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第99話 霧雨宇京

書籍発売を記念して、本日から書籍発売特典として、後書きにて崇彦をインタビュワーに迎えて、書籍版の見所などを紹介していきたいと思います。


※過度な書籍買ってアピールがムカつく!という方は、暫くの間は後書きをスルーしてね!


 彼は、生まれた時から独りだった……。



 両親の記憶も無く、物心つく頃には孤児院で育てられていた。


 普段から無口で無表情。その上、同年代の子どもたちより身体が小さかったから虐められもした。でも、彼は何とも思わなかった。


 どれだけ殴られても、どれだけ罵倒されても、どれだけ嫌なことをされても、彼は無感情だった。無表情で、独りブツブツと、一日の出来事を自分の影に向かって話しかけていた。


 彼は、生きるということの意味を実感していなかった。だから、死というものにも関心がなかった。


 今日も一日が終わった。殴られた。痛かった。でも、それだけだ。一日の報告を自分の影に話し、また、明日が来る。毎日がその繰り返しだった。



 どんな時でも無表情で、言葉の少ない彼を、大人たちも次第に気味悪がるようになった。


 でも、彼は気にしなかった。それが、辛いことだとも思わなかったから。



 そんな彼が八歳になった時、急な転機が訪れる。


 いつものように孤児院外で子どもたちと遊んで……いや、虐められている時だった。犬型のフェノムに遭遇したのだ。



 孤児院は市街地から少し離れた場所にあったから、フェノムが迷い込んで来る事は珍しくはなかった。そんなフェノムを討伐するのが国防軍や警察の役目なのだが、どうしても目が行き届かない場合もあり、年間の犠牲者は数千人を超える。


 今回も、このままなら子どもが数人、フェノムの犠牲になるだろう。


 だが、そうはならなかった。


 子どもたちは、彼を囮にして、自分たちだけ逃げ出したから。



 独り、フェノムの前に残された彼だったが、恐怖は感じていなかった。噛まれたら死ぬことは想像できたが、ただ、それだけだと思っていたのだ。ただ、死ぬだけ……。


 だが、フェノムに腕を噛まれた瞬間、彼の中で何が弾けた。


 猛烈な痛み。虐められた時に受けた痛みなどとは比べ物にならない、死に直結するであろう本当の痛みは、彼の中に恐怖という感情を植え付けたのだ。



「た、たすけて!」


 それは、生まれて初めて出す声量で、初めて誰かに助けを求めた言葉だった。自分を気味悪るがる大人でも、自分を見下す子どもたちでも、誰でも良い。助けてくれと。


 ……でも、周りには誰もいなかった。



 犬型のフェノムは、獲物をいたぶるように、じっくりと彼を痛めつけた。心なしか、その表情が笑ってるようにも見えた。


 怖い。でも、悔しい……。その感情は、彼に恐怖の次に芽生えた感情。悔しい……悔しい……自分をまるでおもちゃのように扱い、殺そうとしているコイツを、殺したいという、強烈な殺意。


 周りには誰もいない。でも、いつでも話し相手なってくれた存在がいた。その存在に彼は叫んだ。


「コイツを……殺して!!」



 次の瞬間、彼の脳裏に言葉が鳴り響いた。


『……条件を満たした為、“シャドウ・メモリー”は“シャドウ・デイド”に進化しました』


 すると、彼の影から飛び出した……影が分裂して二つの人の形になり、男性の形をした一方の人影がフェノムを取り押さえ、女性の形をしたもう一方の人影が太い棘の様な腕を突き出して、フェノムを串刺しにした……。



