第106話 七秒の豪運
セブンが風香に完全にビビってしまったその頃、吉田とショーリーは激しく交戦しながら、気が付けば風香たちから一〇〇メートルは離れた位置まで移動していた。
「チィッ、この化物女! いい加減くたばりやがって下さい!」
「化物女とは心外だね! アンタこそ、化け猫じゃないか!?」
スピードに優るショーリーを、それ以外の全てで上回る吉田。時間が経てば経つほどに、形勢は傾いていた。
「ナル! 相手は大分スピードが落ちてきてるよ!」
梓のアドバイスを受けるまでもなく、吉田は決着が近付いている事を悟っていた。勿論、自分の勝利で。
ショーリーの攻撃は、吉田の屈強な肉体の至る所に傷を与えていた。その都度、吉田は己のギフトで血液を凝固させて出血を防いでいたが、それは布石だった。
「シャアアアッ! 死ねっ、化物女があああっ!!」
「……終わりだ!」
ショーリーが吉田に接近した瞬間、吉田の身体に刻まれた無数の傷口から、血液を固めた刃が飛び出し、ショーリーを串刺しにした……。
「あがっ……」
ショーリーの本能か? 辛うじて致命傷となる箇所を外したものの、全身を血液の刃で貫かれ、戦闘不能となった。
「ふうっ。ちょっと血を使い過ぎたわね……。今日は儒々苑で死ぬほどレバー食わなきゃ……」
そう言いながら、吉田もまた貧血で倒れてしまった……。
一方、セブンは風香から漂う絶対的強者のオーラに圧倒されていた。
(ヤバイって……。この女の子、洒落にならんて)
セブンの目には、今目の前で竜巻に包まれながら宙に浮いている風香が、魔人に見えていた。
(ショーリーちゃんは……いなくて良かったな。いたら特攻して瞬殺されてた。ここは……自分の強運に賭けるしかねえか)
腹を決め、セブンは自分の強運が最大限効力を発揮する状況を作り出すべく、脳内をフル回転させて考える。
「貴方にはやはり得体の知れないものを感じます。一気に攻めるのも、守りに回るのも悪手になりそうな……。なら、攻防一体で、ジワジワと追い詰めます」
「ヘッ……攻防一体でジワジワねえ……」
(この女の子、本能で俺のラッキー・セブンに対する一番嫌な対処法を見つけやがったか?)
距離を取られればセブンから仕掛ける機会が減る。その上ジワジワ時間をかけられれば、制限時間の七分が過ぎてしまう。
既に、ラッキー・セブンが発動してから三分が過ぎていた。残り四分で、絶対的強者である風香を倒さなければならない。
(考えろ、考えろ……この女の子を確実に倒すために、俺の出来る行動を!)
風香は距離をとり、ウォーター・アローを連続で放つ。それを、セブンはある意味勘で避け続けた。
(速すぎるし! 喰らえば死ぬし! そんな攻撃を淡々と打って来るなんて、勝てる未来が見えねー!)
セブンは慌てて、無人となった金物屋に逃げ込む。
「どうしたんですか? 逃げても無駄ですよ」
(はあ、はあ、はあ、あの水の矢の威力だと、コンクリートの壁なんて簡単に貫いて来るだろうし、八方塞がりか?)
だが、セブンは咄嗟に逃げ込んだ場所が金物屋だった事に可能性を感じた。
(なにか使える物……なにか使える物……)
「お? これは……」
「隠れても無駄ですよ。さあ、ブライトより強いと言うのならば、正々堂々と向かって来て下さい」
風香の挑発に、セブンは乗らない。そして、起死回生の戦法に打って出た。
「おい、これを見ろ!」
「それは……まさか!?」
金物屋から出て来たセブンが手に持っていた物は、中に何かが入っているであろう穀物などを入れる麻袋だった。
「そうさ、おまえらが探している爆弾さ! この爆弾は爆発すれば半径一〇〇メートルを火の海にする強力な火薬を秘めてる。おまえが下手に攻撃すれば、すぐに起爆するぞ!」
風香一人ならば、爆発を回避する事など容易だろう。だが、ここには気絶している大久保・渡辺・近藤の三人と、近くで戦闘中であろう吉田と梓がいるのだ。彼女たちが如何に鍛えられていたとしても、無防備で爆発に巻き込まれれば無傷では済まない。
「クッ、卑怯な……」
風香は、セブンの取った行動に違和感を覚えた。何故、ブライトに勝る実力を持っているにもかかわらず、この様な卑劣な手を選んだのか?
