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第108話 芽生えた疑惑

「さあ、己の罪に溺れて……眠れ!」


 ブライトの腕が、風香の首筋に振り落とされる…………。



「やめろ! ヴァンデッダ!」


 突然、セブンが叫んだ。それと同時に、糸が切れた人形のように、風香は気を失ってしまった……。



 セブンの後方から、ブライトではなく、ナンバー4・ヴァンデッダが現れる。


「折角国防軍の将軍の精神を完全崩壊させるチャンスだったのに。何故止めたの?」


 風香が爆発から立ち上がり、ブライトが現れてから見ていた光景は、全てがヴァンデッダのナイトメア・ルアーによる幻覚だったのだ。


 ナイトメア・ルアーの幻覚は、全てヴァンデッダが作り上げた世界だ。だから、セブンには風香が何を見たのかは分かっていない。それでも、これ以上は風香が危険だと判断し、ヴァンデッダを止めたのだ。



「このお嬢さんは殺しちゃ駄目だ。どんな理由かは分からないが、それが俺のためでもあるからな」


 ラッキー・セブンのラスト七秒の豪運。風香は、この豪運から生き延びた。それはつまり、この場で風香が死ぬ事は、セブンにとっても大きな損失となると、セブンは結論づけていた。


「この子はあの鬼島の孫で、現在国防軍の中でもトップクラスの実力者なのよ? 私のギフトが効いたのだって、貴方との戦いで精神に異常をきたしたからで、本来なら効くハズが無いほどの実力者なのよ?」


「それは実際に戦った俺が一番分かってるって。このお嬢さん、いずれはボスや、あのブライトに匹敵するかもしれねーからな。つーか、このお嬢さんをこんなにも追い詰める幻視って、一体どんなの見せたんだよ?」


 言いながらも、あくまで可能性がある程度だと、セブンは分析していた。


「ま、色々とね。まさかあれほど効果があるとは……この子、未練たらたらだったのね。でも、彼女が国防軍でもトップクラスの力を持ってるのは事実だし、やっぱりここで完全に精神を殺しておいた方が良いんじゃないの?」


「……勘だよ。神に愛された男の勘。言わば、神のお告げだ」


 ラッキー・セブンの詳細は桐生以外には伝えていない現状、説明するにもしようが無かったので、強引に話を通した。



 ……そして、その光景を物陰から見ていた人物がいた。突然の爆発の様子を見に来ていた浅倉梓である。


(どういうこと? あの風香が……一人で暴れて、そして……ブライトの名前を叫んだと思ったら、あんな弱気な表情を見せて……気絶した?)


 幻覚が見えていない梓にとって、風香は一人であらぬ方向に攻撃を繰り返し、かと思えば急に悲しみに、そして勝手に倒れたようにしか見えなかった。


 なんにしても倒れたのは事実。すぐにでも救出に向かいたいが、自分ではあの二人には絶対に敵わない。だから、限界までは様子を見ることにした梓は、二人の会話に耳をすませた。



「勘ねぇ……。相変わらず真面目なのかふざけてるのか微妙だけど、こういう時の貴方の言うことは信じた方が良いのよね。それに彼女、ブライトの元カノだから、下手に殺しちゃうとブライトに恨まれそうだし」


「……え? ブライトの?」


 セブンの中で、パズルのピースが合致した。


(もしかして、ここでこのお嬢さんを殺してたら、俺がブライトに殺されるかもしれないから、お嬢さんは生き残ったのか!? 充分あり得る……)


 ……実際は違う要因が働いていたのだが、セブンはそう結論付けた。


「ま、一年以上前に関係を精算したみたいだし、今やブライトだってウチのナンバー1なんだから、変なことはしないだろうけどね。ま、今回はそこを攻めさせてもらったんだけど」


「……いや、多分変なことになるんだよ。多分だけど」



 その会話を聞いていた梓は、風香とブライトの関係に驚きをおぼえていた。


(風香がブライトの元カノ? 一体どういうこと? そんな話、風香からはこれっぽっちも聞いてないんだけど……それに、一年以上って……)


 ヴァンデッダの言葉が仮に事実だとしたらと考える。すると、梓の脳裏に光輝の顔が浮かんだ。


(いや、風香に限って、光輝とブライトに二股なんて……でも、あの頃の風香には裏と表の世界が存在してたんだし……いや、そもそもフィルズと国防軍で恋愛なんて……)


 考えれば考えるほどに、答えは出ない。それでも、もし本当に風香が二股をかけていたのだとしたら? 梓は、光輝が哀れで胸が苦しくなった。



「それよりヴァンデッダ、そっちは随分早く片付いたんだな」


「ええ。先に陽炎の奴らと国防軍の奴らがいたんだけど、全員に殺し合いをさせてやったから、その間に爆弾は処理出来たわ」


 殺し合いとは勿論、ナイトメア・ルアーでの幻覚である。


「ほ~、やっぱ有能だねぇ。流石は黒夢の女王様だ。……あ! ショーリーちゃんを忘れてた!」


「呆れた。自分の部下でしょう? さっさと見つけて来なさいよ…………っと、私としたことが、ちょっと見つけるのが遅くなったわね。出てきなさい!」


 ここで、梓の気配に気付いたヴァンデッダが叫んだ。だが、セブンはまだ気付いていない。


(やばい、見つかった!? だったら…………)


