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第97話 本当の弊害

お久しぶりです。大変遅くなりました!

「崇彦? 珍しいな、おまえがこんなに早く駆けつけるなんて」


 基本的に崇彦は、光輝がどこで戦闘を行おうが、助っ人のために駆けつける事は少ない。光輝が危機に陥る可能性すら無いだろうと考えていたからだが、そんな崇彦が息を切らしてまでやって来た事は光輝にとって少しだけ意外だった。


「見たら分かるだろ? 走って来たからな。で、良かったらお前の隣で困った顔をしている人を紹介してくれよ」


 光輝への返答もそこそこ、崇彦はカズールに視線を移した。


「ああ……」


 光輝がカズールを見ると、確かに困ったような表情を浮かべている。どうやら、自分がリバイブ・ハンターだと、言っても良いのかと迷っている様だ。



「崇彦は俺がリバイブ・ハンターだと知っている数少ない相棒だ。安心していい」


 するとカズールは……


「そうか。俺はカズール。シュトロームの下で実験材料にされていたが、二年前に脱出したリバイブ・ハンターの生き残りだ」


 カズールがリバイブ・ハンターの生き残りだと聞き、崇彦の表情が固まる。何故、今回に限って慌てて光輝の下へ走ってきたか? それは、どうしてか嫌な予感がしたからだ。そしてその予感は的中してしまったらしく、真っ先に思い浮かべたのは光輝に教えなかった秘密の事だった。



「リバイブ・ハンターの……」


「そういう事だ。カズールは、いつの日かシュトロームに復讐する為に、逐一研究所での情報を得ていたらしい。で、研究所を壊滅させた俺に会いに来たんだと」


 光輝は説明が面倒なので、カズールが最初は光輝を殺しに来た事を伏せた。


「……そうか。でも、なんでカズールさんは光輝がリバイブ・ハンターだったって分かったんだい?」


「……うむ、同じリバイブ・ハンターだからな。エスディスやキマイラとの戦闘を見た際に光輝が複数のギフトを使用しているのを見て確信したんだ」


 実際は、研究所の様子を探る事は出来てはいたが、カズールの能力的にその戦闘を事細かく見られるほどの精度は無かった。だから、カズールが光輝もリバイブ・ハンターだと知ったのはつい先程だったのだが、光輝に倣って説明を省くために小さな嘘をついた。



 崇彦にとって、光輝とカズールの話に疑わしき部分は見受けられなかったのですんなりと信じたが、問題はそこでは無かった。問題はカズールが、崇彦が光輝に隠していた秘密を既に教えたのかどうかだった。


「それにしても随分日本語が堪能なんですね……まあいいや。カズールさん、光輝にはもう、殺した者を殺さない弊害の事は話しましたか?」


 崇彦は単刀直入にだが、出来るだけ光輝に意図を探られないギリギリの質問をカズールに投げかける。が、代わりに光輝が質問に答えようとした。


「言語能力は堪能なんでな。で、今ちょうどその話をしていた所をしてたんだが……」


 光輝の返答を無視し、崇彦の瞳が黄金に光る。


 ……だが、カズールから情報を引き出せなかった。


(何? まさか、レジストされた!?)


 ゴッドアイをレジストするためには、あらかじめゴッドアイが心を読む能力だと認識していなければならない。それを知らないハズなのに、カズールはゴッドアイをレジストしたのだ。



「……驚いてる所を見ると……趣味が悪いな。初対面なのに人の心を覗き見ようだなんて。光輝の相棒じゃなければ只じゃ済ませない所なんだが……」


「崇彦~。お前、誰彼構わずゴッドアイ発動すんのはやめろよ。すまない、カズール。コイツのは趣味みたいなもんでな、悪気はないんだ。……つーか、なんで初見でレジスト出来たんだ? ……まさか、ギフト?」


「いや、俺は研究所であらゆるギフトの知識を叩き込まれたからな。その中には、人の心を読むギフトもあったが、発動条件が似ていたからまさかと思って対応してみれば……」


 光輝がカズールをなだめる。今まではバレなかったから良かったのだろうが、本来心を読まれるなど、相手にしてみればかなりの嫌悪感を抱かせてしまう行為だろう。現に、カズールが崇彦を不審な目で睨み付けた。



