第100話 長い一日の始まり
――黒夢本部・作戦指令室
黒夢仙台支部が陽炎による襲撃に遭い、壊滅した。
これは、黒夢にとっても全くの予想外であり、ラインは大混乱に陥っていた。なぜなら、黒夢のボス・桐生が不在の中、起こった事件だったからだ。
桐生はブライト達がドイツに発つと同じくして、自分も「ちょっと出かけて来る」と、一言残して消えてしまったのだ。
これまでも桐生が突然いなくなる事はあったし、いなくなるのにも必ず理由があったから、ラインもいつものことだと諦めていたのだ。
だが、状況が変わった。ひとつの支部が壊滅させられたのだ。すぐにでも桐生に報告したかったが、桐生は失踪中は一切連絡が取れなくなるのだ。
その上、ナンバーズのナンバー1・ブライト、ナンバー6・イーヴィル、ナンバー10・ティザーというナンバーズの三人が不在。
状況的に、非常に苦しい展開になりつつあった。
「こんな時に、ボスは相変わらず音信不通だし、ブライト君たちまDE……」
「落ち着け、ライン。まずは、仙台の報告を整理しよう」
黒夢本部、作戦指令室。
運営統括本部長・ライン、ナンバー2・ジレン、ナンバー4・ヴァンデッダ、そしてナンバー8・“猛る金狼”の異名を持つ『クロウ』、ナンバー9・“闇の歌姫”の異名を持つ『キララ』の五名が集まり、緊急の幹部会を開いていた。
「……分かったよ、ジレン。今から三時間前、黒夢仙台支部は陽炎の襲撃により、ほぼ壊滅。現状で確認されてる死者は九名、重軽傷者は二九名。ナンバー5・ハイドローは意識不明の重体で、今は転移されて本部医務室で治療を受けているYO」
「まさか、ハイドローがやられるとはね……。陽炎も、いよいよ本気で戦争を仕掛けてきたってことね」
口調は冷静だが、表情に怒りを滲ませながらヴァンデッダが呟く。
「今回の陽炎の襲撃部隊は、ナンバー2・冠城を筆頭に、陽炎の主力部隊と、ウチから抜けたメンバーも含め三〇人、そして……霧雨のシャドウが一〇体。予想していなかったとはいえ、まさかこれ程の戦力で向かってこられたら、本部以外のアジトじゃあどこも太刀打ち出来なかっただろうNE」
「ウチから抜けた奴等も含めて三〇人と霧雨のギフトの影が一〇体か……クソッ、だから俺は脱退者の容認には反対だったんだ!」
黒夢の活動の方向転換により、その路線に馴染めないと判断した多くのメンバーが抜けた。
ジレンは、抜けたメンバーが敵になることを恐れ、桐生に脱退を認めないよう提言していたのが、桐生はメンバーの自主性を優先させたのだった。
「過ぎた事を言っても仕方ないわ。ボスの作戦もいよいよ大詰め……それは、ナンバーズなら皆知ってるハズ。ここで邪魔されたら水の泡になる可能性だってあるんだから、何か手を打たないとね」
「そうだね。ボスも、その最後のピースを手に入れるために今回行動してるんだろうから、仮にボスとコンタクトが取れなくても、僕たちだけでなんとかしないNE」
比較的冷静な会話が続く中、その雰囲気に黙っていられない男がテーブルを叩いた。
「だったら、とっとと陽炎の本部を叩きゃいーんじゃねえのかよ! ああっ!?」
ナンバー8・クロウが吠えた。金髪のリーゼントヘアが、彼の柄の悪さを強調している。
「そうは言っても、もし本部を強襲して、それが罠で、逆に手薄になったこっちの本部を狙われる可能性だってあるんだよ? 今は情報を集め、そして仮に二手に別れても充分な戦力が揃うのを待つべきだRO?」
「充分な戦力? 俺たちだけで充分だろうが!」
あくまで冷静なラインに、クロウは反抗的な態度をとる。
「いや、せめてブライト君の帰りを待とう。イーヴィルには緊急メールを送ったから、明日にでもドイツから帰ってくるハZU……」
「ブライト? ハッ! あんな新参者いなくたって、俺が陽炎なんざぶっ飛ばしてやんよ!」
クロウのイキり顔を見て、ヴァンデッダが愉快そうに言う。
「……そのブライトに事ある毎に喧嘩を売っては、その都度返り討ちにあってるのはどこの誰だったかしら?」
「ぐっ……俺はまだ負けた訳じゃねー! 今はまだ、いずれ勝つための途中だ!」
クロウはこの一年間で、通算二〇回ブライトに喧嘩売っていた。そして訓練場で行われた模擬戦形式の喧嘩? は、その全てがブライトの勝利で終わっている。ちなみに、ブライトは常にクロウをウザそうにあしらってる感じなのだが。
「大体あの野郎は卑怯なんだよ! 消えるわ、見えない攻撃するわ、すばしっこいわ、堅えわ、もろもろ反則なんだよ!」
「あら? 分かってるじゃない。その反則じみた強さが、今の私たちには必要だって事でしょ?」
「ぐぐっ……」
クロウは、何度負けてもブライトを認める事は無かった。なにより、ブライトの事が大嫌いだったから。
理由としては、強い(クロウ本人は認めようとしないが)上に、イケメン(クロウ本人は素顔を知らない)のオーラを漂わせ、そして最も大きな要因は、密かに想いを寄せていたティザーといつも一緒にいるのが気に食わなかったからだ。
「ライン、ブライトたちはドイツの任務を終えてるんだろう? もう少し早く帰って来れないのか?」
「ん~、瞬間転移も海外は範囲外だからね。どうしても日本までの移動は飛行機になるから、どんなに早くてもやっぱり明日になるだろうNE」