 彼はその人影が誰なのかを理解した。不思議な事に、直ぐに理解できたのだ。


「……父さん、母さん?」


 人影は何も語らず、黙って彼を見つめている。でも、なぜかは分からないが、その人影は微笑んでるように見えた。表情なんて見えない影なのに……。



 何故、記憶にも残っていない両親の影が現れたのか? その時は答えが分からなかったが、自分は独りではなかったのだと気付く。


 すると父と思わしき人影は、倒れた犬型のフェノムを指さした。


 シャドウ・デイド。そのギフトは、死者を影として支配下に置くことが出来る能力。ギフトのランクはS。


 だが、今回彼の頭の中で鳴り響いた声が告げたのは、シャドウ・メモリーからシャドウ・デイドへの進化だった。つまり、彼は記憶にも無い幼少期にギフトに目覚め、今回危機を迎えた事で覚醒したのだ。


 当然彼は知らなかったが、シャドウ・メモリーとは、目の前で死んだ者を記憶し、自分の影として出現させるギフトで、ランクはB。一度に記憶できる死者の記憶は三人までで、対象が生前の能力で出現する。だが、誰でも記憶できる訳では無く、対象が自身に好意的な場合のみという条件がつく。つまり、記憶には無かったが、彼の両親は目の前で死んだ事になる。


 だが、シャドウ・デイドは、熟練度によって記憶できる死者の数が増える上に、記憶するための条件が存在しない。つまり、英雄クラスの死者であろうと、死後数分間の間に影を吸い取る事で記憶出来る上に、出現した際には戦闘力がアップして現れるのだ。


 彼はフェノムに手をかざし、ギフトを発動する。すると、フェノムの亡骸から影が吸い出され、彼の掌に吸い込まれていった。シャドウ・デイドは人間だけでは無く、フェノムすらも記憶することが出来るのだ。



「……クックックッ……アハハハハハハハハッ! 僕は独りじゃない! 独りじゃなかったんだ!!」



 一〇日後……孤児院と連絡が取れなくなったのを不審に思った者が孤児院を訪れると、そこには獣に噛まれたような傷を受けて横たわる無数の亡骸が発見された。


 死者の数は一五名。大人も子どもも、全員が恐怖に満ちた表情を浮かべて死んでいた。警察は孤児院にフェノムが迷い込み孤児院を襲ったのだと断定し、事件になることはなかった。だが、死者の中に彼の姿は無かった……。




 ――二〇年後



「ボス、情報通り、現在黒夢にはブライトを含むナンバーズの三人、そして、桐生も本部を離れています」


 旧長野県の山中。現在は人の立ち入りを禁止しているエリアの地下に、黒夢に次ぐ日本最大級のフィルズ組織・陽炎の本部アジトがある。


 アジトの内部は黒夢の本部と比べると整備されておらず、洞窟の中に部屋が無数に存在し、最奥地にある陽炎のボスの部屋に、陽炎のナンバー2である“毒殺者”【冠城隆史(かぶらぎたかし)】が、黒夢の状況を報告しに来ていた。



「ふ~ん、邪魔な桐生と、新参者のブライトがいないのか……」


「ハイ。手始めに、黒夢東北支部を襲撃し、先制攻撃を仕掛けます。許可を」


 陽炎のボス・【霧雨宇京(きりさめうきょう)】は、無表情で頷く。


「いいよ~。じゃあ、僕の影を一〇体貸してあげるよ。中には僕のお気に入りの影も何体か入れてあげるから、多分大丈夫でしょ?」


「ありがとうございます! 仙台には黒夢ナンバーズのナンバー5・【ハイドロー】がいますが、これなら確実に討てるでしょう」


 ハイドロー。黒夢ナンバーズのナンバー5。戦闘能力だけなら、ブライト、ジレンに次ぐ実力者である。



「黒夢を脱退して陽炎に流れてきたフィルズもいます。遂に、我々陽炎が、黒夢に代わって裏社会を支配する時が来たのですね」


「そうだね~。最近の黒夢は何を勘違いしてんだかウザイからね。フィルズはフィルズらしく、好き勝手やらないと。じゃ、あとはヨロシク」



 冠城が一礼して部屋を後にすると、霧雨は立ち上がった。大き目のローブを羽織り、身長はそれほど高くなく、声変わりしなかったのだろうかと思える声と可愛らしい顔も相まって、パッと見では美少女にしか見えない。だが、あの桐生すら一目置くギフト能力者だった。



