第109話 喧嘩上等
――新宿・スタジオA
数年前までテレビの収録などで毎日使用されていたが、建物の老朽化が進み、今はもう使われていない新宿スタジオA。
劇場に設置された爆弾をいち早く発見した国防軍の爆弾処理班は、爆弾の解体作業に取り掛かっていた。
そしてその光景を、ステージ照明装置から、陽炎の四天王・神戸が見下ろしていた。
(それにしても、他の爆弾設置個所からも報告がきているけど、なぜこんなに国防軍の動きが迅速なんだ? 国家組織の情報網を少し甘くみていたかもしれないな……)
神戸としては、先に黒夢側が爆弾を解除しに来ている所に国防軍がやってきて、交戦させるのが理想だった。その際、黒夢側と国防軍側を焚きつけるために、神戸が潜んでいたのだ。
ここまでは、概ね予想通りに計画が進んでいる。スカルとジョーカーを使い、このテロがやはり黒夢の仕業だと国防軍や世間へ印象付ける事に成功したので、各地で黒夢と国防軍の交戦が勃発しているのだ。
(なのに、亀山の脳筋ったら、欲望に負けて国防軍が来る前にジレンとバトルを始めちゃうんだから……まあ、あんな脳筋が一人やられた程度では計画に支障は無いからいいけどね)
そうこうしているうちに、国防軍が爆弾の処理を終えそうになる。
(ふむ、黒夢がやって来る前に爆弾を処理されてしまうのは予想外だったな。……少し、横槍を入れるか)
「さ、出番だよ。しっかり仕事をしてきてね」
神戸の後方に潜んでいた男が身を乗り出す。
「チッ、やっと出番か。退屈過ぎて勝手に暴れちまおうかと思ってたぜ」
見るからに柄が悪いマッチョなその男は、元黒夢で、喧嘩っ早さでは随一を誇っていた、『ゴリンダマン』。腕っぷしだけなら黒夢でも上位に位置する実力者だった。
ゴリンダマンの役割は、スカルたちと同様、黒夢の一員としてテロの主犯が黒夢なのだと知らしめることだった。
「で、殺していいのか?」
「……一人や二人なら良いけど、全員殺したら意味が無いだろう? それくらいは考えなくたって分かるだろう?」
神戸としては、ゴリンダマンは非情に扱い辛い男だった。なにせ、腕っぷしだけを頼りに暴れる事にしか興味がないのだから。
「ああ? テメエ、誰に口聞いてんだコラ、ああ?」
相手が所属組織の幹部でもお構いなしのゴリンダマンに、神戸は頭を抱えたくなった。だが、ここで自分たちが揉めても仕方がないと、グッと怒りを抑え込む。
「……ゴメンゴメン、少し言い過ぎた。とにかく、全員は殺さないでくれよ。適度にね」
「チッ、幹部だからって良い気になってんじゃねえぞ?」
神戸としても、本来ならゴリンダマンを作戦に組み込むなど、できれば避けたかった。だが、黒夢を離脱して陽炎に合流したフィルズの中で、スカルとジョーカー、そしてゴリンダマンの知名度は圧倒的に高く、この三人であれば国防軍側も即黒夢のメンバーだと認識出来るほどなのだ。
「仕方ねえ、国防軍のやつらでウサを晴らしてやるか」
「ああ……よろしく頼むよ」
国防軍の軍人は一〇人。そして、いよいよ爆弾の解体に成功しようとしていたタイミングで、突然爆弾処理にあたっていた軍人が、頭上から飛び降りて来たゴリンダマンに頭を踏みつぶされた。
「なっ! 敵襲!」
「むっ!? 貴様は、黒夢のゴリンダマン! やはりこのテロは黒夢が!?」
ゴリンダマンは指折り数えてニヤリと笑みを浮かべながら辺りを見渡す。
「ひ~ふ~み~よ~い~……とりあえず、五人ぐらいぶっ殺しても良いか。俺が黒夢の喧嘩番長・ゴリンダマンだ! 死にたい奴からかかってきやがれっ!」
軍人の一人が、身体能力を強化してゴリンダマンに襲い掛かる。が、その軍人はゴリンダマンのラリアット一発で宙を三回転した後に頭から地面に叩きつけられた。
「さあ次いっ!」
軍人四人が前後左右から、同時に攻撃を仕掛ける。何らかのギフトをそれぞれ使用しながらの同時攻撃だったが、ゴリンダマンはあっという間に殴り倒してしまった。
「もう六人か? 物足りね~な。やっぱ、一人残して全員ぶっ殺すか」
残された軍人は、まるで蛇に睨まれた蛙のように、ゴリンダマンに睨まれて動けない。
「なんだ? 来ね~のか? だったら、こっちから行くぜえっ!」
ゴリンダマンの拳が軍人に襲い掛かる。一撃で頭を破裂させてしまうほどの威力を伴って。
だが、ゴリンダマンの拳は、突然目の前に現れた透明な盾に弾かれた。
「これは……テメエか、クロウ」