ラインの言葉に、ジレンは暫し考える。多分……いや、確実に陽炎はこのタイミングを狙っていたのだろうと。
ならば、ブライトが帰ってくる前に、また動いてくる可能性は大きいと。
「ブライトたちを除き、俺たちと各地に常駐しているナンバーズで、この本部と残りの支部を分散して防衛しよう。連絡を密に取り合い、何かあれば転移で駆けつけれる様に、まずは防衛を徹底するぞ」
「ああ!? 天下のジレンともあろう者がビビったのかよ!? んな回りくどい事しねーで、一気に攻め込もうぜ!」
ボス以外には敬語を使わないクロウがジレンに噛みつく。
その光景を、ジレンやライン、ヴァンデッダが、やれやれといった雰囲気で相対していると、今までおとなしかったナンバー9・キララが口を開いた。
「ジレンさんの言う通りですわよ? 貴方はいつも口ばっかりでブライトさんにも負けっぱなしですのに、威勢の良い事ばかり言わない方が良くてよ」
キララは、普段は物静かでおとなしい。口調もおしとやかなお嬢様キャラである。そして、ギフトの特性を活かして、黒夢の戦略の一貫として歌手デビューするや、瞬く間にスターダムにのしあがり、世間的な知名度はブライトと並ぶ程の、黒夢の広告塔でもある。
そのキララが、クロウにだけは強気な態度をとる。それは……
「ぐぐぐっ……、姉ちゃんは相変わらずひでぇ事言うな……」
クロウとキララ。二人は実の姉弟だったからだ。
「大体、貴方のギフトは完全な防御系で、明らかに支援型ですわよね? 貴方一人で何が出来るのかしら? ねえ、あるんなら教えて下さらない?」
【インビジブル・シールド】。ギフトランクはA-。インビジブル・スラッシュと系統が同じ能力である。クロウのギフトは、その性格と攻撃的な見た目に反し防衛型なのだ。
創られた最大で縦五メートル・横三メートル(調整可能)の盾は、桐生の攻撃を数回耐える事が出来る上、砕かれても直ぐに復元が可能。半径三〇メートルならどこにでも出現させる事が可能なので、完全に後方支援タイプだった。
「ぐぐぐぐっ……盾でぶん殴る……」
「それが通用するのはせいぜい一流クラスまでの能力者にだけですわよね? だからブライトさんの様な超一流には全然攻撃が当たらないんじゃなくて?」
「いや、だってアイツは速すぎるから……。他の奴らになら……」
グチグチと言い訳を言うクロウに痺れを切らしたかの様に、キララの顔に青筋が浮かんだ。
「……あ? だったら私には通用するって言うの? なんなら試してみるかコラ?」
清楚なアイドルの様なキララの表情と口調が、クロウと同じヤンキーっぽく変わる。やはり姉弟である。
「キララ、また悪い癖が出てるわよ? ほら、教えた通りに、スマイルスマイル」
「はっ!? 私とした事が……すみませんでした、お姉様」
キララは黒夢に入った当初は、クロウ以上の荒くれ者だったのだが、ヴァンデッダに矯正され、彼女をお姉様と崇拝する様になっていた。
「さて、俺の予想が正しければ、一刻の猶予も許されない。早速行動に取り掛かるぞ」
ジレンの一声で、その場の全員が一斉に立ち上がり、自分に与えられた任務に赴く。
そしてこの時から、黒夢にとって最も長い一日が始まろうとしていたのだった。
黒夢と陽炎。互いのトップが集結し、いよいよ決戦の火蓋が切られる……
次回『爆弾テロ』
※↓ここからは第2回書籍化記念インタビューです。
崇「こんばんわ。皆のアイドル、ゴッド・アイこと的場……」
光「それ昨日も言ったじゃん。あ、主人公の周防光輝です。よろしく」
崇「テメッ、ちゃっかり自分だけ名乗りやがって!!……さて気を取り直して、書籍化に際しての大幅な加筆とは、一体どんな内容なんですか?」
光「お、昨日の続きか。加筆に関しては、まあ主要キャラ以外の出番を増やしてることかな」
崇「主要キャラ以外ねえ。例えば?」
光「例えば、ヨガーとミストの出番が増えてたり、あと目玉はやっぱり、書籍オリジナルの新キャラが登場してる部分かな」
崇「新キャラ!?え?どんな??」
光「それは……是非、本を読んでもらえれば幸いです」
崇「商売上手か!?新キャラ……気になるな~。そのせいで俺の出番が少なくなってたりして?」
光「え?何言ってんの?今回は第2章までって言ったよな?」
崇「うん、言ってた…………って、ああっ!!第2章までって、俺の出番あんま無いじゃん!!」
光「そゆこと。まあ、今回の書籍第一巻の売れ行き次第では、第二巻って話にもなってくるだろうし、おまえの見せ場はそこからだろうな」
崇「お願い!皆、本買って!それで、第二巻で俺に活躍させて!!」
光「商売上手か(笑)」
崇「と言う訳で、第一巻を皆様に買ってもらうべく、明日からもバリバリ買ってアピールしてくんでヨロシク!」
光「本音が(笑)でも、大幅な加筆修正により、WEB版を読んだ皆さんが改めて書籍版を読んでも新鮮な出来にはなってると思うので、宜しかったら是非読んでみてください。あ、崇彦。なんか作者が、おまえが可哀そうだからって、一応おまえメインの話も後書きっぽく追加しといたらしいぞ?」
崇「え……マジ?やった!よし皆!俺の出番もあるみたいだから、絶対読んでくれよな!」
光「よろしく~」
崇「それじゃあ、明日のゲストは水谷風香だ!じゃあまたな、光輝!」
光「おう!それでは皆様、ありがとうございました!」




