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第111話 影の軍勢

 ――六本木ビルズ・屋上




 黒夢ナンバーズ最古参のナンバー3、空間の支配者と言われるクロノスは、爆弾設置箇所の一つである六本木ヒルズに来ていた。


 爆弾予告があった為、一般人の待避は済んでいたが、代わりに多くの警察官や軍人がいた。



 しかし、クロノスはそんな大勢の警察官や軍人の目を掻い潜り、屋上まで辿り着く。するとそこには……


「まさか、おまえが表舞台に出てくるとはな……」


 五人の手下を後ろに従えて目の前に立っている陽炎のボス・霧雨が、地上六○階の屋上から街並みを見下ろしていた。


「ここは高くて、見晴らしが良いからね。それにしても、かつては桐生以上の実力者と言われた空間の支配者・クロノスが現れるとは……ラッキーだね」


 霧雨は、心底嬉しそうに笑う。その頭の中では、もうクロノスを自分の影として使役することしか考えてなかった。



「ほう、この俺を前にしてその余裕とはな。伊達に陽炎のトップを張っている訳じゃないか。だが……その余裕はすぐに絶望に変わる」


「いいね~。じゃあとりあえず、ウチのメンバーの相手してあげてよ」


 手下の五人がクロノスに向かって身構える。


「さあ君たち、このオジサンを倒せたら、君たちを新四天王に抜擢してあげるよ。頑張ってね」


 その言葉に、手下たちはやる気を漲らせている。クロノスが本部を離れて五年。それ以降、表だった活動はしてこなかった事もあり、この場にいた陽炎の若手メンバーはクロノスを知らなかったのだ。


「やれやれ……俺も甘く見られたものだな」


 手下たちが一斉にクロノスに向かって飛び掛かる。


 クロノスは手下の一人に向かって掌を向けると、掌に張り付いたようなサッカーボール大の円が出現し、そのまま顔面に触れる。すると、顔面だけが綺麗に消えた。


 続けざま、一人を袈裟に、もう一人は腹に、円で触れることで、触れられた箇所だけがスッポリと消え去ってしまった。



「相手に触れただけで、触れた箇所を消し去るなんて……。ウフフッ、ますます楽しみだよ。君が僕の影になるのがね」


「大した余裕だな。生きて帰れると思うなよ?」


「その言葉、そっくりそのままリターンフォー・ユーしてあげるよ……」


 突如、霧雨の周囲に三〇体の影が出現する。そして、影の一体が残った手下を邪魔だと言わんばかりに斬り捨てた。


 今回の影の兵隊は、黒夢の支部に送った影などでは無い、霧雨のコレクションの中でも精鋭の影たちだった。



「……影の軍勢か。噂には聞いていたが、こいつは恐ろしいギフトだな。他に類を見ない」


 影の中には、クロノスも知るような、かつての実力者の影も存在していた。


「さあ、影よ、全力でヤツを倒せ」


 影が一斉にクロノスに飛び掛かる。


「……ふう、この数をまともに相手するのは骨が折れるな……」


 クロノスが己のギフト、【ワールド・ディメンジョン】を発動する。すると、自身の足元に半径一メートルの円が出現し、クロノスがその円に飛び込むと、クロノスの身体がその場から……いや、この空間から消えた。


「消えた? これが、クロノスのギフト、ワールド・ディメンジョンか……」



 辺りにクロノスの気配は無い。が、霧雨の後方に円が出現すると、そこからクロノスが出てきて……


「終わりだ」


 霧雨の首筋に、円を纏った掌で触れようとする。


「……なにっ?」


 ……が、その攻撃をを巨体の影がブロックする。当然、ブロックした腕は消えたが、生物では無い影は出血することも痛みを感じることもなく、ただ腕を失っただけで平然としている。


「わお! 流石は空間の支配者! ホントにいつの間にか移動しちゃうんだね!」


 霧雨は興奮を隠しきれずに笑みを浮かべる。


「チッ、何体の影を出せるんだ、おまえは」


 クロノスは再び円の中に飛び込み、姿を消した。



 円の中は、亜空間となっており、天井は地上の状況が透けて見えるようになっている。


 ワールド・ディメンジョン。ギフトランクSのワールドを冠するギフトで、実際の世界と少しだけズレた亜空間を創り出す能力。これにより、先ほどの様に小さな円であれば、その円で触れた箇所を亜空間に送ることで強力な攻撃にもなり、大きめの円を創って出入りすることで移動も可能となる。