セブンが真の実力者なら、正々堂々自分など力でねじ伏せれば良いのだ。だが、セブンは最初から戦う気が無いかのような行動をとっていた。
そして、辿り着いた答え。もしかして、この男は……
「……正直、ガッカリしました。最初に見た時から、貴方には強い者が必ず纏うオーラを感じませんでした。三人をアッサリと倒した際にも、貴方自身の動きからは何も感じなかった。貴方……本当は、弱いんじゃないですか?」
確信に迫る風香の言葉に、セブンはあからさまに焦った表情を浮かべる。それを見て、風香は確信した。
「やっぱり……。それでもあの三人を倒したんですから、貴方が何らかの有用なギフトを所持していることは間違いないんでしょう」
「お、俺が弱い? ちゃんちゃらおかしいぜ。で、でも、それでも俺が爆弾を持ってる状況は変わりないんだぜ?」
「そうですね……。ならば……」
そう言うと風香は、一旦身に纏った竜巻を消して地上に着地する。そして三人の倒れてる場所にそれぞれ同時に竜巻を発生させて巻き上げると、自分の傍に運び、再び竜巻で自分と三人を包み込んだ。
「これで、爆発しても問題はありません。その爆弾が私の防御を崩せるのなら話は別ですけど、多分無理でしょう。それに、一般住民は既に避難勧告により近隣にはいませんし、吉田さんなら大丈夫ですから」
ある意味人質というアドバンテージはなくなった。それでも、セブンに焦りはなかった。
(竜巻を手足のように扱うって、なんでもありかよ? まあいい。ここまでは想定内だ)
「ヘッ、なら、味わってもらおうじゃないの。戦闘においてもっとも効果的な、とっておきな戦法をな! それは……」
セブンが爆弾を風香に向かって投げた。風香の視線が爆弾へと向けられる。その隙に、自分は一目散に……逃げ出した。
「それはな、逃げるんだよおおっ! あばよ、お嬢ちゃん!」
逃げ去るセブンに驚きながらも、風香は慎重に爆弾を風で包み込んでキャッチすると、麻袋の中身を確認する。そこには爆弾などではなく、ヤカンやお玉などの金物が入っているのみだった。
「……あの男っ……」
普段から温厚な風香のこめかみに、怒りで青筋が浮かび上がる。
「待ぁちぃなさぁいいいぃっ!!」
顔を真っ赤にして、風香がセブンを追いかける。だが、昔から逃げ足には自信があったセブンは、商店街の裏路地に紛れ込み、ひたすら逃げ続けていた。
「すばしっこい……逃げるなあ!」
「そっちこそしつこいなあ! 逃げた男を追いかけ続ける女なんてモテないぜ?」
その言葉に、風香の怒りがもう一段階上がる。風香にとってはもっとも堪える言葉だったからだ。
「人を、本気で殺したいと思ったのは初めてです……」
風香の天使の様な顔が、まるで般若のように変わった。逃げながら後方を見て、怒り心頭の風香を確認し、セブンは立ち止まった。
「ようやく観念しましたか……。今更謝っても許しませんけどね……」
風香も立ち止まり、凶悪なオーラを放出させてセブンを睨みつける。
(……ラッキー・セブン、残り時間一〇秒。なんとかここまで逃げ切れた。最後にもう一手、挑発してみるか)
「ハッハッハッ! その様子だと、過去に男で痛い目を見たな? ギャハハッ!」
冷静であれば……セブンがあからさまな挑発を繰り返していることに気が付けていただろう。だが、風香にとって、この件だけは冷静でいられるのは無理だった。
「その口を……閉じなさいっ!!!!」
風香がセブンに向かって一気にダッシュした。
(残り七秒! スペシャルタイム発動!!)
ラッキー・セブンの制限時間は七分。その中でも、ラスト七秒間は、強運を超えた豪運がセブンに降り注ぐのだ。
(予想通り、このお嬢さんは冷静そうに見えてまだお子様だ。あれだけ挑発したら遠距離攻撃じゃなく直接攻撃を仕掛けてくると思ってたぜ! あとは、豪運まかせだ!)
無数のかまいたちが自然発生するほどの竜巻を身に纏った風香の突進。狭い路地裏なので、竜巻に触れた家屋が粉々に吹っ飛ばされる。
(さあ! どんな豪運が訪れるんだ!? どうやって、俺をこの危機から救ってくれるんだ!!)
