第101話 爆弾テロ
※記念すべき、本編100話目です!
黒夢は本部の他に支部が六つ存在する。北海道、宮城、茨城、大阪、福岡、沖縄だが、既に宮城県の仙台支部は壊滅状態。
残り五つの支部にはナンバーズがそれぞれ配置され、陽炎からの襲撃に備えていた。
北海道には常駐のナンバー3・“次元の支配者”の異名を持つ『クロノス』。
茨城県の北関東支部にはナンバー4・ヴァンデッダと帰国後合流予定のナンバー6のイーヴィル。
大阪府の関西支部には普段から常駐のナンバー8・クロウと、帰国後に合流予定のナンバー10・ティザー。
福岡県の九州支部には、普段から常駐のナンバー9・キララ。
沖縄県の沖縄支部に常駐のナンバー7・“神に愛された男”の異名を持つ『セブン』。
本部をナンバー2・ジレンと、帰国後合流予定のナンバー1・ブライト。
それぞれの場所に散ってはいるが、お互い連絡を取り合う事で、襲撃された箇所に即座に転移する予定だ。
これは、国防軍ですら常設されていない転移能力を、日本で唯一自由に扱える黒夢だからこそのアドバンテージでもあった。
――陽炎本部
ボス・霧雨の部屋には、陽炎が誇る四天王が揃っていた。
四天王のリーダー格で霧雨に次ぐ陽炎ナンバー2・冠城隆史。
“破壊者”・『亀山康文』。
“博識者”・『神戸光博』。
“暗殺者”・『甲斐寛美』。
「さあ、時は来たぞ!!」
冠城が鼓舞する様に叫ぶと、他の四天王のメンバーも力強く頷く。
「ようやく邪魔な黒夢のヤツラを全員ぶっ殺せるんだな!」
筋骨隆々の男、亀山が嬉しそうに叫ぶ。
「最近の奴等の行動には虫唾が走りましたからね……。でも、おかげでウチの構成員が増えたのは僥倖でしたし、やっぱりフィルズはフィルズらしく立ち回らないとねぇ」
知的な雰囲気を醸し出す神戸は、メガネの位置を直しながら猟奇的な笑みを浮かべる。
「……忌々しい黒夢をようやく叩けるのね……。ブライトがいないのは残念だけど、アイツが帰って来た時に組織が壊滅してるのを見せ付けてやるのも面白そうね」
暗殺者らしく、表情を変えないままサラッと告げる甲斐。彼女はブライトに特別な敵意を抱いている様だ。
「俺たちは予定通り行動する。準備はもう出来てるから、あとはスイッチを押すだけだ。こちらの作戦通りに進めば、黒夢側は確実に後手にまわるだろうが、念には念を。ボス、お願いします」
「……ああ、作戦通り、僕の影を黒夢の各支部に一○体ずつ送ろう。これで黒夢の戦力を少しは分散出来るだろうからね」
そう言うと、霧雨は足元に置かれてあった箱を開け、そこから無数の転移石を取り出した。
「この転移石はまだ国防軍で実験段階の物だったけど、既にテストはクリアされてる物だから、多分大丈夫だろう。これで、各自現場へ向ってくれ」
黒夢には転移系のギフト能力者がいる事で転移石を量産出来ているが、転移系の能力者は希少なため、他の組織は移動面で黒夢に大きく劣っていた。
だが、国防軍は独自の研究を重ねて、転移石を作る事に成功。作り上げた転移石は、既に何度かのテストをクリアしており、一年前の白夢討伐作戦においても権田が使用している。
「いよいよですね……ボス」
冠城が、いっそう表情を引き締める。
今回の作戦は、半年も前から計画されていた。黒夢の変化により、フィルズの立ち位置が変わり、世間的にもフィルズは無法者ばかりでは無いという風潮が広まりつつあった。
だが、その黒夢の変化に陽炎は異を唱えた。好き放題やれるのがフィルズ、フィルズはフィルズでいてこそ、裏社会を円滑に回す事が出来るのだと、陽炎は主張していた。
それでも、相手は世界有数の力を持つ黒夢。ボスの桐生だけでも厄介だったのに、ブライトという化物まで現れた。他にも黒夢のナンバーズは実力者揃いで、迂闊に手を出せなかったのだ。
状況が変わったのは、黒夢内でも桐生の考えに賛同できなかったフィルズが脱退し、そのほとんどが陽炎に流れて来て、数の上では互角になった頃からだった。
それからは、タイミングが勝負だった。数で並んだとしても、個々の実力はまだ黒夢が上だろう。せめて、桐生とブライトさえいなければと、その機を狙っていたのだ。
「やりたい事もやれないこんな世の中なんざ、俺たち陽炎が塗りつぶしてやる……」
冠城は、掌から緑色のオーラを出して呟く。
「なんもかんもぶっ潰す!」
亀山が両拳を合わせて気合いを入れる。
「まあまあ、ここはスマートに、この国の覇権を握りましょう」
神戸が腕を組ながらニヒルな笑みを浮かべる。
