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第103話 壁を破った男

「ぐぎゃあああああっ!!」


 渋谷では、亀山がジレンのマグマに包まれて、断末魔の叫びをあげていた。


「分かったか? これが俺たち黒夢ナンバーズと、貴様ら陽炎四天王の力の差だ」


 序盤は亀山の予測不能な動きに戸惑いを見せたジレンだったが、すぐに対応し、いとも簡単に亀山をしとめたのだった。



「ちっきしょおぉ~……流石だなぁ。負けを認めてやる……。だが、この戦争は、俺たち陽炎が……勝つ……」


 亀山は、最後の力を振り絞り、甲羅の内側からスイッチを取り出すと、ボタンを押した。


「クッ! しまった!」


 ジレンが瞬時に自分の身体に炎のバリアを張ると同時に、大きな爆発が起こった。


 爆弾は、一○階建てのローザンビルの七階部で爆発し、七階から上を崩れ落とす威力だった。



 爆発の衝撃が収まる……。ジレンは無傷のまま、隣のビルに跳び移り、崩れ去ったローザンビルを眺めていた。


「……下手うっちまったな。まんまと起爆させてしまうとは……」


 すると、数台のパトカーと、国防軍の装甲車がやって来て、ビルを取り囲んだ。


「まずい。このままだと完全に俺が爆弾テロリストだな」


 ジレンは、爆発したビルに国防軍が気をとられている隙にその場を去る。


(悔やんでも仕方ない。次の場所へ行くか)




 ――スカイツリー跡



 爆弾テロの予告により、パニックを起こしている新東京都。いち早く都心から逃れようとする人並みに逆行するように、国防軍の装甲車が爆弾設置現場の一つ、六本木にあるスカイツリー跡に到着した。


