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第104話 神に愛された男

 ――巣鴨商店街



 いつもなら年配の方々が闊歩する巣鴨商店街も、爆弾予告の影響で人通りは皆無。


 そんな商店街に、黒夢のナンバー7ことセブンがやって来ていた。


「のどかだな~。こんな所に爆弾なんか仕掛けちゃって、陽炎のヤツラって鬼畜だね。『ショーリー』ちゃんもそう思うだろ?」


「そうですね。それにしてもセブンさん、臭いですよ?」


 セブンから漂う、甘いココナッツの香りが強烈過ぎて、思わずショーリーは鼻を塞ぐ。


「ん? 甘くて良い香りだろ~?」


 乾燥肌のセブンは、常に保湿のために身体にオイルを塗っているのだが、今日はココナッツオイルだった。



 さ、早く爆弾を見付けて回収しちゃいましょう」


 ショーリーと呼ばれた女性はセブンのバディであり、沖縄支部では本来のトップであるセブンが何もしないので、実質的に沖縄支部のトップとして活動している。


 身長は小柄だがテキパキと働き、ショートカットがよく似合う可愛らしい女の子といった風貌だが、戦闘面でも事務的作業でも高い評価を得ており、とある習性さえ無ければセブンではなくショーリーの方がナンバーズに相応しいのではないかとまで言われている。



 爆弾をせっせと探し始めたショーリーとは対照的に、セブンは人気のいなくなった八百屋からトマトをくすねてかぶりつく。


「んん~、ジューシ~。ショーリーちゃんも食べる~?」


「いえ、私は結構です。それよりここには陽炎のやつらっていないんですかね? 他の場所には守り人がいたって報告があったみたいなんですけど?」


 今の所、二人以外に人の気配は無い。


「ラッキーじゃん? 敵がいないんだから、ゆっくり探そうよ」


 とにかく面倒を嫌うセブンにとっては、敵がいないのは好都合でしかなかった。



 そこへ、国防軍の装甲車が一台やってきて、セブンの前で止まる。


 そして一台目の車から降りて来たのは、軍服を身にまとった背の高い麗人と、ポニーテールの活発そうな美女だった。


「おまえらは黒夢ナンバーズのセブンとショーリーだな? やはり、白虎隊の情報通り、このテロは黒夢の仕業か……」


 国防軍華撃隊、霊長類ヒト科最強の女・吉田成美が、セブンを睨みつける。


「え? いやいや、誤解だって。僕らは嵌められただけで、全ては陽炎の……」


「白虎隊からの情報なんて信じたくなかったんだけど、実際現場に黒夢のナンバーズがいたんじゃ仕方ないわね……」


 国防軍華撃隊、浅倉梓は、白虎隊の隊長である比呂に対する不信感から、黒夢がテロの主犯だという情報を信じたくはなかったのだが、実際に現場に黒夢の、しかもナンバーズがいたことで、情報を信じることにしたようだ。



「んんん? ちょっと待ってよ、俺たち黒夢は陽炎に……」


 無駄な争いを避けたいセブンは、説得を試みようとしたのだが、相棒が黙ってはいなかった。


「国防軍!? ここで会ったが一〇〇年目、覚悟してください!」


「えええ!? ちょ、何言ってんのよショーリーちゃん!?」


 国防軍を見た瞬間、戦闘モードのスイッチが入ったショーリーと、出来れば揉めたくないセブン。


 ……実直なショーリーの唯一の欠点。それが、国防軍に対する過剰な敵対心だった。


 過去にもこの国防軍への敵対心により冷静さを失い、トラブルを起こした事は一度や二度ではなかったのだが、それは彼女のギフトが原因となっている。


「うらあああああっ!」


 ショーリーは己の身体をギフト・【パンサー・レザーション】により獣人化し、吉田に襲い掛かった。



 獣人化のギフト能力者は、強力な戦闘力を持つ者が多い。だが、国防軍には獣人化のギフト能力者は在籍していない。国の意向なのか軍部の意向なのかは定かではないが、獣人化ギフトは国防軍では毛嫌いされ、入隊を認められていなかった。言い方を変えれば、人間扱いされていないのだ。


