第105話 ラッキーセブン
「隊長! ここは私たちにやらせて!」
「そうよ! 大久保の仇は私たちがとる!」
柔道の渡辺、空手の近藤が、盟友である大久保の仇をとるために前に出る。だが、風香は心配そうに二人に声をかけた。
「相手はナンバーズですよ? それに、今の得体の知れない動き……ここは確実に三人で……」
「ほら、そこ。水谷隊長は華撃隊の隊長なんだから、現場にいる時はそんな優しい口調じゃダメだって普段から言ってるじゃないですか?」
華撃隊は全員が高校の同級生であり、女性という特殊な隊である。だから、プライベートでは友人として接しても良いが、任務時は上下関係を遵守する決まり事を設けている。これは、普通ならあたりまえの事なのだが、隊長である風香が原因で敢えて作られた規則だった。
風香にとって、高校に通うまで仲の良い同姓はみんな歳上だった。それに、白虎隊の時は自分以外は全員男性だったから、隊長として割り切って厳しい態度でいれた。在籍期間が短かったのもあるが。
だが、華撃隊のメンバーは全員、自分にとって初めて出来た同年代の友達なのだ。嬉しさは勿論あったし、それ以上に本人も気付かない心のどこかで、嫌われたくないという感情を持ってしまった風香は、隊長として厳しく接するのを拒んだ。それを他の隊員が嗜め、せめて任務中は上下関係をハッキリしようと風香に強要したのだ。
渡辺の言葉に、風香は困った表情で呟く。
「うっ……でも、相手は得体の知れない実力者ですし……」
「だから、隊長は私たちの手に負えないと思ったら出てきて下さい。隊長なんだから、ドンと構えてて下さいよ」
「そうそう、その方がボスっぽくてカッコいいですしね!」
渡辺と近藤は、そう言って風香に笑顔を向ける。
そんな頼もしい部下であり友人たちに、風香は嬉しくなった。
(光輝君と別れてから……一時期、私は全てがどうでもよくなっていた。そんな私を救ってくれたのは、吉田さんやみんなだ。みんなの期待に応える。それが今の私の役目)
「分かりました。それでは、くれぐれも油断はせずに戦ってください」
相変わらず敬語ではあるが、その表情も口調も、隊長として凛としたものだった。
「ラジャー! じゃあ、最初は私が仕掛けるよ!」
「オッケー! いつも通りいくわよ!」
渡辺と近藤の黄金パターン。まずは空手の近藤が攻撃を仕掛け、相手が怯んだ隙に渡辺が柔道で動きを封じる。今までこのパターンを防げたのは風香と吉田のみ。だが……
「フッフッフ、どんなに作戦を練っても、この俺の強運の前では全てが無駄になる」
近藤が空手仕込みの鋭い打撃で攻撃を仕掛ける。それに対し、セブンは狙いも定めずにオーバーハンドの右フック(猫パンチ)を振るった。しかも、余裕そうに見せたのにビビッて目をつぶりながら。
本来なら、こんな大振りの攻撃など当たる訳が無い。まして、相手は空手の猛者・近藤なのだ。
……だが、セブンの猫パンチはカウンターとなって近藤の顎を捉え、近藤は言葉を発することもなく倒れ伏した。
勿論狙った訳など断じてない。ただ、セブンのギフトがもたらした強運が、針の穴を通すような隙間と抜群のタイミングという力を猫パンチに与えたのだ。
「なっ……なっちゃん(近藤)!? おのれっ!!」
「待って、渡辺さん! やっぱりその男は危険っ……」
風香の制止も間に合わず、渡辺が不用意にセブンの襟を掴んだ。
「ほう、女性から抱きつかれるのには慣れてな……慣れてはいるんだが、ちょいと強引じゃないかな?」
「うぅるうせええぇっ!!」
渡辺がそのままセブンに背負い投げを仕掛ける! ……が、先程から緊張のために冷や汗を流していたのと、元々塗っていたココナッツオイルが化学反応を起こし、服だけがヌルッとスポ抜けた。
「えっ!? ぐぎゃっ!?」
渡辺は勢いそのままに、地面に頭部から突っ込んで気絶してしまった。
みすみす渡辺と近藤をやられてしまった風香は、あらためてセブンに得体の知れないものを感じていた。
(なんなのこの男……。あの渡辺さんと近藤さんを、わずか数秒で倒すなんて)
「フッフッフッ、は、恥ずかしいから服着るね」
(くっそ、今日は胸毛の処理を忘れてたんだ! あんな綺麗な子に裸を見られるんなら、ちゃんと剃ってきたのに、恥ずかしい!)