 だが崇彦はそんな事よりも、初見にも関わらず自分のゴッドアイがレジストされた事に驚きを隠せなかった。


「……まさか、知識だけで俺のギフトをレジスト出来たのか?」


「そうなるな。お前の眼が光った瞬間、もしやと思ってな」


 そう言ってニヤリと笑みを浮かべるカズールだったが、崇彦を視る眼差しは変わらず、猜疑心に充ちていた。


(まいったな……信用を失った。これじゃあもう、素直に質問しても答えてくれないかもしれない)



 微妙な空気が流れる中、光輝が崇彦にある提案をした。


「なあ崇彦。カズールを黒夢に誘っちゃあ駄目かな?」


「え? ……それは、黒夢に入れるって事だよな?」


 カズールが黒夢に入る……。既に崇彦はカズールからの信用も失い、隠していた秘密の事もあり、崇彦にとってそれはあり得ない提案だった。


(……カズールは、同じリバイブ・ハンターの能力者として、光輝の良き理解者にはなるだろう。でも、いずれ確実に俺が隠した情報を光輝に伝える。そして、その時は間違いなく光輝の味方になる……)



 崇彦は少し考えたのち、首を横に振った。


「……カズールには悪いけど、それは俺の一存では決める事は出来ない。こんな時期だ、まずはボスに伺いをたてないと」


「俺が説得するさ。リバイブ・ハンターの能力者がどれだけ組織に貢献できるかは、ボスだって分かってるだろ? 俺はそれだけの働きはしてきたつもりだし、このカズールは俺よりも多くのギフトを習得してるんだぞ?」


 光輝は主に戦闘に特化したギフトを多く所持しているが、カズールはそもそものギフト数が違う。中には、今本人が言ったように心を読むギフトから、様々な種類のギフトを習得しているのだから、組織にとっても大きな戦力となるだろう。


 それは崇彦にも予想が出来ていた。それでも、すんなりと認める訳にはいかなかったのだ。


「なにも駄目だとは言っていない。日本に帰ったら俺もボスに話してみるさ。だからそれまでは、カズールにはこのドイツで待っててほしいんだ」


 崇彦の言いたい事は理解したが、それでも光輝は納得がいかなかった。


「なら、別に日本に連れてっても良いだろう? ボスなら絶対に駄目とは言わないさ」


「俺もそう思うが、それでも段階を踏もう。カズールは今回の誘拐事件の主犯であろうコアーの関係者でもあるんだ。下手にマスコミにつつかれたら、組織にも迷惑が……」



「……おまえ、さっきから何を隠してる?」


 光輝と崇彦の会話に、突然カズールが割り込んで来た。その眼は、崇彦が何かを隠していることを確信していた。


「な、何をって?」


「俺はおまえの様にギフトで他者の考えてる事を読む事は出来ないが、表情や声である程度感情を察知する事は出来る。おまえの今の感情は……隠したい事があって焦ってる……って所か?」


 崇彦は、今まで数えきれない程人の心を読んできた自分が、まさか読まれる側になるとは思っていなかった。



「隠したい事? ……崇彦、何を隠したいっていうんだ?」


「……くっ……」


 カズールがいる以上、もう隠し通せないと思った崇彦は、項垂れて言葉を飲み込む。


(光輝が秘密を知ったら……どっちにしても、良い未来が見えて来ない。やっぱり、言えない!)


 煮え切らない態度の崇彦に、カズールが追い込みをかける。


「……お前、さっきリバイブ・ハンターの、殺した相手を殺さない事の弊害を気にしていたな? ……光輝は、その弊害を知っているのか?」


 焦りから崇彦の表情が変わる。このままでは、確実に光輝に秘密が伝わってしまうと。



 崇彦は、賭けに出る事にした。


「ま、待ってくれ! 確かに俺は、光輝にまだ言ってないリバイブ・ハンターの秘密がある。でも、それはまだ言うべきでは無いと判断したからだ!」


 崇彦は素直に言えない理由を述べた。だが光輝は、自分に隠している秘密があると聞き言葉を失う。そして、カズールは黙っていなかった。


「随分勝手な言い分だな。お前はリバイブ・ハンターじゃないだろ? リバイブ・ハンターである光輝には、知る権利があるが、お前にその情報を隠す権利など無い」


「分かってる! 俺だって分かってるよ! でも、それでも、今はまだ知らない方が良いんだよ!」


 崇彦は、飄々としているが、実際は誰よりも冷静な男だ。その崇彦が、形振り構わず声を張り上げている。

 その光景を見た光輝は、隠された秘密が、確実に自分にとって不利益なものだと悟る。



「だから、それはお前が決める事じゃ無いんだ。俺達のギフトであるリバイブ・ハンターには、知らなければ死に直結する弊害が幾つか存在するんだ。お前が隠している秘密は、まさにそれだろう?」