 ショーリーも、それが原因で過去に痛い目を見た事で、国防軍を憎んでいたのだった。



 吉田は、ショーリーの爪による一撃を真正面でブロックし、そのまま上半身をガッチリとキャッチすると……


「うるおああああっ!」


 ショーリーを思いっきり果物屋に向かって放り投げた。



「えええー!? ショーリーちゃん、大丈夫!?」


 慌ててショーリーの下へ駆けつけようとしたセブンは、焦ったのか小石に躓いて転んでしまった。……すると次の瞬間、目の前に殺人級の竜巻が発生した。


「あ……あぶね~。転んでラッキーだった」


 竜巻を発生させたのは、いつの間にかやって来ていた二台目の車から降りてきた国防軍華撃隊隊長・水谷風香だった。


「……私の不意打ちを察知してよけるとは、伊達に黒夢のナンバーズじゃありませんね」


 本当はただ転んだだけなのだが、美女だらけのこの状況で、セブンのお調子者スイッチがONになる。


「フッ……お嬢さん方、悪いことは言わない。この俺が本気になる前に、ここは平和的に解決しようじゃないか」


 ゆっくりと立ち上がり、これでもかというほどの決め顔をするセブンからは、得体の知れないオーラが醸し出された。



「平和的に……ですか。でも、貴方たちがそのつもりなら私たちも平和的な解決を望みたいんですが、残念ながら貴方の相棒にそのつもりは無いみたいですよ?」


 トマトで身体中ビチャビチャのまま、バナナを齧りながら、ショーリーはフーフーと鼻息を荒くしている。


「国防軍は敵。みんな私がぶっ殺す!!」


 食べ終えたバナナの皮を投げ捨てたショーリーの眼は、完全に戦闘モードだった。


「ちょ、ショーリーちゃん!?」


 ショーリーの悪癖に、セブンは頭を抱える。こうなったショーリーを止めることは、自分には出来ないと知っていたからだ。



「面白い……。なら、私が可愛がってあげるわ」


 ショーリーに対して、戦意を剥き出しにする吉田。


「ナル、コイツの動き、かなり速いよ。私もサポートするわ」


 梓もまた、ショーリーを完全に敵として認識した。



「おいおいおい~! 君たち、俺の言ったこと理解してる? ここは平和的に……」


 二台目の車からさらに三人、渡辺・大久保・近藤という屈強な女子が降りてきて、風香の後ろに並ぶ。


「貴方が本気になれば、私たちは敵わないと? なら、本気になっていただいて結構です」


 風香もまた、戦闘モードに入る。目の前にいるのは黒夢のナンバーズなのだ。実際、自分でも少し卑怯かと思った不意打ちがアッサリかわされたのだから、一切の油断を排除していた。


「いや、お、俺と戦うってのか? や、やめといた方が良いよ? 下手すりゃ妊娠しちゃうかもよ?」


 焦りと強がりが混じった口調で意味不明なことを呟くセブンだったが、それが、逆に風香の神経を逆撫でる結果となる。


「私たちなど相手にならない……って所ですか? それなら、その身をもって知ってもらうしかありませんね」


 氷のような視線を向けられ、セブンは背筋にドッと冷や汗が流れていた。


(ギャース! ヤバイって! 俺、死ぬ!?)



 そんなセブンをよそに、ショーリーは吉田と梓をスピードで翻弄していた。


「チィッ、このスピードは厄介ね」


「これじゃあ狙いが定められないよ!」


 ショーリーの攻撃は吉田に集中している。それは、獣の本能が、どちらがより強者かを嗅ぎ分けていたからか? 合間を狙って梓も掩護射撃を試みるが、獣人化したショーリーを捉えることが出来ずにいた。


「どうした国防軍!? やっぱりおまえらは所詮、弱い者しか相手に出来ない腰抜けなんだろ!?」


 ショーリーの爪が、吉田の頬を切り裂く。


「クッ!?」


「ナル、大丈夫!?」


 心配する梓に吉田は、片手で大丈夫だと告げる。そして、頬から流れる血を手ですくうと、ペロリと舐めてニヤリと笑みを浮かべた。


「私に血を流させるとは……どうやら死にたいらしいね」


 吉田の雰囲気が変わる。それを、ショーリーも本能で察し、動きが止まった。


「本当はギフトを使わずに済ませたかったんだけどね……そうも言ってられないみたいだ」


 吉田の身体が赤みを帯び、湯気が沸き立つ。すると、みるみるうちに筋肉が膨れ上がり、その姿はまさに霊長類ヒト科最強のメスと呼ばれていた頃のような、筋骨粒々な体型に変わった。


「ふしゅるるるるぅ~~。さあ、かかってこい、ニャン公」


 吉田のギフト、【バーニング・ブラッド】は、ランクBの能力。

 己の血液をコントロールし、身体能力の強化を倍増させたり、血液を攻撃に用いる事も可能。

 このコントロールを身に付けた事で、普段は均整のとれた体型を維持する事が出来ているが、完全に戦闘モードとなると、以前の姿に戻ってしまうのだ。


「ニャン公だと? 馬鹿にするな!」


 ショーリーはスピードで撹乱し、吉田の背後から襲い掛かる。


「見えた!」


 だが、吉田はショーリーの動きに反応し、攻撃をブロックした。


「チッ、公僕がぁぁぁっ!」



 激しい戦闘を繰り広げるショーリーと吉田。その光景を、セブンは唖然として見ていた。


(ショーリーに助けてもらおうと思ったのに、なんだあの化物は? つーか、ナンバーズ一歩手前の実力を誇るショーリーと互角に戦うって、どんだけだよ!?)


「よそ見してるなんて、随分余裕ですね」


「え? って、おわっ!?」


 セブンが慌てて飛び退くと、それまでセブンが立っていた場所にカマイタチが発生して地面を切り裂いた。


「さあ、黒夢のナンバー7。いつまでも遊んでないで、本気を出しなさい」


(本気出しても三秒で負ける自信があるんですけどー!)


