第102話 頂上決戦開幕
『……今回の爆弾テロに関して、黒夢は一切干渉していません。全ては陽炎の自作自演であり、我々黒夢を貶める行動です。我々はこの卑劣な行為に、同じフィルズとして許す事が出来ません。現在、各地の爆弾解除にメンバーが向かっていますが……』
陽炎に対抗して、黒夢側からも声明が出された。
だが、これまでは黒夢支持派に押されていた反対派が、ここぞとばかりにフィルズが如何にに害悪かを、SNSやメディアを通して声高だかに謳いだしていた。
「クックック、やはり民衆とはバカな奴らだ。ここまで簡単に踊らされるとはな」
――渋谷。四天王の一人・亀山が、同じく四天王の神戸に電話をしながら、自身の兵隊五人と共に爆弾の前で黒夢が来るのを待ち構えていた。
陽炎としては、今回のテロにおける声明では、黒夢の信頼が僅かでも低下すれば儲けもの程度と考えていたので、現状の世論の動きは予想以上のものだった。
……勿論、陽炎側から、神戸が中心となってSNSで黒夢を貶める意見をガンガン発信し、世論を促しはしたのだが。
『そうだね。でも、この程度で信用がガタつくって事は、黒夢のイメージアップ運動なんて実はそんなに効果が無かったのかもね。ちょっと買い被り過ぎだったかな?』
電話の向こうでは、今回のメディアコントロール作戦を考えた神戸が、作戦の想像以上の効果に満足気だ。
「さて、最初はどこに現れるのかな~、黒夢さんは。ジレンが来てくれれば腕が鳴るんだがな」
『現在新東京にいるナンバーズはジレンだけだからね。でも、おそらく戦力を全ての爆弾設置箇所に分散して来るだろうから、君の所にジレンが来るとは限らないよ? というより、ジレンが来たとしても先ずは様子見だからね?』
「ケチくせえこと言うなよ。ジレン来ね~かな~……って、うおっ!?」
突然、亀山を炎の玉が襲った。
「来た! どうやら大当たりが来たようだ。電話切るぜ!!」
亀山の目の前に、ジレンが現れる。
「四天王、亀山か……。悪いが、瞬殺させてもらう」
言うや否や、ジレンは己の拳に炎を纏い、亀山に向かって走り出す。
「上等だあ! かかってこいや!!」
亀山の姿が変化する。身体は一回り大きくなり、全身が緑色に、そして、背中には巨大な甲羅を背負い、亀人間になった亀山は、甲羅の部分でジレンの拳をガッチリガードする。
「……チッ、やっぱり堅えな」
「ガハハハハッ! 俺の鉄壁の防御を崩せるもんなら崩してみやがれ!」
亀山のギフト、【ファントム・タートル】。ランクBの、己の身体を亀人間に変身させるギフトだ。
亀山は飛び上がり、空中で首と手足を甲羅の中に引っ込ませると、鋭く横回転をしながらジレンに襲い掛かった。
「チッ、思ったより速いな」
ジレンは甲羅を回避するが、亀の甲羅は尚も縦横無尽に飛び回る。一撃の威力は時速一○○キロのダンプカーにぶつかる以上の衝撃だ。まともに喰らえばジレンといえどかなりのダメージを受けるだろう。
「グハハハハッ! どうした? 逃げてばかりじゃ爆弾が爆発しちまうぞ!」
ジレンは避けながらも考える。
(この動き、多分自分でもコントロール出来てないみたいだな。だが、だからこそ読み辛い。攻撃を当てるのも一苦労だし、かなり堅そうだが……まあ、ボス程じゃないだろう)
ファントム・タートルはギフトランクBの能力だが、亀山とは非常に相性が良かったのだろう。順調に熟練度を上げた事で、かなり有用なギフトへと成長していた。
「そらそらそらそらあーっ! 避けなきゃ死ぬぜー!」
「……チッ、いい気になるなよ、脳筋が」
――黒夢北関東支部
「チッ……なんなのよこの影どもは!」
黒夢北関東支部では、霧雨の影の兵隊による襲撃に、ナンバーズ・ヴァンデッダが苦戦を強いられていた。
「も~! 影が相手じゃ私のギフトは通用しないじゃない! 相性最悪だわ!」
ヴァンデッダのギフト、ナイトメア・ルアーは、対象に幻覚を見せる能力だが、相手は生物ですら無い影。影に幻覚を見せるのは不可能だった。
「ハッハッハ! 流石のヴァンデッダも、ボスが作り出した影の兵隊には成す術が無いようだな!」
苦戦するヴァンデッダに、影の付き添いで付いてきていた陽炎のメンバーである『ザーコ』が勝ち誇ったように叫んだ。
「……言ってくれるわね。私がナンバーズになれたのは、なにもギフトだけが要因じゃ無いんだけど」