「死んでくださいいいいっ!!!!」
風香が目の前五メートルの距離まで接近して来たその時、豪運が訪れた……。
「!? なっ……」
風香の竜巻に触れた、陽炎が仕掛けていた本物の爆弾が起爆し、風香を直撃したのだ。
(これか! まさか、陽炎が仕掛けた爆弾が俺の豪運!?)
その爆弾は、先ほどセブンが言ったでたらめの半分ほどの威力を誇り、半径五〇メートルの範囲を吹っ飛ばした。
…………。
破壊された街並み。商店街だった面影は、もうそこには無い。
そんな中、瓦礫の中からセブンが立ち上がった。
「ぶはーっ! まさか陽炎の爆弾が起爆するとはな。しかも、あの至近距離で爆風に巻き込まれたのに、あのお嬢ちゃんがぶっ壊した家屋の瓦礫が盾になって、俺はノーダメージ! 流石は豪運だぜ!」
ラスト七秒の豪運。相手が何も知らず、この時間内だけであれば、セブンは問答無用で無敵かもしれない。
「流石にこの爆発が直撃したんだから、あのお嬢さんも無事じゃ済まないだろう。……ちょっとかわいそうだったが、これは命を懸けた戦いだったからな。悪く思わないでくれよ? さて、ショーリーちゃんを見つけて、とっととズラかるか」
確かに、ラスト七秒間は無敵だろう。だが、ラッキー・セブンの弊害は、この後やって来るのだ……。
瓦礫の一部が爆発的に吹っ飛ばされる。そこには、服がボロボロになり、髪型も乱れて顔を汚した風香が、仁王立ちしていた……。
「……面白い手を使いますねえ……。さ、殺し合いを続けましょうか?」
そう言ってニヤリと笑う風香を、セブンは後日、こう評した。
あれこそが、天使のような悪魔の笑顔だった……と。
ラッキーセブンが終了し、絶体絶命のセブンの背後に、助っ人が現れる。その姿は、風香を激しく動揺させ……
次回『否定された想い』
「おまえは女として、俺を好きになる資格なんて無かったし、将軍としても失格だ。もう、存在価値が無いじゃないか? だから、一思いに殺してやるよ」
「私……私は……」
※ここからは書籍化記念インタビューです。
崇「じゃーん!ここにきてゲストのネタ切れだー!という訳で皆様、誰か登場してほしいゲストがいたら感想欄にコメントを!」
セ「おいおいイーヴィル。ってことは俺は、ネタ切れを埋めるための捨て駒か?」
崇「おお!何言ってんすか?神に愛されし男(笑)を捨て駒扱いする訳無いじゃないですか!?ちゅーことで、今日のゲストはセブンさんです!」
セ「ってゆーか、なんでバリバリの新キャラの俺が、書籍化のインタビューに出てるんだ?もし俺が出るとしたら、第三巻か四巻くらいになるだろ?」
崇「いや~、なんか、作者が描いててセブンさんの事を気に入っちゃったらしいんですよ」
セ「そうなの?まあ……作者といえばこの作品を創造する神だからな。やはり俺は神に愛されていたか……」
崇「光輝が暗くなっちゃったから、もうこの作品のギャグ要因は俺かセブンさんしかいなくなっちゃったんでね。これからも出番が増えるかもしれませんよ?」
セ「ギャグ要因とはなんだ。俺は黒夢最強だぞ?」
崇「……セブンさん。セブンさんのギフトを知ってるの、ボスだけだと思ってます?」
セ「ギクッ!?な、なに言ってんだ?お、俺のギフトがどうしたって?」
崇「……俺の眼は誤魔化せませんよ?でもまあ、どっちにしろ反則みたいなギフトには変わりないっすね。ギャンブルとかしてたら一生遊んで暮らせるじゃないっすか?」
セ「本当に知ってるみたいだな……。ならいいや。俺のギフトの幸運ってさ、長い目で見て幸運だったって事もあるんだよ。これは俺の解釈なんだが、多分俺はギャンブルで勝ち続けると、堕落してロクな人生を送らないと思うんだ。それを加味してギフトが効果を発揮するから、ギャンブルでは負けっぱなしなんだよね……グスン」
崇「それはまた……役に立たねえ」
セ「何!?それ以外は幸運なんだぞ!?ホームランバーなんか10本食ったら必ず1本はあたりが出るし!」
崇「それ、確率的に微妙ですね……。おっと、そろそろ時間だ!じゃあみんな、また明日~」
セ「俺の扱い悪くね!?」