 カズールは、崇彦に対して完全に信用を失っている。だから、光輝に不利益な男としか見えなくなっていた。


「それでもお前が言いたくないっていうなら、俺が言う。光輝は俺にとって、唯一の同志だからな。いくら光輝の相棒といえど、邪魔するっていうんなら……力で黙らせる」


 カズールから殺気が溢れ出した。その殺気は、崇彦をしてカズールがかなりの実力者だと一発で分かるほどのオーラだった。



 目と目が合ったまま、動かない崇彦とカズール。どちらも譲れない想いを抱え、二人の間にはヒリヒリとした緊張感が漂っていたのだが……その空気を、光輝が打ち消した。


「なあ崇彦。お前が言いたくないってんなら、よっぽどの俺にとって悪い事なんだろ? いや、その秘密は俺だけじゃなく、俺の周りにいる人間にも影響を与えるんじゃないか?」


 核心に迫る光輝の言葉に、崇彦は押し黙る。


「今までもお前は重要な場面で間違った事は無かったから、今回もおまえは多分間違ってないんだろう。でも俺は、それでも知りたい。俺の発現したリバイブ・ハンターの秘密を」


 そう言って、光輝は崇彦の肩に手を置き、カズールを見る。


「カズール、アンタにとって崇彦は嘘つきにでも見えてるのかもしれないかが……いや、嘘つきなのは合ってるか。でも、俺はコイツだからバディを組んでるんだ。コイツがその秘密とやらを隠してるのなら、確実に俺にとって聞かない方が良い事なんだと思う。だから、コイツを許してやってくれ」


「……そうか。仕方ない。なら、今ここで、隠していた秘密を打ち明けろ。それが条件だ」



 崇彦は……観念したように、口を開いた……。


「……俺、昨日はおまえに、リバイブ・ハンターが発動しなければ……つまり、死ななければ、いずれ正気を失うって言ったよな?」


「ああ。だから、現状死にたくても中々死ねないのがネックだってことなんだが……違うのか?」


「……おまえは死ななくても状態は悪化しない。別の条件……つまり、殺した相手を殺さなければならない……それが、本当の条件なんだ……」


 崇彦の言葉は、本来雄弁な彼からしたら酷くたどたどしく、解りづらい言葉だった。だが、それでも、何故彼が自分にこの秘密を打ち明けることを拒んだのかを、光輝は悟った。


「……そうか。確かに……これは知りたくなかったかもしれないな……」


 光輝は、苦笑いを浮かべた。そんな光輝を見て崇彦は……


「俺にとって、おまえは唯一の親友だし、大切な相棒だ。でも、俺にとって()()は、生きる目標を与えてくれた人でもあり、親父みたいな存在なんだ。どちらか一方を選ぶことなんて、俺には出来なかったんだ!」



 崇彦が隠していた秘密。それは、次第に感覚を失い、自我を失うという現象の条件が、リバイブ・ハンターが発動しない事では無く、自分を殺した相手を殺さなかった場合であるという事。

 つまり、光輝にとって、桐生を殺さなければ自分はいずれそうなるということだった。


 少なからず、いや、光輝としてもかなりの衝撃を伴ったその情報は、しかし、自分よりも深刻に悩んでいる様子の崇彦のおかげもあって、それほど取り乱すことなく受け入れることができた。