 スカイツリーは二〇二〇年のフェノム襲来の際、地面から一○○メートルから先がポッキリと折られ、そのままの状態で残されている。



「都内での爆弾テロか……」


 装甲車から、一○人の軍人が降りてくる。そして、最後に降り立ったのは、国防軍白虎隊隊長・真田比呂だった。


「隊長、今回の件、情報が錯綜してるけど、本当に黒夢の仕業だと思うか?」


 白虎隊副隊長・相良が、比呂に問いかけた。


「どうでしょうね……。黒夢はここ最近、社会に善良なアピールを続けて来た。普通に考えれば今回の爆弾テロを起こすメリットは少ないと思います」


「となると、やっぱり陽炎が黒夢を貶めるために?」


 比呂はスカイツリーを見上げる。


「それは、行ってみれば分かるでしょう」



 既にエレベーターは動いていないため、階段を昇り始めた白虎隊を、スカイツリー上階から見下ろしている人物がいた。


「チッ、黒夢を待ってたら国防軍が先に来やがったか。面倒だな」


「そうだね。もうとっとと爆弾を起爆させて、この場を離れちゃおうか?」


 スカルとジョーカー。元黒夢で、現在は陽炎に籍を置くデンジャラズコンビは、その実力からこの六本木の爆弾設置箇所を任されていた。



「……ん? おいジョーカー、アイツ、見覚えがないか?」


「ん? ……ああ、アイツ、あの時の……」


 スカルとジョーカーはショッピングモールを襲撃したあの日、謎の男と共に自分たちに煮え湯を飲ませた比呂を覚えていた。


「クックック、折角だ。あの時殺し損ねたからな、今度はしっかり借りを返してやろうぜ」


 スカルの中では、比呂は一人なら実力不足の若手軍人の評価でしかなかった。だがジョーカーは……


「……なんかアイツ、身に纏う雰囲気が変わった気がする。嫌な予感がするんだが……」


 ジョーカーは比呂の変化に気付いていた。国防軍の凡百な若手ではなく、歴戦の猛者にしか纏えないオーラを身に付けた比呂に……。


「なにビビってんだよ? だったら試してみるか。おいお前ら、派手に出迎えてやれ」


 スカルの指示により、陽炎の兵隊が二○名、白虎隊に襲い掛かっていった。




「敵襲! フィルズだ!」


 スカイツリー内部を掛け昇っていた白虎隊は、相良の号令で陽炎の兵隊の襲撃に素早く反応した。


 相良の下、厳しい訓練を受けてきた白虎隊の面々にとって、数では上回るものの陽炎の兵隊は相手にならない。一人、二人と鎮圧されていく。



 そこへ、無数の棘が放たれた。その棘は敵味方を無差別に攻撃し、陽炎の兵隊数人を貫く。


「全員警戒!」


 相良が号令をかけると、隊員は全員防御体勢をとり、棘が飛んできた方向に視線を向ける。


「ようこそ国防軍のクソ野郎ども!」


 現れたのはスカル。他の陽炎の兵隊とは明らかに異なる、強者の風格を漂わせている。



 スカルを見て、比呂もまた、あの日を思い出す。


「おまえは……あの時の」


「よう、新兵! 久し振りだな……今度は生かしてやらないぜ?」


 スカルは、あの時点の比呂にとって、到底敵わない強者だった。そして、自分が不甲斐なかったせいで、光輝の存在を死なせてしまった、苦い経験を呼び起こす存在でもあった。



「おまえらがいるって事は、今回のテロはやはり黒夢が主導してたって事なのか」


 比呂の中で、スカルとジョーカーは今も黒夢のメンバーという認識だった。


「やっぱり黒夢が……よし、全員、散開して敵を包囲……なんだ!?」


 スカルを囲もうとした相良は、己の足が粘着性の液体に絡めとられて身動きが出来ない事に気付く。それは、他の白虎隊の隊員も同じだった。


 柱の陰から、ジョーカーが姿を現す。


「ようこそ、デビル・イリュージョンの世界へ」


「クッ!? なんだこの緑色の液体は!」


 緑色の粘着性の液体は、比呂の足にも纏わりついている。以前にも見た能力だが、今回は一切の焦りは無かった。


「ワールド・マスター……」


 次の瞬間、液体は一瞬にして消え去り、隊員たちの拘束が解かれた。



「おいおいおい、どーなってんだジョーカー!?」


「なに? なんで私のイリュージョンが……」


 突然の出来事に動揺しているスカルとジョーカーに向かって、比呂は微笑んだ。


「この技は以前も見たから。舐められたもんだね、同じ手が何度も通用すると思われてるのかな?」


「チッ、新兵ごときが~」


「待て、やっぱりアイツ、あの時と違うぞ。ここは撤退した方が……」


 だがスカルは、ジョーカーの制止を聞かずに、比呂に向かって走り出した。


「身の程知らせてやるわ!!」


 比呂に向かって無数の棘が放たれる。だが……


「身の程か……。確かに、あの時に自分の身の程を知るだけの謙虚さがあれば、未来は変わってたのかもしれないな……。けど、残念ながら今のおまえじゃ、もう俺に身の程を知らせる事は出来ない」


 比呂が棘に向かって手をかざすと、棘は方向を変え、全てスカルに向かって戻って行った。


「なっ!? うぎゃあああっ!!」


 スカルは……無残にも自分の放った棘に身体中を串刺しにされて倒れてしまった。



「スカル!? 何が起こったんだ、今!」


 攻撃を仕掛けたハズのスカルが、自分の能力によって倒れた事に、ジョーカーは訳が分からず叫んだ。


「さあ、次はおまえの番だ、奇術師」


 ジョーカーは己の嫌な予感が当たっていた事を実感する。比呂はもう、あの時の新兵では無い。一年という短期間ではありえないほどに、パワーアップしたのだと。


(冗談じゃないぞ? あの新兵、私の直感だが……桐生やブライトと比べても遜色無いんじゃないか?)



 ここで、本来の無気力なジョーカーなら、一目散に逃げる選択をしたかもしれない。だが、この場で逃げる選択を、ジョーカーは選ばなかった。


(この状況を打破するには、ただ逃げるのは悪手。普通に逃げようとしても、あの新兵からはどうせ逃げられない。なら……)


「ふう……キャラじゃないんだけど仕方ない。このジョーカー、命を懸けたイリュージョンをお見せしよう」


 ジョーカーが胸元から一〇本のナイフを取り出す。そして、一気に比呂に向かって投与した。


「相棒と同じ目に合いたいのか?」


 比呂は、先ほどのスカルにしたように、ジョーカーの攻撃を支配し、ナイフをジョーカーに向ける。だがジョーカーは胸元からマントを出して全身を覆う。すると……


「消えた?」


 ナイフが無人のマントを切り裂いて通過する。その場からジョーカーが消えていたのだ。


 そして、突然ジョーカーは比呂の背後に現れ、ナイフを振り下ろした。


(殺った!)