劇場の入口、そこに、黒夢ナンバーズのナンバー8・クロウが立っていた。
「久しぶりだな、ゴリ。しばらく見ね~うちに、ますます人相が悪くなったんじゃねえか?」
クロウが、ゆっくりとゴリンダマンに向かって歩いて来る。ゴリンダマンに続いてナンバーズのクロウまでがやって来たその光景に、国防軍の軍人たちは完全に戦意を喪失していた。
「オイ、アンタら。今回の件は俺たち黒夢の仕業じゃねえぞ。コイツも、もう黒夢を抜けて陽炎の人間だからな」
クロウが国防軍に向かって言うが、軍人たちは状況を理解出来ずにいた。
「……チッ、それでも国を守る軍人か? もういいからとっとと消えろよ。さて、ゴリ……黒夢を抜けた時点で俺的にはテメエは裏切者だったけど、よりによって陽炎に入って、しかもこうも見事に裏切り行為に加担してくれるとはな。俺たちみたいなチンピラを黒夢に拾ってくれて、オメーが抜ける時も黙って容認してくれたボスに対しての恩義はどこ行ったんだよ?」
「ケッ、俺にゃあスペシャリストや一般人にすり寄るなんざ性に合わねーんだよ。フィルズはフィルズらしく、思うがままに暴れる。それが俺のモットーだからな」
クロウとゴリンダマンが、激しくガンを飛ばし合う。二人にとってすでに国防軍の存在など空気と化していた。
「んで、テメーはここにお喋りに来たのか?」
「ケッ、テメーら陽炎の糞みてえな企みを阻止しに来てみりゃあ、まさか元相棒がいるとはな。そりゃあ少しは喋りたくもなんだろ?」
クロウとゴリンダマン。二人の出会いは、中学校まで遡ることになる。
お互い気性が荒く、問題児として有名だった二人は、当然のようにぶつかり合った。
そして、三日おきに喧嘩を繰り返す日々が半年も続いた頃には、互いが互いを親友と認め合う仲になっていた。
そんな二人は、ほぼ同時期にギフトに目覚める事になる。どちらのギフトも有用な能力だったため、当然高校卒業後は国防軍への入隊を薦められたが、国家権力に逆らいたくなるのは不良のサガなのか、国防軍への入隊を蹴ってしまう。
すると、何者かが二人を抹消しようと動いたのだ。その男は、能力に目覚めたばかりの二人では到底相手にならないクラスの実力者で、二人は死を覚悟する。……が、その時二人を助け、黒夢へ迎え入れたのが桐生だったのだ。
「ボスには感謝してるさ。こうして黒夢を抜け、自由にさせてもらってるんだからな。でもな、なんで今更俺たちフィルズが、俺たちを迫害したスペシャリストや一般人に尻尾を振らなきゃいけねーんだ? おめーはそれで納得してんのか?」
「……俺は、ボスについて行くだけだ。あの人には、返しきれない恩があるからな」
「ケッ、ナンバーズになんて選ばれて、腑抜けになりやがって……」
ゴリンダマンが拳を強く握る。それが、合図だった。
「もう充分喋ったろ? こっからは、拳で喋ろーぜ! 腑抜けの元相棒!」
「腑抜けだと? 上等だ、俺のどこが腑抜けか、試してみろや!!」
ゴリンダマンがクロウに向かって走り出すが、その行く手を透明な盾が遮る。
「チッ、邪魔だ!」
その盾の硬度はゴリンダマンも理解している。なので打ち破ろうとはせず、横へ移動すると、そこには既にクロウが待ち構えており、ゴリンダマンの顔面に強烈なパンチを喰らわせた。
「オラアッ! 一発でヒヨんじゃねーべなあっ!?」
「チッ、良い気になんじゃねえっ!!」
ゴリンダマンはクロウの一撃を踏ん張り、クロウの腹を殴り返して来た。
「ゴフッ!? ……こんの馬鹿力がっ!」
「ああっ!? かかって来いやコラアッ!」
お互い防御を捨てた攻撃の応酬が続く。その光景を見ながら、神戸は苦笑いを浮かべていた。
「あ~あ。コイツらも亀山と同じ脳筋か。まったく、馬鹿だね~。僕には理解できない世界だよ。ってゆーか、一体いつまで殴り合ってんのかねえ」
「ウオオオオオオッ!」
「ラアアアアアアッ!」
殴りあうこと一〇分。お互い顔面血だらけだが、まだまだ余力を残していた。
「はあ、はあ、どうした? 黒夢抜けて、弱くなったんじゃねーか?」
「はあ、はあ、テメーこそ、ナンバーズになんかなって、甘ちゃんになってんじゃねーか」
「うるせーよ。……もう殴り合いは良いだろ。俺は、おまえを黒夢に連れ戻す」
「ああ? 何言ってんだテメー……なっ!?」
突然、見えない盾がゴリンダマンの目の前に出現する。そして、次々と盾はゴリンダマンを包囲するように出現し、遂には完全に閉じ込めてしまった。