「分からない……。見るからに強そうじゃないし、実際動きも平凡でしかない。でも、あの三人をそれぞれ一瞬で倒してみせた。貴方、何者ですか?」
「さっきから言ってるだろう? 俺は神に愛された男、ナンバーズ最強の男・セブンだ!」
ナンバーズ最強。その言葉は実際、誇張されたものでは無い。一度ラッキー・セブンが発動すると、七分間はある意味無敵と言えるのだ。相手の攻撃は当たらない。本人の意図しない攻撃でも回避させる。なのに、こちらの攻撃はどんなに酷いものでも強運が作用して当たる。
だが、もし事前にラッキー・セブンの能力の正体を知っていれば、対処は出来るかもしれない。実は、相当な戦力差があれば、警戒しながらであればいくらでもやりようはあるからだ。いくら強運でも、絶対的な戦力差を覆すのは難しいのだ。
しかし、このギフトの本質を知るのはセブン本人以外では桐生しかいない。よってセブンは、ジレンも含めたナンバーズの面々にも普段は無気力だが、やる時はやるかなりの実力者と認識されているのだ。
そして、ナンバーズ最強の言葉に、風香は激しく反応した。
「ナンバーズ最強? つまり貴方は……あのブライトよりも強いというのですか?」
現在のナンバー1はブライトである。ナンバー1は黒夢最強の証。そして、今の風香にとって、最終的な目標ともいうべき存在。
「ブライトか。ま、俺が辞退したからナンバー1の座に就いてはいるが、戦ったら俺の方が強いだろうな」
(……ホントは俺、ブライトには会った事もないんだよね。だって、あんなん運でどうにか出来るタマじゃないもん。強運を発動する前に瞬殺されちゃうだろうなぁ)
セブンは、自分のギフトの力が及ばないレベルの強者がいる事を知っている。そして、知ると言う事は、何よりの財産となる。
仮に、セブンが桐生と会っていなかったら、自分の力を過信して国防軍やフィルズのトップクラスの実力者に殺されていたかもしれない。
桐生と出会い、本物に触れた事で、自分のギフトも、自分も、無敵などでは無いと知らされたのだ。そんなセブンだから、会ってもいないのにブライトには敵わないことを感じたのだろう。
ブライトがナンバー1になった頃には、既にセブンは沖縄支部にどっぷり腰を降ろしており、面倒だからと本部に顔を出すことも少なかったので、ブライトとセブンは面識が無かった。
それに、自分では辞退したなどと言ったが、やる時はやるといっても普段は無気力なセブンをナンバー1に推す者など誰もいないし、いても実際はラッキーなだけの男をナンバー1にするなど桐生が認めないだろう。
ただ、セブンは風香の前でイイカッコをしたかっただけなのだ。
だが……その見栄が、セブンに地獄を見せる事になるとは、まだ本人は知らない。
「そう……ブライトより強いんですか。なら……私も最大限の力を発揮しなければいけませんね」
風香が本気のオーラを纏った瞬間、セブンの危険度察知メーターがマックスを超えた。
(なっ、なんだこの女の子!? 急に雰囲気が変わった?)
風香は強大な竜巻が包み込まれ、宙に浮いた。
「私は……いずれブライトを倒さねばなりません。だから、貴方がブライトより強いと言うのなら、私も負ける訳にはいかない!」
風香から巨大な水玉が放たれる。
(やべっ!? こんなん喰らったらやべぇっ!?)
セブンは辛うじて水玉を避けると、その水玉が電柱に激突する。
(……おっ? チャンスだ!)
「ハッハッハッ! その程度の攻撃でこの俺を倒せるか! 今度はこっちの番だ!」
好機と見たセブンは、風香の視線を釘付けにする作戦に出た。
「は~め~は~……」
大袈裟なポーズで風香の注意を引く。その風香の背後には、先程の水玉が激突した事で折れた電柱が、風香目掛けて倒れて来ていた。
(あれが激突して俺の勝利! やっぱ俺ってラッキーだぜ!)
「……めぇ~……はああぁっ!!」
(タイミングバッチリ! ぶつかれ!)
電柱が風香に迫る…………が、その電柱は風香が身に纏った竜巻で粉々に砕けてしまった。
(!?!? 何あれ? あの竜巻、自動防御!? つか、あんなので攻撃されたら、俺マジで死ぬ!?)
驚きで目が飛び出しそうになるセブン。
「はめはめは? ……なんともないみたいですが……遊んでるんですか?」
「あ……いやぁ、遊んでるつもりは無いんですがね……あはは……」
セブンは、自分のギフトの力が及ばないレベルの強者がいる事を知っている。
そして、今目の前にいる少女も、そんな強者の一人である事に気付きつつあった……。
自称ナンバーズ最強の男・セブンと、本気を出した風香の対決は、思わぬ結末を迎える……。
次回『七秒の豪運』
※ここからは書籍化記念インタビューです。
崇「はあ……ボスでガッツをかなり削られた……。けど、気を取り直して行ってみよう!今日のゲストは、黒夢の女王こと、ヴァンデッダ姐さんだ!」
ヴ「ボンジュール、皆さん。それにしても、本当は今日のゲストはジレンの予定だったんでしょ?」
崇「うっ……。いや、ジレンさんだと、また説教が始まっちゃうかと思って……」
ヴ「それは貴方のキャラだから、しょうがないんじゃない?」
崇「む~、納得いかん。さた、一応姐さんにも、書籍化の感想を聞こうかな」
ヴ「感想も何も、今回私は一切出てこないからね。次巻に期待するわ」
崇「そうだよな~。そしたら、姐さんのエロイボディーがイラストで……」
ヴ「フフフッ。それが目的で今回の第一巻を買ってくれたら嬉しいわね」
崇「よし!次巻の表紙は姐さんにしてもらおう!そしたら、スケベな野郎どもがこぞって買ってくれるかも……」
ヴ「ま、それは私たちが決める事じゃないし、多分無しでしょうけどね。さて、じゃあまた次巻があれば呼んでね」
崇「あ、ああ。やっぱり自分が出てないと反応が淡泊だなあ。じゃ、明日もまた見てくれよな!」