 確信をもって振り下ろしたナイフ。だが、比呂もまた、その場から消えていた……。


「……なっ? 消えた!?」


 比呂が消えて攻撃が空振りに終わり、驚愕しているジョーカーの耳元で、いつの間にか背後に回っていた比呂が呟く。


「同じことをやり返しただけだよ。ただ、プロセスは違うだろうけど」


 ジョーカーは、背筋が凍り付く感覚を覚える。自分は、死ぬかもしれないと。



 ジョーカーはデビル・イリュージョンを用いて、透明マントを使って己の姿を消した。効果は五秒ほどなので、ダッシュで比呂の背後に回ったのだが、比呂はワールド・マスターを用いて、時を止めた。


(時を止めるのは難しいし、何より効率が悪い。でも、一秒止められるだけで戦況を変えられる)


 ワールド・マスターは、文字通り世界のあらゆる物体……状況までも支配する能力だ。だが、支配するものによってスタミナの消費が異なるし、支配できる時間や効果も変わってくる。


 例えば、自分より熟練度の低いギフトや、物体を支配するのにはそれほどスタミナは消費しない。

 人間を支配するとしたら、戦闘能力や精神力が高い者を支配するのは難易度が高く、効果も薄い。

 そして、状況を支配するのは最も難易度が高く、時を止めるとしても一秒が限界。


 時を止めるのは、訓練次第で時間を伸ばすことも出来るだろう。だが、それに労力を使うのであれば他の力を伸ばした方が効率が良いと、比呂は判断していた。


(ブライトの防御を崩すには、時を止めるとしても、一秒じゃ足りないだろう。たった一秒でも時を止める時間を伸ばすには、その訓練だけで五年はかかる。だから、もっと他の部分を強化しないと)



「じゃあさよなら、奇術師」


 比呂の手刀がジョーカーの首筋を直撃する。ジョーカーは、まるで糸の切れた人形のように倒れてしまった。


 だが、比呂は倒れたジョーカーに違和感をおぼえ、手を添えて確認すると……


「……ん? これ、本当に人形じゃないか!?」



「どうだい、私のデビル・イリュージョンは」


 上から聞こえてきた声に反応すると、そこにはスカルとジョーカーが立っていた。


「なっ、テメエ、さっき自分の攻撃で自滅したんじゃ……」


 確かに、スカルは比呂のギフトによって、自分の攻撃を受けて倒れていた。だから、相良は無傷のスカルに叫んだ。


「自分のギフトなんだから、咄嗟に消すことも出来んだよ! この若造が! テメエら、全員ぶっ殺してやるぜ!」


 スカルは、自分の棘が突き刺さったと見せて油断を誘い、狡猾に隙を伺っていた。


 ジョーカーは、死を覚悟したがほんの一瞬だけ、比呂が時を止める行為に思慮していた間に、自分の身代わりを出現させていた。



 結果的に、いまだ無傷のスカルとジョーカーに、比呂は感心していた。そして……


「……モスト・デンジャラズか。あの時は、俺が未熟だっただけだと思っていたが、なるほどね。おまえらは只の暴れん坊じゃないな。これは、認識を変えないと……」


 今までは、油断していた訳ではないのだが、強者特有の余裕を醸し出していた比呂の眼が、完全に狩人の眼に変わる。その瞬間、ジョーカーはスカルを引っ張って宙に飛び出し、胸元から出した飛行用サーフボードに乗って逃げ去った……。



 飛行しながら、納得していないスカルがジョーカーを問い詰める。


「テメエ、ジョーカー! なんで逃げやがった!」


 怒り心頭といったスカルとは対照的に、ジョーカーは全身に流れる冷たい汗に身体を震わせていた。


「スカル、君は私に感謝するべきだよ。もし、あと一秒でも逃げるのが遅れたら……私たちは今頃死んでただろう」


「ああ? 何言ってんだテメー。確かにあの新兵、恐ろしいほど強くはなってたが……」


 比呂を認めはしているものの、まだそれほど危機感を抱いていないスカルに、ジョーカーは苛立ちを隠さなかった。


「身の程を知るのだ、スカル。私は、この世には絶対に戦いたくない人物が二人いる。それは、ボス……桐生と、あのブライトだった。あの二人は、普通では絶対に到達する事が出来ない、()()()()()()たちだったから。でも、今日……一人増えたよ」