「……おい、どーいうつもりだ? 」
閉じられた空間で、ゴリンダマンはクロウに不満を洩らす。
「……ボスには俺も一緒に頭下げてやっから、もう一度黒夢に戻ってこーよ」
クロウは、ゴリンダマンが今回のテロに荷担していたにもかかわらず、黒夢に戻そうと考えていた。
「はぁ? テメー、頭おかしいんじゃねーのか? 俺は、俺の意志で黒夢を抜けたんだぞ?」
「オメーは何にも分かってねえっ! 今回ウチらは、テロに荷担した奴は、陽炎だろうがそうじゃ無かろうが生かしておくつもりはねーんだ。でも、オメーは俺の元相棒だ。だから、俺が頭を下げりゃー……」
ドンッ!! ……と、ゴリンダマンが盾を殴った音が鳴り響いた。
「ああっ? 下に見てんじゃねーよ……。テメー、俺を下に見てんじゃ、ねえよっ!」
何発も何発も、ゴリンダマンは盾に拳を打ち付ける。
「何言ってんだ? 俺は下になんか……」
「気に喰わねーんだよ! 同じ時期に黒夢に入って、同じように暴れてきたのに、気が付きゃテメーはナンバーズにまで上り詰めやがった! その頃からずっと、テメーは俺を下に見てんだろうがよっ!」
「何言ってんだ? 俺はオメーをそんな目で見たこたあ……」
ゴリンダマンの強烈な一撃で、一枚の盾にヒビが入る。
「もう……俺のこたあほっといてくれ。俺は、好きなように暴れられりゃあ、いつ死んだって悔いはねー。オメーやボスみてーに、高尚な理想もねーんだから……よおっ!!」
盾が破壊される。だが、クロウのギフト、【インビジブル・シールド】はランクA+の能力。インビジブル・スラッシュと系統が一緒で、熟練度が上がればいくらでも出現させることが可能で、当然クロウの熟練度であれば盾を消されても即座に出現させることが出来る。にもかかわらず、クロウは盾を再度出現させることは無かった。
「なんなんだよ? オメーは、黒夢抜ける時も一切相談もしねーで。そんなくだらねえことで拗ねてたんかよ? くだらねえっ」
「拗ねる? 違えーよ。俺がテメーを見限ったんだ。すっかり甘ちゃんになっちまったテメーにな」
クロウは、正面から話せば、もしかしたらゴリンダマンが戻ってくれるのではないかと、本当に思っていた。この場に来て、ゴリンダマンがいたことには驚いた。このままでは、裏切り者として処分しなければならないから。だが、それと同時にチャンスだとも思っていたのだ。
結局、その思惑は無駄になってしまったが……。
次回、漆黒の喧嘩番長、『永遠の相棒』
「……へっ、強え~方が弱え~方を守ってやんのは当然だろが……」
※ここからは書籍化記念インタビュー最終回です。
崇「いよいよ本日、漆黒のダークヒーロー書籍版が発売で~す!ドンドンドンパフパフ~!」
光「表現が古いんだよ、おまえは」
崇「と言う訳で、この書籍化記念インタビューも今回で最終回となりました!そこで、再び主人公の光輝くんに来ていただきました~」
光「まあ、本編ではさっぱり出番が無いからな。やっぱり自分が出てないと不安だなあ。ところで、ストックはまだあるのか?」
崇「まあまあ、あともう2~3話は……」
光「ほとんど無いじゃん!」
崇「いや、でも、現状のストックを出し終わったら、あとはおまえの出番ばっかりにするってさ」
光「そうなの?やっぱり主人公が何話も出てこないなんて自殺行為だと思ってたんだよな」
崇「……すんごい暗い話が続くみたいだけど」
光「え~?それ、さらに読者離れが止まらないパターンじゃん」
崇「まあ、そうなったらそうなったで仕方ないさ!さて、話を戻して、書籍版がいよいよ発売だぜ!今そんな気持ちよ?」
光「ああ、ここまで来たらジタバタしても仕方ないからな。面白ければ読まれるだろうし、面白くなければ読まれないだけさ」
崇「なにカッコつけてんだよ?おまえ、ここではリバイブの弊害の影響は受けてないだろ?」
光「………………だな。頼む~、みんな~、買ってくれ~読んでくれ~良い感想をくれ~高評価をくれ~!」
崇「急に欲望に素直になりやがった……。でも、そっちの方がおまえらしいな、相棒!」
光「という事で、書籍版ともども、これからも当作品をヨロシクお願いします。あと、作者が活動報告の方でも何やら呟いてるから、良かったら覗いてやってください」
崇「だな!じゃあ、長々と続いた書籍アピールも今回で終了だ!実際あと残りストックは僅かだが、今後ともヨロシク~!」