ヴァンデッダの表情が変わる。まるで冷血な女王の様に……。
立ったまま動かないヴァンデッダに、影が襲い掛かって来た。この影は、生前は国防軍の少佐だった男で、戦闘力はかなり高く、優秀な男だった。
「ふん!!」
だが、その影はヴァンデッダの廻し蹴りを喰らって消え去ってしまった。
「幻視は使えなくても、ギフト無しの肉弾戦なら多分ジレンと同じくらい強いんだけど、私」
影をアッサリと打ち消したヴァンデッダに、ザーコは驚愕を覚える。
「なっ! あの影はかなりの実力者だったのに……」
「フフフッ、アンタたちが喧嘩を売ったのが誰だか忘れたの? 私たちは黒夢よ? 周りを見てご覧なさいな」
言われてザーコが辺りを見渡すと、影は全て消え去り、黒夢のメンバーが数人立っていた。
「なっ……ぜ、全滅?」
「黒夢にはね、アンタらの四天王クラスの実力者がゴロゴロいるの……ナンバーズだけじゃないのよ。分かったかしら?」
「ううう……ちくしょう!!」
ザーコは、一目散に逃げだした。転移石は往きの分しか無かったから、自力で逃げるしかない。
(なんてこった……! ボスの影ならいい勝負をするって、四天王も言ってたのに、まるで相手にならないじゃないか! 話が違う!)
「!?」
突然、ザーコの足が重くなる。ふと足元を見ると、消されたハズの影たちがザーコの足を掴んでいた。
「なんだ!?」
「……逃ゲルナ……置イテイクナ……卑怯者……」
喋らないハズの影が、ザーコに恨めしそうに語りかける。
「ヒイッ! なんだよこの影ども!」
ザーコが一心不乱に影を振り払おうとするが、影は消えては現れ、足に纏わりついて離れない。
「オ前ノ身体ヲヨコセ!!」
「なっ……ぎゃあああああっ!!」
影がザーコの口から体内に入って行く。一体、二体と……
「あごごごごっ……」
結果、ザーコは白目を剥いて倒れてしまった……。
倒れたザーコの下に、ヴァンデッダがやって来る。
「馬鹿ね。影には効かなくてもアンタには私のギフトは効くのよ。どう? アナタの目には、私が最初は苦戦していたように見えていたかしら?」
最初にヴァンデッダが影に苦戦していたのも、既にザーコが見た幻だった。結果、ザーコに気付かれる事なく、他の黒夢のメンバーが影を打ち倒せたのだが、仮にヴァンデッダがザーコにギフトを使わなくとも、結果は変わらなかっただろう。
「影に私のギフトが通用しない事には変わりないからね。せっかくだから、アナタだけには悪夢を見せてあげたんだから、感謝しなさい」
ヴァンデッダの下に、黒夢のメンバーが集まる。
「さて、私はすぐに本部へ飛ぶから、貴方たちは念の為にここの防衛にあたって」
胸元から転移石を取り出し、宙に放り投げる。
(陽炎も今回は本気みたいだし、油断は出来ないわね……)
ーー黒夢本部
ヴァンデッダが本部に転移すると、既に他の支部に散っていたハズのナンバーズが、それぞれの支部を襲った影を撃退して集まっていた。
「遅かったじゃねーか、ヴァンデッダぐげっ!?」
ナンバーズで一番早く到着していたクロウが得意気に言うと、横からキララの鉄拳が飛んできて、クロウは激しく吹っ飛ばされた。
「お姉様に生意気な口たたくと殴るよ」
既に殴ってるじゃん……とは誰も言わず、マスラオを無視してナンバー3のクロノスがヴァンデッダに声をかけた。
「どうせまた遊んでたんだろう? まったくおまえは……」
クロノスは、年齢的にはジレンより上の四九歳。だが、見た目はまだ三〇前後に見え、フサフサの髪をポニーテールにしてまとめている。桐生が抜けた今、もっとも古参のナンバーズだった。
「バレました? それにしても、お久しぶりです、クロノス先生。滅多に北海道から出ていらっしゃらないから心配してたんですよ?」
「ハッハッハ、まだまだお前らに心配されるほど衰えておらんぞ?」
クロノスは北海道に常駐する以前は、黒夢メンバーの教育係ともいうべき存在だった。だから、桐生以外で唯一敬語を使うほどにヴァンデッダも敬意を持っていた。
「もう~陽炎のヤツラ、ウチに本格的に喧嘩売ってくるなんて、面倒だな~」
小麦色の肌と胸元まで伸びた無造作な髪型をした男……ナンバー7・セブンが欠伸をしながら呟く。
「貴方も久し振りね、セブン。南国生活に浸りきって、毎日ダラダラ過ごしてるとは聞いてたけど」
