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第112話 この国を破滅させる者

 他の場所から六本木ビルズ屋上に集結した黒夢ナンバーズの面々は、そこであり得ない状況を目にしていた……。


「まさか……クロノスが……」


 ジレンが、信じられないといった表情で地面に転がるクロノスの右足……膝から下の部分を見つめていた。



「クロノス先生を倒せるほどの実力者が陽炎に? あり得ない……きっと、何か卑怯な手を使ったんだわ!」


 普段は感情を表に出さないヴァンデッダも、怒りと悲しみが入り交じった表情を浮かべている。

 それほど、クロノスの存在は黒夢にとって大きなものだったのだ。


「いや、陽炎のトップ・霧雨なら……もしかしたらクロノスを倒せるかもしれない。むしろ、それしか考えられん」


「霧雨? アイツ、滅多に表に出て来ないじゃない。それほどの力を持ってるの?」


「……ボスが以前、霧雨は表に出てくる事は少ないだろうが、もし遭遇しても極力戦うなと、前に言っていた」


 桐生が警戒するほどの実力者。だとしても、クロノスをやられたのであれば、黒夢メンバーであれば黙っていられない者がほとんどだろう。



「……うおおおおおっ! ゴリに続いてクロノス先生まで……許せねぇ。ゼッテーに許せねぇ!」


 クロウが、涙を流しながら地面を叩く。


「先生……私たちは、まだ何も恩を返せていなかったですのに……」


 キララも、頬をつたう涙を拭っている。


「クロノスのオッサン……せめて、成仏してくれよ」


 セブンもまた、神妙な顔つきでクロノスの死を悲しんでいた。



「俺たちが動いたにもかかわらず、三ヵ所で爆弾が爆発し、国防軍にも今回の件の主犯が俺たちでは無いことを印象付けるのに失敗した。……まったく、ボスがいないだけでこれとは、情けない」


 桐生、そしてブライトやイーヴィルがいない現状、完全に陽炎相手に後手に回っていることに、ジレンは責任を感じていた。


(ボスやブライトがいたら、こんなことにはなってなかったかもしれない。イーヴィルがいれば、あちらの思惑を読み取り、最善の手を考えたかもしれない。……クソッ、俺は結局、長い間ナンバー2の座に胡座をかいて、一体何をしてたんだ?)


「……陽炎は、一人残らず殲滅するぞ」


 ジレンが、底冷えする声で言うと、それにクロウも同調する。


「ったりめーだ! ゴリを殺した神戸ってヤツは、ぜってー俺が殺す!」


 この場にいるナンバーズが全員、本格的に陽炎を壊滅させる決意を、死んだクロノスに向かって誓う。



 ……すると突然、地面に円が現れた。


 この円がクロノスのギフトだと知る面々は、それぞれ顔を見合せる。


「ねぇ、これって、クロノスの……」


「ああ。クロノスのワールド・ディメンションの亜空間への入口だ。つまり……」


 ギフトが発動した。という事は、クロノスは生きているという事だ。



「マジか!? 良かった~! 先生、早く出てきてくれよ!」


 だが、いつまで待ってもクロノスは亜空間から出てくる気配はない。ジレンは、クロノスが動けない状況なのだろうと考える。


「……俺が入る。恐らく、クロノスは動けないのかもしれん」


「え? クロノス先生の亜空間って、クロノス先生以外入れないんじゃ……」


「いや。身体全体でしっかり円の中に入れば行けるハズだ」


 ジレンが言った通り、クロノス本人でなくとも亜空間には入れる。ただ、その際に誤って円の外に身体が触れてしまうと、その部分だけ残る……つまり、切断されてしまうのだ。



「じゃあ行くぞ」


 身体を垂直にして円にスッポリと侵入すると、ジレンが円の中に吸い込まれていった。


 亜空間の中は薄暗く、空気が薄い。そして、目の前には身体中傷だらけ、右足を失った状態で倒れているクロノスがいた。


「よ、よう、ジレン。下手打っちまったぜ……」


「クロノス! 大丈夫か!?」


 ジレンが直ぐ様クロノスを抱き起こす。傷は酷いが自分で応急処置をしたのだろう。すぐに治療すれば命に別状は無いと判断できた。


「やはり、霧雨か?」


「……ああ。悔しいが、桐生が警戒するのも分かる。ヤツとは、絶対に勝てる自信がなければ戦うべきではない」


 負ければ、むざむざ霧雨の兵隊を増やすだけ。以前桐生がジレンに霧雨とは戦うなと言ったのもそれが原因だった。


「俺は命からがら、この亜空間に逃げ込むことが出来た。代償として足一本やっちまったが、なんとか自分の影をくれてやるのは阻止出来た」


「影を?」


 クロノスは亜空間に逃げ込んだ後、地上の様子を見ていた。そこには、クロノスの右足を残念そうに見つめ、あからさまに落ち込んだ様子で霧雨が帰っていったのを。


 霧雨のギフト、シャドウ・デイドは、生きた人間を影にする事は出来ない。それは、身体から引き離された一部であっても、本体が存命であれば影を引き抜く事は出来きないのだ。