 あまりにも普段と様子が違うジョーカーに、スカルも比呂に対する評価を改める。


「そ、それほどかよ……」


「私たちが生き残れたのは、おそらく一パーセント程度の幸運だったと思った方が良い。今後、あの新兵……いや、真田だったか? アイツと遭遇したら、有無を言わず逃げるぞ」



 一方比呂は、スカルとジョーカーを逃がしてしまったことに、内心では腸が煮えくり返るほどに怒りを覚えていた。不甲斐ない自分に対して。


「……逃がしてしまったものは仕方がない。すぐに爆弾を探し次第、次の場所へ向かうぞ」


 だが、その感情を一切表に出さず指揮をとる。自分は今、この隊の隊長なのだから、自分が動揺すれば全体に影響をもたらすのだからと。



 ……その光景を、黒夢ナンバーズのナンバー9・キララが、自身のギフトを用いて観察していた。


(あの男……ヤバイですわね。とてもじゃありませんが、勝てそうにありませんわ。……でも、かなりイケメンね)


 いろんな意味で比呂をターゲットにしつつ、キララもまた別の場所に移動するのだった。

遂にベールを脱ぐナンバー7・セブン。迎え撃つのは、風香率いる華撃隊!


次回『神に愛されし男』






※ここからは第5回書籍化記念インタビューです。



崇「よう、比呂。久しぶりだな」


比「ああ、そうだね。」


崇「しっかし、おまえのせいでコメント欄がいつも荒れてたよな~」


比「うっ…いきなり攻めるね」


崇「つーかさぁ、今回の話も、めっぽう強者のオーラ出しまくってんな。あんなにクズキャラだったのに」


比「……なんかゴメン」


崇「あんまり告知ばっかすんのも飽きたから、今日は特別に、この作品において比呂がどうして現在の立ち位置に落ち着いたかを作者に聞いて来たぜ」


比「え?それは気になるな。俺も常々思ってたんだ。最終的にライバルにしてくれるんなら、なんで序盤の俺はあんなにクズだったんだろうって」


崇「それなんだがな。第1章を書き上げてる段階では、まだおまえをどうしようか考えてなかったんだと。だから、正義にも悪にも転がれる絶妙な役にしてたらしい」


比「そうだったの?いや、結果的に正義に転がったけど、絶妙じゃなくて微妙だから批判が来たんじゃ…」


崇「言うな。作者も後悔してる。実際、白夢ん時のブライトとの対面の際には、書き始めの段階では比呂には死んでもらおうかな?とまで考えていたようだ」


比「ああ…ちょっと狂ってた時だね…」


崇「ああ。だけど、なんか書き終えた時にはああいう展開になってたんだって。おまえ、頑張ったな」


比「あそこはもう、無我夢中だったからさ…」


崇「ま、おまえ自身がギリギリの所でライバルポジに踏ん張った形だったもんな。もし第二巻が書籍化した際には、おまえのキャラは大幅に修正するらしいぜ」


比「おお、だったら絶対第二巻も読まないと!」


崇「そのためには!もう皆さんお分かりだと思うけど、第一巻の売り上げが大切なんだ!」


比「お願いします!俺をクズじゃないライバルにしてください!」


崇「とゆ~訳で、予約がまだの方はすぐに予約を!じゃ、明日のゲストは……誰にしようかな?明日のお楽しみ!」


比「いずれはWEB版の方でも俺の描写は修正してくれないかな…」


崇「ああそれ、書籍が打ち切りになったら考えるってさ」


比「くっ…それはそれで複雑!だったらWEB版はクズのままで良いよ!」


崇「また、Twitterにて書籍の表紙イラストも公開してるらしいから、良かったらフォローヨロシク!アカウントは、silver@17678125だぜ!じゃあまた明日~」

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― 新着の感想 ―
[一言] 比呂ほどむかつくキャラいないかもしれない、、、、 あ、この作品自体は好きです。
[良い点] ブライトの能力使用による副作用は主人公に相応しいハンデだけど、比呂の方にはハンデがないのかなと、ふと思いました。
感想一覧
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