「誰が最高の暗殺者なのか……教えてあげるわ」
甲斐は無表情だが、その眼に殺意を宿す。
「さあ、ショータイムだね」
霧雨の声と共に、背後に無数の人型やフェノムの影が現れた。
「黒夢は、今日で事実上の壊滅だね。じゃ、健闘を祈るよ」
霧雨の号令を受け、影達が一斉にいよいよ陽炎が動き出す。
――黒夢本部
作戦指令室にてレーダーのモニターを確認していたラインは、モニターのひとつ、都内中央エリアのオフィスビルの一角が爆発する光景を見て驚いていた。
「これは……テロ!? まさか陽炎……でもなんで? アイツら、ウチに襲撃を仕掛けるんじゃなかったのか!?」
モニターは全国各地、全部で一○○箇所を捉えている。当然陽炎の襲撃に備え、どんな些細な変化も見逃すまいとチェックをしていたのだが、本部・支部とも全く関係の無い場所での異変は予想外だったのだ。
すると、地上波放送の電波を映しいたモニターがジャックされ、陽炎のナンバー2・冠城が映った。
『新東京都民の皆さん、ごきげんよう。私は陽炎の冠城と申す者だ……』
ラインと同じく、モニターを眺めていたジレンは、何かを察した様に舌打ちをする。
「冠城……どういうつもりだ? こんなおおっぴらに素顔を晒すとは、陽炎幹部らしくないな」
当然、陽炎はフィルズ組織だ。黒夢の活動の影響でフィルズの社会的地位は見直されつつあるとはいえ、まだ多くの一般市民にとってはフィルズ=凶悪な犯罪者であり、黒夢のライバル組織である陽炎ともなれば、素顔を晒すのは得策では無かった。
『我々の情報によると、中央エリアの爆発は、黒夢によるものだと判明した。更に奴らは、都内の五箇所に同様の爆弾を設置している。現在我々は懸命に爆弾の解除作業を行っているが、爆弾がいつ爆発するかは我々も把握していない』
「なんだって!? 爆弾を、黒夢がセットしてるだTO!?」
身に覚えが無いラインとジレンは、冠城の告発を唖然として眺めている。
『……爆弾が設置されている箇所は、新宿スタジオA・渋谷ローザンビル・巣鴨商店街・六本木ビルズ・スカイツリー跡となっている。付近にいる方々は、直ぐに避難してくれ。繰り返す……』
ジレンが怒りを込めてテーブルを叩きつける。
「クソッ! 奴ら、都内で大規模テロを起こし、それをウチがやった事にするつもりか!?」
「……なるほど。直接ウチに攻撃を仕掛けるのではなく、テロを起こしてウチらを誘き出そうって魂胆かNA。でも、解せないね。陽炎はフィルズが市民権を得る事に反対だったハズ。黒夢に代わり、世間からのイメージを良くするつもりなんて無い。だとすると、考えられるのHA……」
「奴らはただ、俺たちを……いや、最終的にはフィルズ全体を貶めたいのさ。そうすれば、俺たちがこれまで築き上げて来たフィルズの評価を瓦解出来るしな」
陽炎は、今回の件で黒夢の評価を貶めるのが目的であり、決して黒夢に代わって善良なフィルズの立ち位置を欲している訳では無いと、ジレンは考えた。
「結局、ただ暴れたいだけ……。余計にたちが悪い。結果的に、フィルズは所詮フィルズだと思わせたいんだろう。今すぐ、支部に散っているナンバーズを呼び戻そう」
すると、全ての支部から緊急の報告が入って来た。
「え!? 全ての支部が、陽炎のボス・霧雨の影による襲撃にあってるっTE!? 」
「なるほど……随分用意周到なこった。最初に仙台支部を襲ったのも、俺たちの警戒心を煽るのが目的で、全ては都内のテロを円滑に進めるための布石か。ふん、計算通りって訳か。さて、どうするのが最も良い選択だ?」
もし、黒夢が爆弾解除に向かえば、陽炎の抵抗に遇うだろう。もしくは、現場に到着した時点で起爆され、有無を言わさず犯人にされてしまうかもしれない。
動かなければ、このまま悪評が広まる。後から潔白を表明しても、それはそれで何故爆弾解除に向かわなかったのだと批判が来るだろう。
「……チッ、一般市民ってのは、情報の真意を知ろうともせず、勝手な事ばかり言い出すからな」
「……それが民意ってもんだYO。その民意を、これまで頑張って良い方向に持って来たのに、一瞬でパーにされちゃうかもしれないなんて、理不尽だNE」
ジレンは考える。桐生なら、どう考え、どんな行動に出るかを。
内心では、動いても動かなくても、黒夢のイメージダウンは避けられないのなら、動かない方が被害も少なくて済むと思っている。
でも桐生なら。桐生が長年求め続けた夢を継続させるためなら、どう動くか?