 それに、これまでも桐生を見ると、沸々と殺意が沸いてくる感情を自分でも認識していたからこそ、最近は桐生と距離を置いていたのだから、どこか納得してしまった。


 なにより……自分のために、崇彦は死ぬほど悩んだんだろう。そう考えたら、不思議と自分の取るべき行動を決めることができてしまった。



「なるほど。ボスは俺にとっても尊敬すべき存在だ。おまえが悩んでいた気持ちは理解できるよ。悪かったな、悩ませちまって」


「光輝……俺は……」


「カズール。これ、どうにか出来るのか?」


「……今の所、解決方法は、やはり自分を殺した相手を殺すしか無いな。そいつは光輝にとって、自分の命を投げ出してでも殺したくない相手だっていうのか?」


 光輝は黙って頷いた。カズールは光輝に考えを改めるように詰め寄ろうとしたが、彼の表情を見て止まった。


 光輝は、決意を秘めた表情で、崇彦に告げた。


「俺……黒夢を抜けるよ。もう二度と、ボスの前には姿を見せない」


 心のどこかで、光輝がこの事を知れば、そう言うのではないかと予想していた崇彦は、その言葉を聞いて顔をあげる。


「黒夢を抜けるって……だったら、おまえはボスを殺すつもりは無いんだな?」


「ああ。そうなるな」


 あまりにも平然と語る光輝に、カズールは黙っていられなかった。


「何を言ってる? つまり、おまえは自我を失うって事なんだぞ? ある意味、死んだも同然の状態になるんだぞ!?」


「だな。それでも、俺はボスを殺せないよ。あの人は、俺に生きる場所をくれた恩人なんだからな」


 ギフトが発現し、早々に国防軍という巨大な存在と敵対した光輝にとって、黒夢は生きていくための唯一の場所だった。その場所を与えてくれたのは、間違いなく桐生だ。


 そんな桐生を殺してまで自分は生きたいのかと考えた時、光輝は決断したのだ。そうまでして自分が生き残るのは、自分の中の僅かに残された正義の味方のとる行動では無いと。



「自我を失ってしまうのは正直怖いが、俺はホワイトの呪いのせいで自殺したくても死ねないしな。どうしようかな……? 絶対脱出不可能な場所なんかがあれば便利なんだが……ぐっ!?」


 何食わぬ顔で思案し始めた光輝を、崇彦が殴りつけた。


「何馬鹿な事言ってんだよ!? おまえ、自分がどうなるか……何を言ってんのか分かってんのか!?」


「……いてえなぁ。仕方ないだろ? だったら、ボスを殺せば良いのか? 嫌だろ? 俺が消えるのが一番じゃねーか。崇彦、矛盾してるぞ?」


「分かってる……分かってるんだけどよぅ、そんな簡単に自分の命を捨てるみたいな事を言ってるおまえを見て、腹が立ったんだよ!」


 多分自分のために、いつも冷静な崇彦が珍しく感情をあらわにした光景を、光輝はどこか他人事の様に眺めていた。


 こんな時でも冷静でいられる。それこそ、次第に感情を失っていくという、リバイブ・ハンターの自分を殺した相手を殺さなければならない弊害だという事に、光輝は気付いていなかった。



「……そんな簡単に諦めんなよ! いつか必ず、俺が何か方法を……ん?」


 その時、光輝と崇彦の黒夢端末の緊急メールの通知音が鳴った。


「くそっ、なんだよ、こんな時に……」


「緊急時のメールだ。無視する訳にはいかないだろ?」


 崇彦は舌打ちしながら端末を見ると、直ぐに顔をあげて、同じく端末を確認した光輝と互いに目を合わせた。


 そのメールの内容とは……


『【陽炎】の襲撃により、黒夢仙台支部が壊滅。直ぐに帰還せよ』


 ……との内容だった。

補足:次回で説明が入りますが、陽炎は黒夢のライバル組織です。


更新が遅くなりましたが、またしばらくお休みさせて頂きます。詳細は活動報告でさせて頂きますが、書籍発売の時期も一ヶ月ほど遅れる事になりましたので、そちらの説明もしてますんで良かったら活動報告も覗いてみて下さいm(__)m

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[気になる点] >>「……うむ、同じリバイブ・ハンターだからな。エスディスやキマイラとの戦闘を見た際に光輝が複数のギフトを使用しているのを見て確信したんだ」 なら何故ここで襲い掛かってくるのか不思議…
[気になる点] 何故カズールは正常なのか分からない。
[良い点] リバイブ・ハンターの隠していたの秘密をずるずると先延ばしにせずに書いたこと [気になる点] 仮に光輝がボスを殺したら失った感情って戻るのか?それともやっぱり戻らないのかどっちなんだろう? …
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