 霧雨は自分の影を見つめながら呟く。


「父さん、母さん、見ててね。いよいよ、世界が変わろうとしている。そこで僕は、新世界の王になるんだ。そしたら、喜んでくれるよね? フフフフフッ……アハハハハハハハハッ!!」




 二日後、黒夢の仙台支部は陽炎の強襲によって壊滅した。


 これをキッカケとして、黒夢と陽炎の全面戦争が勃発し、それに国防軍までもが加わった、フィルズ頂上決戦が幕を開けようとしていた。

遂に動き出した陽炎。迎え撃つ黒夢は、ボス・桐生と、ナンバー1・ブライト不在の中、対応に追われる。


次回『長い一日の始まり』





※↓ここからは第1回書籍化記念特別インタビューです。



崇「こんばんわ。皆のアイドル、ゴッド・アイこと的場崇彦です。今回からしばらくの間、書籍化を記念いたしまして、過剰な書籍アピールをして行きたいと思います!」


光「自分でアイドルって言う所がおまえの残念な所だよな」


崇「……さあ、本日は第一回のゲストということで、主人公であり俺の相棒でもある、闇の閃光・ブライトこと周防光輝さんに来て頂きましたー!イエーイ!」


光「スルーしやがった。オホン、こんにちわ。……なんか緊張するな」


崇「おまえの緊張なんざどーでもいいから。ところで、先日から毎日投降が始まったんだけど、今日から俺たちの出番は暫く無いみたいだぜ?」


光「え?俺が出ないで大丈夫なの?この作品」


崇「う~ん、これまでも実際、光輝=ブライトが登場しない回の反応ってイマイチだったみたいだけど、物語的には必要な話なんだから仕方ないんじゃね?でも、俺たち以外のナンバーズや、敵組織の新キャラなんかも大勢登場するみたいだから、楽しんで読んでもらえたら嬉しいけどな」


光「心配だなあ……。あんまりキャラが増えると、読者の皆様も混乱するんじゃ……」


崇彦「さてさて!時間も無いので質問たーいむ!」


光「唐突だな……」


崇「まず、自分が主人公の小説が書籍化される事の感想をお聞かせ下さい!」


光「え?え~っと、最初は照れというか、やっぱり恥ずかしかったけど、書籍化されるって事はありがたい事だし、逆に誇らしい事だからな。だから今は、恥ずかしがる事なんてないのかなって思うかな」


崇「うんうん、それ、作者の気持ちを代弁してるね。流石は主人公!じゃあ次の質問!WEB版と比べて、書籍版の違いや魅力は?」


光「そうだな~。今回の書籍第一巻は、WEB版での第2章までを収めてるんだけど、大幅に加筆修正されてるんだ。もう、作者が途中で加筆し始めたことを後悔するくらい」


崇「ほうほう。具体的にはどんな加筆修正がされたんだ?」


光「修正に関しては、全体的に描写を詳細にしてるし、各種設定などを改めて説明してるんだ。それに、比呂のキャラを少しだけ変えてるかな」


崇「比呂?まあ、作中でも屈指の嫌われキャラだからな」


光「と言っても、物語の進行具合的にあんまり大きな変化は無いんだけど、比呂の心理描写を追加しつつ、いずれライバルになっても違和感が無いように修正してるみたいだな。あと、加筆に関しては……」


崇「おっと!残念だけどもう時間みたいだ!加筆に関しては明日、答えて頂きましょう!」


光「え?短くね?」


崇「バカ、小出しにしないと10日間も持たないだろ……オホン、それでは皆さん、また明日、お会いしましょう!」

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