「じゃあ今度は私の相手をしな!」


 女子ボクシングの猛者・大久保が、一〇メートル離れた場所で拳を振るうと、セブンは鼻に衝撃を受けて倒れる。


(ぶはっ!? なんで離れてんのにパンチが!? まさか、ギフトか!?)


 大久保のギフト・【マッハ・フィスト】は、ランクB-の能力で、そのあまりにも速いパンチで衝撃波を飛ばす事が可能。



「? ……ふざけてるんですか? 本気でやりなさい」


 アッサリとダウンしたセブンが、ふざけているのだと思った風香は、舐められていると感じていた。だが……


(ヒーッ、ヒーッ、殺される! コイツら、女なのにメチャ強えじゃねーか!)



 黒夢のナンバー7・セブン。その戦闘能力は……ハッキリ言って、雑魚と言っても過言ではなかった。


 では、なぜ彼が黒夢のナンバー7なのか? それは……



「クッソ~、良い気になりやがって! いくぞっ、【ラッキー・セブン】発動!!」


 セブンはギフトを発動する。だが、その身体に変化は見受けられない。そして苦し紛れにその場に落ちていた鉄パイプを拾うと、大久保に向かって走り出した。


「なんだ? 無防備すぎね? 近づかせるか!」


 接近してくるセブンに、大久保がマッハ・パンチをラッシュすると、無数の衝撃波がセブンを襲った。


(ヒイイイイッ! やっぱこええええっ!!)


「……って、あれっ?」


 その時、セブンは先程ショーリーが捨てたバナナの皮に足を滑らせ、バランスを崩したことにより衝撃波を回避。だが、勢いを殺す事が出来ず、バランスを崩したまま大久保に接近して……


「なっ! ぎゃああっ!」


 前のめりに転んでしまったセブンだったが、その際に振り下ろされた鉄パイプが綺麗に大久保の脳天を打ち抜き、大久保を失神させた。



 その光景を見ていた風香は、改めてセブンへの警戒を強める。


(今の動き、まったく予想できなかった……。普通なら、避けるにしてもカウンターを打つにしても、必ず予備動作が発生するハズなのに……)



 派手に転んでしまったセブンだったが、無事に大久保を倒せたことに安堵し、カッコつけて立ち上がる。


「フッ、どうした国防軍。おまえらの実力はこんなものか? それでよく俺に本気を出せなんて言えたもんだな!」


「クッ……」


 風香が唇を噛み、渡辺と近藤も大久保をやられた悔しさに怒りを込み上げる。



 セブンのギフト、ラッキー・セブンは、ギフトランクXの、他に類を見ないギフトだった。

 このギフトの恩恵によってセブンは、ギフトを発動していない普段でも他人より少しだけ運が良いのだが、その効果はあらためてギフトを発動する事で発揮される。


 ギフト発動から七分間、セブンの身にあり得ないほどの強運が舞い降りるのだ。

 弊害なのかは分からないが、ギフト発動後しばらくは運勢が下がる(本人談)らしい。


(ギフトを発動したからには、速攻でケリをつけないとな……)


「さあ、かかってこい、女ども! この神に愛されしイケメンが、おまえらに本当の男ってもんを教えてやるぜ!」


 ちなみに、セブンの容姿は良くも悪くも平凡である。

底知れぬセブンに、風香は言いえぬ奇妙な感覚に襲われる。


次回『ラッキーセブン』





※ここからは第6回書籍化記念インタビューです。



崇「気が付けば書籍発売まで一週間をきってました!ということで本日はスペシャルゲストとして、黒夢のボス・桐生辰一郎で~す」


桐「よう」


崇「いや、ボス。ここは、よう、だけじゃなく、自己紹介でもして下さいよ」


桐「自己紹介なら、おまえが紹介してくれたじゃないか」


崇「まあそうですけど……まあいいや。じゃあ、書籍化に関しての感想をもらっちゃいましょうかね」


桐「書籍化か……。書籍化を告知してからというもの、なろうでの更新が随分滞ってるみたいじゃないか。これじゃあこの作品を初期から読んでくれている読者の方々に失礼だとは思わないのか?」


崇「うっ!?……いや、まあ……やっぱ書籍化の際しての準備とか大変なんだと思いますよ?」


桐「そうか。ならおまえは、この作品を見捨てずに読んでくれているファンよりも、書籍で金儲けする方が大事ってことか?」


崇「いやいやいや!そんな事無いですって!ファンの方には感謝いっぱいですよ?出来るだけ更新したいとも思ってますし……って、なんで俺が作者の代弁を!?」


桐「書籍化は確かに結構な事だ。だが、過去にも書籍化が決まった瞬間からなろうでの更新が止まる作品を、おまえも見てきているだろう?おまえはそんな作品に出会うたび、どう思っていた?」


崇「そりゃまあ……書籍化したらもう無料で読めるなろうなんてどうでもいいのかよ?って思ってましたけど……」


桐「なら、俺から言う事は一つだ。書籍化しても、決してなろうでエタるな。それだけだ、じゃあな」


崇「…………ひたすら説教のボスでした~……はあ。さて、明日のゲストは……ボス以外なら誰でもいいや」

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