 亜空間は地面の下に最大で一キロ平方メートルの広さの空間を創り出すことが可能。その亜空間の中には、円を通じてでしか入って来れないので、完全な安全地帯ともいえた。



(さて、霧雨自身を専守する影が存在する以上、普通にやっていたらこちらの攻撃を当てるのは困難だな。ふむ、霧雨右京か……噂には聞いていたが、本当に厄介な奴だ)


 霧雨のギフト自体が有用なのもあるが、結果としてクロノスが単体で戦ったとしても厄介と思える影が幾つか存在していた。そんな強力な影たちを意のままに使役している時点で、やはり霧雨も最高クラスの能力者と判断できた。


(このままやり過ごして援軍を待つのも手だが、今回の件では後手に回らされている。だが、ここで霧雨を潰せば陽炎は崩壊。万事解決か……。仕方ない、最善の注意を払いながら仕掛けるか)


 亜空間には制限的な時間は無い。クロノスがその気なら、スタミナが続く限り隠れていることが可能だ。

 そして、万全の体調なら、まる一日は亜空間を維持するだけのスタミナがクロノスにはある。


 本来なら、敗れる可能性がほんの僅かでもあるとすれば、霧雨との戦いは避けた方が無難だとクロノスは判断しただろう。死ねば、自分も影の一員となるのだから。


 だが、今は桐生が不在。その上、ナンバーズもナンバー1を含む三人が不在。

 既に爆弾が起爆した場所もあり、完全に後手に回らされている。


 この状況を変えるのは自分の役目だと、クロノスは決めたのだ。



「え~。まさか、逃げたんじゃないよねぇ? だったらガッカリだなぁ……折角、強力な仲間が増えると思ってたのに。やっぱり歳をとると逃げ腰になるんだねぇ」


 地上では、霧雨が面白くなさそうに愚痴っているが、そんなものクロノスにはお構い無し。


(勝手に言ってろ。こちらは淡々と作業を行うのみ)



「ん~、案外気が長い方なんだね。どうしようかな~、もうここを爆発して、帰ろうかなぁ」


 クロノスが姿を消してから五分。五分経った所で、霧雨はようやく異変に気付く。


「……影が、減ってる?」


 辺りを見渡すと、当初三○体いた影が、今は二○体に減っていたのだ。


「やられた……影たちよ! 足下に気を付けろ!」


 霧雨の指示により、影たちも足元を警戒する。突如現れる円に反応出来ず、次々と身体を引きずり込まれていく影もいたが、やはり生前に実力者だった影は円を回避し始めた。


(大分数は減らせたな……。よし)



 遂に、円からクロノスが出現する。両手に円を創って。


「残りの影は一〇体か……。覚悟はいいか? 霧雨」


「フフフッ、やっぱりおまえは本物だ、早く僕のものになってよ!」


 残った影は精鋭中の精鋭。中でも、クロノスの目を引いたのは、甲冑に身を包んだ長身の女性の影だった。


「ロージア……まさかおまえとこんな所で再び会えるとはな……」


 ロージアと呼ばれた影は、何も応えない。ただ、揺らめくだけ。



 ロージアはかつての黒夢ナンバーズ、ナンバー8。桐生やクロノスと共に、黒夢の立ち上げメンバーの一人でもあった人物。


 霧雨が陽炎のトップになったのは五年前。それからは黒夢と陽炎は敵対はしつつも、本格的に抗争にまで陥ることはなかったのだが、前陽炎のボスの頃は、フィルズ組織の覇権争いが激化しており、最終的にお互いかなりの死傷者を出した最終決戦において前陽炎のボスを桐生が討ち取り、覇権争いは黒夢に軍配が上がったのだが、ロージアはその決戦の際に命を落としたのだ。



「懐かしい? だったらもう一人、懐かしい人を出してあげるよ」


 霧雨が新たに影を出現させる。ここまで出していなかったことから、この影こそが霧雨の切り札なのだろう。


「……なるほど、貴様まで影として使役されていたか。小野田剛顕……」


 その影は二メートルの長身で、生前は破壊の剛拳と呼ばれた、前陽炎のボス・小野田剛顕だった。



「やれやれ……これは流石に旗色が悪いな」


「そう言いつつ、やる気満々みたいだけどね」


 クロノスが溜息を吐く。だがその目は、霧雨の言った通り、闘志……というより、怒りにが充ちていた。


 かつての仲間であるロージアを、己の影として使役していたことに対する怒り。

 そして、小野田には多くの仲間が殺された。それを思い出しての怒り。


 二つの怒りが膨れ上がり、クロノスから冷静さを失わせた。



(ロージアと小野田を同時に相手するとはな……。なんの巡り合わせだよ。だが……)