「む? 失敬だなぁ。沖縄支部は俺がいなくても他のメンバーがしっかりしてるからな。それに本土より揉め事も少ないし」
ヴァンデッダはセブンを見てると、出来ない上司を持つことが社員の最も成長する要因なのではないかと考える。
「さて、これで国内にいるナンバーズは全員揃ったわけだから、早速君たちには爆弾解除に向かってもらうYO」
そう言って、ラインは紫色の布袋を手に持ってきた。
「次元袋ね……。それに爆弾を入れる訳か」
「そういうこと。流石に君たちは専門職じゃ無いから、その場で爆弾解除なんて出来ないだろ? この袋に物を入れれば、一旦物の時間が止まるからね」
次元袋。この袋の中は外界から遮断されており、一切の時の流れが止まっている。大きさはスーパーのビニール袋のサイズだが、ある程度伸縮自在で、人間一人くらいなら入れる事が可能となっている。
ちなみにこの袋は、クロノスのギフトを活用して作られている。
「さ、既にジレンが現場に向かっているから、皆も早く向かってくRE」
「やれやれ、陽炎ごときに後手に回されるとは、俺も本部に戻った方がいいかな? この件が片付いたら、お前らを一から叩き直してやるか」
クロノスの一言に、その場にいた全員が青ざめる。
「……そ、それは今回の件の結果を見てからで良いんじゃないでしょうか? ねえ、セブン」
「お、俺はこの件が片付いたら直ぐに沖縄に帰るからな!」
「クロノス先生のシゴキ……絶対に御免こうむりますわ!」
「いてて……、おお! クロノス先生、俺はどんなシゴキにも耐えてみせるぜ!」
若干一名、気合いを入れ直したみたいだが、他のメンバーは絶対にシゴキを回避すると誓い、現場に向かうのだった。
爆弾テロ鎮圧のために動き出した国防軍。現場の一つであるスカイツリー跡に向かった比呂は、そこで因縁の二人組と再会する……。
次回『壁を破った男』
※ここからは第4回書籍化記念インタビューです。
崇「やってきました!今日で4回目を迎える書籍化記念インタビュー。本日のゲストは、メインヒロインの対抗馬でもあるティザーさんです!」
テ「ちょっと、メインヒロインって何よ?私は別にそんなつもりないんだけど?」
崇「素直じゃないな~。さて、書籍第一巻では、この俺を差し置いて随分出番が増えてるようですね?」
テ「そうなの。私の事はどうでも良いんだけど、ヨガーとミストの出番も増えてるから期待しててね」
崇「あの二人、良いキャラだったもんな。出番が増えたんなら俺も嬉しいよ」
テ「あら?アンタはそんなに接点無かったでしょ?私とだって、アンタがブライト君とバディになってから話す様になったくらいだし」
崇「細かい事は言いっこなしだぜ!さて、肝心な質問がまだだった。書籍化の感想を聞かせてくれい」
テ「感想ねえ…。私は脇役だし、光輝や風香とは違って特別思う所は無いわよ」
崇「いや…第一巻だけ見たら、ティザーの方が風香より出番があるから、これだけ読んだ読者はティザーがメインヒロインだと思うんじゃね?そんな描写も追加してるみたいだし」
テ「まさか。私は脇役。身の程は知ってるわ」
崇「そんなこと言ってるキャラが、最期にメインヒロイン相手にジャイアントキリングする展開の作品も多いからな~」
テ「フフフッ…ま、なるようになるわよ」
崇(コイツ、まんざらでもないな?)
テ「なんにしても、書籍化なんて凄いことね。出来るだけ多くの皆様に、実際に手に取って、読んでもらいたいわね」
崇「そうなんだよね。先日も言ったけど、マジでかなり加筆修正してるから。物語の軸を変えず、その上でまた新たに最初から読み直しても楽しんでもらえると思うよ」
テ「そうなんだ?だとすると、第二巻もかなり加筆されるんだろうね」
崇「勿論!でも、そのためには第一巻の売れ行きが肝心なんだ。てなわけで、漆黒のダークヒーロー第一巻、もう色んなサイトでネット予約は開始してるから、買える所で買ってください!もちろん、お近くの書店で見かけたら、即ゲットだぜ!……あれ?はじめてまともに紹介できた気がする」
テ「良い脇役はね、趣旨を見誤らないのよ」
崇「おお…流石、デキル女は違う!」
テ「じゃ、私の仕事は終わり。じゃあね~」
崇「おおう……デキル女は無駄も嫌うな。じゃ、明日のゲストは皆見たくないだろうけど、ライバル役の真田比呂だ!よろしくな!」