルにとっては、行方不明になった親友を探すためには充分な情報だった。


 ヴァンデッダとしても、イーヴィルがその考えに至る事を知って、敢えてこの情報をもたらしたのだ。



「仙台近辺だな? よし……」


 直ぐにでも向かおう。 そう決意して立ち上がったイーヴィルだったが、目の前に現れた存在によって動きが止められてしまった。


「ボ、ボス、どうしたんですか? 怖い顔して……」


 イーヴィルの目の前には、冷静ではあるが怒りが滲み出ている表情で立っている桐生がいた。


「イーヴィル……貴様、ブライトの事でこの俺に黙っていた事があったな?」


「えっ……」


 ブライトの事。 イーヴィルは桐生が、言えずにいたリバイブ・ハンターの事を言っているのだと瞬時に察した。


「なっ……なんでっごはっ!?」


 次の瞬間、イーヴィルは桐生に殴られ、カフェのテーブルを巻き込んで激しく転倒した。


「貴様がした事は、俺に対する裏切りだ……」


 桐生はそう言ってイーヴィルを一睨みすると、去っていってしまった。



「ちょっと、アンタ、ボスに何したのよ!?」


 倒れたイーヴィルをティザーが起こす。


「ぐっ……いってぇ……」


 痛かった。 殴られた頬は勿論だが、尊敬する桐生に裏切りだと断罪された心が。



 言えなかったのは、ブライトのためでもあり、桐生のためでもあった。


 でも、桐生にしてみれば、自分はイーヴィルに信頼されていなかったのだと感じたのだろう。


 リバイブ・ハンターの秘密を知れば、桐生はブライトを殺すかもしれない。 確かに、イーヴィルの中でその不安は拭いきれなかったから。



「……あ~あ、俺ってやつは……」


 何もかも中途半端だと、イーヴィルはまたひとつ、後悔を重ねてしまうのだった……。

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