第11話 狂気の目覚め
※一部描写を追記しました。
『…リバイブ・ハンターの能力発動により、“インビジブル・スラッシュ”を習得しました』
「ハッ!?」
頭の中で声が鳴り響き、目を覚ます。
身体は完治している。どういう理屈か、離れていた下半身も元通りだだった。
蘇った…。不安ではあったが、取り敢えず二度目のリバイブ・ハンターの発動が成功したのだ。
…一度ならず、二度も死んだ。たった一日、時間にして僅か2~3時間の間に。
蘇る条件は何なんだろうと考える。もしかしたら無限に蘇るのかとも考えたが、それではあまりにも非常識過ぎる気がした。
「…そういえば、リバイブ・ハンターの能力発動と一緒に、また別の能力を習得したって声が聞こえたな」
“インビジブル・スラッシュ”。
不可視の斬撃…。恐らく、自分を殺した冴嶋のギフトなのではないかと考える。そして、最初に自分を殺した黒崎を、冴嶋はスピード・スターと呼んでいた。
そこから導き出される答え……リバイブ・ハンターの能力は、ただ蘇るだけでは無い、殺された際、その相手のギフトを習得する能力なのではないか?
光輝が辿り着いた答えが合っているのなら、とんでもないギフトである。なにせ、殺されれば殺される程、新たなギフトを習得するのだから。
にわかには信じ難い心境だった。しかし、仮にそうだったとしても、ギフト能力には制限が存在する。強力な能力であればある程、回数の制限や制約があるのだ。それを考えれば、死ぬ行為はリスクが高過ぎる為、簡単に能力を増やそうとは思えない。
…だが、そんな事よりも、光輝の中には比呂と、それ以上に自分を殺した冴嶋に対する激しい怒り…それを越えた殺意が沸き上がっていた。
比呂は、自分の能力とスピード・スターの能力は相性が悪いと言っていた。だが、一つの可能性として、今回インビジブル・スラッシュを習得した事で、スピード・スターが上書きされていないとも限らない。能力に制限や制約があるのなら、あり得ない話では無い。
試しに、スピード・スターの能力を発動する。発動と同時に、一瞬で50メートル離れた工場の壁に辿り着いた。どうやら能力の上書きはされていない様だ。
「…だとすると、やっぱり、スピード・スターに加えて新たにインビジブル・スラッシュを習得したって事か…。スゲエ…スゲエぞ、俺!!」
長年ギフトを求め、漸く発現しただけでは無く、一気に三つものギフトに目覚めたのだから、興奮しない方がおかしいだろう。
「よし…折角だから、インビジブル・スラッシュも試すか………フン!」
壁に向かって、袈裟に手を振る。すると、壁に斬撃が走った。
「これがインビジブル・スラッシュ…。なんて威力だ…」
斬られたコンクリートの壁は、斬り口が削られていた。
比呂にとって相性が悪いであろうスピード・スターの他に、更にインビジブル・スラッシュなるギフトまでも手に入れた。先程相対した限り、比呂には冴嶋に感じた威圧感も感じなかった。
直ぐに殺すか?…とも考えたが、それでは面白く無いと思い直す。光輝は比呂によって、知らなかったが日々の生活をかなり妨害されていたのだ。一瞬で殺すなんて勿体無いと。
「いずれ…アイツが最もダメージを受けるタイミングとシチュエーションで、とことん無様に殺してやるか…。今はそれよりも…」
冴嶋…。自分を野良フィルズと決め付け、そして殺した相手。今思い出しても震えが来る程の強者。
直ぐにでも殺したい。でも、今の自分では絶対に勝てないだろう。
やり場の無い殺意が光輝の中を駆け巡る。
国防軍は幼い頃からの憧れだった。つい数時間前、能力が発現した事で、その憧れに手が届くと歓喜した。なのに、もう光輝の中では国防軍に入り、ヒーローになりたいと云う欲求は無かった。むしろ、国防軍に対しては失望していた。
喋れなかったからとは云え、無実の自分は一方的に殺されたのだ。その理不尽な行為に、長年の夢すら冷めてしまっていたのだ。
冴嶋への意識を逸らす様に、比呂の事を考える。
だが、あの幼なじみの皮を被った糞野郎を殺す為には、今はまだ自分が無能力者だと思わせていた方が何かと都合が良いだろうと判断した。
「フフフ…お前は、お前が見下していた俺に、惨たらしく殺されるんだ…」
表情を歪めながら、その光景を思い浮かべただけで、光輝は晴れやかな気分を味わっていた。
その時、工場に清掃業者の様な人間4人が入って来た。
「…あれ?どこにも死体が無いぞ?」
「そんな訳無いだろう?冴嶋中尉のギフト能力で胴体真っ二つにされたって報告があったんだぞ?」
「だよな。仕方ない、探すか」
恐らく柏倉が言っていた死体処理班だろう。別にこのまま逃げても、光輝が死んで無かった事は国防軍にも伝わるだろう。
でも光輝は、より強烈なメッセージを、比呂や冴嶋に送ってやりたい衝動に駆られた。
先程も感じた溢れ出る感情の正体。それが、殺意が誘発したものだと云う事に、光輝自身はまだ気付いていない…。
転がっていたアルミの切れ端を手に取り、スピード・スターを発動させ、一瞬で死体処理班の一人の首を掻き斬る。声も出せずに崩れ落ちる男。
「ん?どうした…ばっ!?」
今度はインビジブル・スラッシュで胴体を袈裟斬りに斬り裂く。
「なんだ?どうしたんだ?」
「…いや、なんでも無い」
「なんでも無い?だって、なんか音がしたじゃないか?」
「音って?どんな?」
「どんなって…」
言い掛けた男の腹に貫手で風穴を開け、手を引き抜くと、ドサッと音をたてて男は倒れた。
「ああ、今の音ね…」
「だ、誰だ!」
自分以外の三人の死体処理班が倒され、流石に最後の一人が異常に気が付く。
光輝は、あえてその男の前に姿を現した。
「な、なんなんだ、お前…」
光輝の傷は回復していたが、流れ出た血までは消えていない。よって、その顔は乾いた血に染められている。その上建物内は、窓から月の光が差している箇所以外は暗闇なので、素顔を判別する事は出来ない。
「お前の他の奴等は…眠ったぞ?」
「え?……ひっひいいいいい!!?」
最後の一人も、無惨に殺された仲間の死体を見つけたのだろう。腰を抜かして尻餅をついてしまった。
光輝はゆっくり男に近付いて、耳元で囁く。
「冴嶋と真田に伝えろ。俺は死んでないってな。そして、必ずお前らを殺してやるから、楽しみにしておけ…と」
「は、はいいいっ!ぐふっ!?」
「フフフッ…アハハハハハッ!!」
男の鳩尾に蹴りを落として気絶させると、光輝は大声で笑った。
「俺は力を手に入れた!とんでもない力を!これからまだまだ強くなる…。そして、必ずお前らを殺してやる!楽しみにしておけ!!!」
狂気に満ちた笑顔で吠えるその姿には、ヒーローに憧れた少年の面影は、もう何処にも無かった…。
※第一章は終了です。ここまで読んで頂き気に入って頂けた方は、是非ブクマ・評価・感想・レビューをよろしくお願いします!