「なんだよ急に大声出して……って、あれ?」


 突然、セブンは自分の臀部に不思議な重みを感じた。


「何呑気なこと言ってんのよ。敵よ、セブン」


 ヴァンデッダの視線の先には、こちらに向かって何らかのアクションを起こした梓が立っていた。


「はあっ!」


 見つかったと悟った梓は、すぐさまギフト・マグネット・フォースを発動。セブンの臀部に磁気を貼り付け、手持ちの小型ナイフを投与した。


「わわっ、あぶねっ…………」


 距離は二〇メートルほど離れている。セブンは、そのナイフをかわそうと横に飛ぶが、そのナイフは軌道を変え、セブンの臀部に吸い込まれるように突き刺さった。


「んぎゃああああああっ! 尻に、尻に穴が開いちまったあああっ!」



 大げさにのたうち回るセブンを、ヴァンデッダは呆れながら見下ろす。


「はあ……時々貴方が本当に強いのかどうか分からなくなるわ。さて、お嬢さん。私たちは一応二人とも黒夢のナンバーズなんだけど、私たちに戦う意思はないの。だから、その手に持ったナイフを納めてくれないかしら?」


「さっき、別の場所で国防軍と陽炎に殺し合いをさせてきたなんて言う人の言葉を、どう信じろと?」


「そんな前からいたの? 貴女、隠密のスキルでも持ってるの? 大したものだわ」


 あくまで余裕の表情のヴァンデッダに、梓は絶対に勝てないほどの差を感じていた。


(ここで私が戦っても、絶対無駄死にするだけだ。だったら、あの女の言う通りにするしか選択肢は無いか……?)


 梓も、仲間がやられたことに対して何も思ってない訳ではない。だからこそ、可能性が僅かでも高いのなら、他の仲間にも危害が及ぶのを避けるため、ここはヴァンデッダの言う通りにした方が良いと判断した。



「分かった。私も無駄死にはしたくないから。でも、一つだけ聞かせて」


「あら、おりこうさんね。で、何が聞きたいの?」


 梓は自分の中で沸いた疑問を聞くべきかどうか悩む。こんなこと、私情でしかないのだから。


「さっき……風香がブライトの元カノって言ってたけど、二人はいつ付き合ってたの?」


 ヴァンデッダは、この質問の意図を考えた。何故、この娘が二人の関係を知りたいのか?


(……なんにしても、あまり余計なことを言うと、あとでブライト怒られちゃうかな? ……ま、それはそれで面白そうね)


「その水谷風香が高校に通ってる間だったハズだけど?」


「高校に通ってるころ……!?」


 梓の悪い予感が当たってしまった。ヴァンデッダの言った通りなら、確実に光輝とブライト双方と、風香は関わりを持っていた期間が被るのだ。



 梓は……、比呂の口車に乗せられていたとはいえ、一度は光輝に対して酷い態度をとっていた。そして、それが誤解だと知った時には、目の前で光輝は死んでしまった。


 自分の中で、光輝に憧れていた幼少の頃からの想いが蘇ると同時に、自分の犯してしまった過ちが膨れ上がり、それを悔いる毎日を過ごして来た。自分には光輝の死を悲しむ資格すら無いのだと、その想いに蓋をし、光輝を最後まで信じ愛していた風香に、光輝の分まで贖罪しようと思って華撃隊に入隊したのだ。


 その想いが、ヴァンデッダの言葉によって揺らいでしまった……。



「さて、私たちはもう帰るわね。信じてくれるとありがたいんだけど、今回のテロは陽炎の仕業。私たちはむしろ各地の爆弾を処理して回ってるんだから。じゃあね、おりこうさん。」


 ヴァンデッダは、のたうち回っているセブンに蹴りを入れて起き上がらせると、ショーリーを探しに行ってしまった。



 梓は……気絶している風香をジッと眺める。その表情は、悲しみや怒りが入り混じった、複雑な表情だった。

長い間、『漆黒のダークヒーロー~ヒーローに憧れた俺が、あれよあれよとラスボスに~』をご愛読頂きまして、誠にありがとうございました!


明日からは、『漆黒の喧嘩番長~男は拳で語るもんじゃ~』が始まりますので、お楽しみに!






※嘘です。ここからは書籍化記念インタビューです。



崇「さあ!いよいよ書籍発売が明日に迫りました!そんな大切な日に登場して頂く今日のゲストは、警視庁フィルズ対策室室長の甲斐正義さんだ!」


甲「はじめまして。……というより、本当にはじめましてだな。俺なんかが出て良かったのか?」


崇「いや~、甲斐さんは書籍オリジナルのキャラなので、今回のインタビューが本当に初出しなんですよね~」


甲「だから、今これを読んでる人は、俺の事なんかサッパリだろう?」


崇「甲斐さんは、以前活動報告でサイドストーリーのアンケートをとった際、何人かの方々だ見たいと言ってくれたので、作者が話を考えているうちに、だったら書籍の方にぶち込んでやろうって事で誕生したんだ!」


甲「みたいだな。だから話の都合上、WEB版では今後も登場の予定は無いだろう?」


崇「いや、甲斐さんとも関係のあるキャラも登場したし……っと、それはまだ秘密だった!」


甲「まあいい。一応、書籍の方では、俺は中々重要なポジションをもらってるから、是非手に取って読んでくれるとありがたい」


崇「流石、こちらが求める前に書籍のアピールをしてくれるとは!大人の男って感じだね!」


甲「そのためのインタビューなんだろ?」


崇「まあ、そうなんですけどね。じゃあ、この甲斐さんの活躍がきになるって方は、明日7月2日発売の書籍版を是非読んでみてくれい!じゃあ、また明日~!」


甲「それじゃあ、書籍版で会えるのを楽しみにしている。またな」

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