「ふぅ。各支部のナンバーズは、襲撃を撃退し次第、直ぐに本部へ帰還。その後、爆弾解除に向かわせてくれ」
ジレンは、やれやれといった表情で、ラインに指示を出した。
「動くんだね。分かった、焼け石に水かもしれないけど、一応黒夢側からも反論の声明を用意して配信しよう」
「ああ。もし、これでこれまでのイメージが瓦解したとしても、そのお返しとして陽炎は、この機会に完全にぶっ潰してやる……」
そう言って、作戦指令室を後にしたジレンの表情は、誰も見た事が無いほどの怒りと、狂気の入り交じった笑みを浮かべていた……。
陽炎の周到な動きに、黒夢側もナンバーズが集結して立ち向かう。
次回『フィルズ頂上決戦開幕』
※↓ここからは第3回書籍化記念特別インタビューです
崇「お待っとさんでした!第3回目のゲストは、メインヒロイン(仮)の水谷風香だあ!」
風「皆様はじめまして。えっと、水谷風香です。よろしくお願いします」
崇「風香はあいかわらずおっとりしてるなあ。もっとグイグイいかなきゃ(仮)が外れないどころか、メインヒロインの座も危ういぜ?」
風「……気を付けます。あれ?崇彦君、足が凍ってますよ?」
崇「あわわわ……ごめんなさい、水谷将軍様」
風「将軍?なんのことですかねえ?」
崇「ええーい!話が進まん!では最初の質問!メインヒロイン(仮)として、書籍化の感想をお聞かせ下さい!」
風「そうですねえ……とても嬉しいですけど、私も崇彦君同様、今回の第一巻ではあまり活躍するシーンが多くないので、第二巻が発売されることが出来たら嬉しいですね。あれ?崇彦君、腰の辺りまで凍ってますよ?」
崇「さ……寒い。つか、ちゃっかり買ってアピールをぶっこんでくるとは……流石メインヒロイン」
風「(仮)が取れてる!ありがとうございます。特別に氷を溶かしてあげますね」
崇「……そんなにメインヒロインに拘ってるのか……」
風「……あれ?また足元が凍りそうですよ?」
崇「たはっ!風香がメインヒロイン!間違いなし!さて次の質問!風香のイラストが公開されてましたが、自分がイラストになるってどんな気分?」
風「いやあ、こんな可愛く描いてもらえて、本当に嬉しいです。イラストレーターさん、ありがとうございました」
崇「やっぱプロは違うよなあ。作者が描いたイラスト、早々に消しといて良かったな。さて、せっかくゲストに来てもらったんだけど、確かに風香も俺と同じで、第二巻で出番が増える感じだから、今回あんまり聞く事無いんだよなぁ」
風「そうなんですよねぇ。やっぱり皆様にお願いして、なんとしても第二巻を出させてもらわないと……」
崇「案外グイグイ行くな。こりゃやっぱ(仮)は卒業かな?」
風「崇彦君、実はイイ人だったんですね。見直しました」
崇「だろ~?さて、そろそろ時間だ。明日のゲストはティザーの予定だ!」
風「ティザーって誰ですか?まさか……ライバルじゃないですよね……?」
崇「やめろ。その底冷えするような視線で俺を見るのは。ティザーは……黒夢の仲間だよ。うん。決してメインヒロインを争うライバルなんかじゃ無いから」
風「……私、明日も来ていいですか?」
崇「ダメ!三人になると文章が乱れるから!じゃ、じゃあ皆、また明日~!」
風「ちょ、待って下さい!私、明日も来て良いですよね……」