 だが、死んでさえいれば、例え身体の一部からでも影を引き抜く事は可能。勿論、指一本などでは小さすぎるが、膝から下の足程度の大きさがあれば可能となる。



 クロノスは、自分が把握している霧雨のギフトをジレンに告げる。死者から引き抜いた影を、兵隊として甦らせるという規格外のギフトに、ジレンも霧雨が警戒していた理由を知った。


「ヤツのギフトで使役された影の軍勢は、あの小野田と……ロージアまでいやがった」


「なぜロージアが!? ロージアを殺したのは小野田だろう? あの時、霧雨は陽炎の一員じゃ無かったハズだ!」


 五年前の決戦には、ジレンもナンバーズとして参加していた。だから、あの時点では霧雨が陽炎の一員では無かった事を知っている。


「別に自分で殺さなくとも、死体ならヤツは影を抜き取れるんだろう。どうやって小野田やロージアの死体と接したかは分からんがな」


 ロージアの遺体は黒夢で手厚く葬ったし、小野田の遺体も黒夢が処分したのだ。霧雨はおろか、部外者が二人の遺体に接することなど、黒夢のメンバー以外には考えられない。


「……まさか、陽炎の内通者がウチに?」


「考えたくは無いが、可能性は低くないだろうな。さて、そろそろキツくなってきた。上に出してくれ」


 自分では立てないほどの重傷を負ったクロノスを抱え、ジレンは円から飛び出す。



 クロノスの生還に、ヴァンデッダをはじめクロウとキララ、セブンも歓喜した。


「とにかく、貴方が生きていてくれて良かったわ、クロノス」


「すまんな。まったく、弟子たちに情けねえところ見せちまったな」



 陽炎の冠城による中継から五時間が経過した。成果としては、二ヵ所で爆発を阻止、一ヵ所は国防軍により爆発は阻止され、三ヵ所で爆発させられた。


 結果を見れば、黒夢側は陽炎側の動きを阻止しきれなかったと言える。


「過ぎた事は仕方ない。そろそろブライトやイーヴィルたちも帰って来てるだろう。アイツらには帰ったら本部で待てと言ってあるから、俺たちも一旦本部に戻り、今後の対策を練るぞ」


 ナンバーズの面々が一旦本部へ戻ろうとすると、ジレンの黒夢端末の着信音が鳴り響いた。


「どうした、ライン……」


「とにかく、今、端末に動画を送ったから確認しTE!」


 電話でのラインの慌てた口調に、ジレンはまた厄介事が増えたのだろうと予想した。


 そして、その場にいる全員で端末に送られて来た動画を確認する。


 その動画は、生中継の映像で、国会議事堂前にて女性レポーターが興奮気味にまくし立てている映像だった。



『こちら、国会議事堂前です! 只今入ってきた情報によりますと、今回の黒夢爆弾テロ事件に関する緊急事案対策会議が開かれていた会議室に、あの黒夢のブライトと名乗る男が侵入し、内閣総理大臣を含む政府高官十数名を殺害した模様です!』


「…………なに?」


 全員が状況が掴めず、映像を見続ける。


『監視カメラの映像では、会議最中、漆黒の男が突然姿を表し、まず内閣総理大臣を殺害。続いて、広範囲の攻撃で数十名の議員を殺害しました模様です。そして、最後に監視カメラに向かって何かを呟き、再び姿を消しました。音声は聞こえませんが、口の形で何を言ったか判別が出来ました』


 流石に人が殺される映像を地上波放送に流す事は控えられているため、レポーターの声で状況を想像するしかない。


 確認のため、ジレンは慌てて本部に電話をかける。他のメンバーは、息を飲んで動画を見つめていた。


『ブライトはこう言っていると思われます。我が名は闇の閃光・ブライト。この国を、破滅させる者だ……と』



「……なんだと? イーヴィルとティザーは帰って来てるが、ブライトはいない? どういう事だ!? とにかく、すぐにそちらへ向かう!」


 ジレンが荒々しく電話を切ると、他のメンバーも不安げにジレンを見る。


「……訳が分からん。とにかく、すぐに本部へ向かう。全員一ヵ所に集まってくれ。……行くぞ」


 ジレンは転移石を真上に放り上げる。すると、光が降り注ぎ、一瞬にして全員がその場から黒夢本部へと転移した。



 本部会議室では、帰国したイーヴィルとティザー、そしてラインが、ジレンたちを待ち構えていた。


 クロノスは怪我が酷かったため医務室に直行。


「どういうことだ、イーヴィル! ブライトはどこに行ったんだ!?」


 ジレンに問い詰められたイーヴィルは、俯いたまま……小さく呟いた。


「ブライトは……黒夢を抜けました……」

※一迅社様より、『漆黒のダークヒーロー~ヒーローに憧れた俺が、あれよあれよとラスボスに~』が絶賛発売中です! まだの方は是非! 是非読んでみて下さいね!

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― 新着の感想 ―
[一言]  なんかイチャモン付けている人いるけど、あんまり相手にしない方が良いと思う。  作風が嫌いなら、『なら見るなよ、さっさとブラウザバックしろよ』って言いたい。  何の生産性もない奴が、クリエー…
2020/07/10 23:10 通りすがりの一読者
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