「所詮は自意識の無い影だろうが!」


 怒りを抑えきれず、残った影に真っ向から突進するクロノスを、ロージアが前に出てきて迎え撃つ。


 ロージアのギフトは槍を具現化する能力、【マテリアル・グンニグル】。ギフトランクはA+。その手から放たれた槍は、必ず標的に命中するとまで言われていた。


 ロージアは槍をクロノスに突き出すが、クロノスはそれを円で飲み込む。


「やはり、所詮は影。本物のロージアの槍の軌道は、こんなに簡単に読めなかった!」


 勢いそのままに、ロージアの頭を円で飲み込もうとすると、横から小野田の拳が飛んで来た。


「チイッ!」


 クロノスは咄嗟に、ロージアに向けた掌で小野田の右拳を飲み込む。が、小野田は右手を飲み込まれながら、空いている左の拳を振るった。


「うおおおおおっ!」


 それを、クロノスももう片方の掌の円でブロック。小野田の両拳を消し去る。……が、ロージアが消された槍を再び具現化し、クロノスの腹を貫いた。



「ぐふっ……、い、痛みを感じない影どもがっ!」


 腹を貫かれながらも、クロノスはその場で回転し、その回転を利用してロージアと小野田の頭を消し去った。


 クロノスは、この二人を相手に、最初から無傷で勝てるとは思っていなかった。だから、大ダメージを受けたとしても、確実に始末できる方法をえらんだのだ。


「ひゅ~。確かに、影は所詮影。パワーは上がってるんだけど、生前の経験を活かせるほどの意識は無い。それでも、あの二人を一瞬で倒すとはね。まぁ、代償は大きかったみたいだけど」


「ふん、ギリギリ急所は外してる。あの二人さえいなければ、残りは問題にならない」


 もっとも厄介な二体を倒し、残る影は九体。


 霧雨本人の戦闘力は分からないが、残りの影なら充分倒せるとクロノスは考える。


(これだけの影を操るんだ。本人の戦闘力が高い訳が無い。しかも、スタミナだってもうギリギリだろう)


「確かに、あの二人がいないと、オジサンの相手は厳しいだろうね。だから……ほら」


 霧雨の言葉と同時に、ロージアと小野田の影が再び現れる。


(どうなってんだ? 影の使役にスタミナは必要ないのか、それともアイツのスタミナは底無しか?)


「オジサンの考えてることは分かるよ。だから、答えてあげる……」


 次々と影が出現する。気が付けば、六本木ビルズの屋上を埋め尽くす程の、影の軍隊がクロノスを囲んでいた。



「不思議なことに影を出現させるのにスタミナはいらないんだよね。だから、僕が死ぬまで影は何度でも現れる」


「……なるほど。あの桐生が一目置いていたのも納得の化物だな」


 言いながら、隙を作って足下に円を出現させる。クロノスはこの状況で、戦う選択肢を選ぶほど無謀では無かった……が、円に飛び込もうとした瞬間、一体の影が猛スピードでクロノスに体当たりを喰らわせた。



「ぐっ……!?」


「どうだい? その影は生前、スピード・スターのギフト能力者だったんだよ。なんでも、国防軍でもかなりの実力者だったけど、素行が悪くて除隊したんだって」


 クロノスは知る由も無かったが、その影は、光輝をギフト能力者に目覚めさせた、あの黒崎だった。



 刺された脇腹からの出血は致命傷ではなくとも、長引けば命の危険に繋がる。


(……って、それ所じゃないか。あの時、ロージアと小野田の影に冷静さを失ったのが敗因か……いや、霧雨を叩く選択をした時点で失敗だったか。情けない、長い間一線から離れて勘が鈍ってたようだな……)


「さ、影たちよ。全身全霊で、空間の支配者・クロノスを……倒せ」


 ロージアと小野田を先頭に、一斉に影の軍勢がクロノスに襲い掛かった。



「やれやれ……この俺が、こんな所で……」


 クロノスは一度天を仰いでから、最期の力を振り絞る様に、影の軍勢に立ち向かって行った……。

書籍版『漆黒のダークヒーロー』、絶賛かどうかは分かりませんが発売中です!まだの方は是非!


そして、次回の更新は三日後になります。ようやく、ブライトの出番ですので、お楽しみに!

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