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第95話 現れた男

 光輝・崇彦・瑠美・ハンナは、アンナの案内で先ずはミュンヘン中心部のマリエン広場にやって来た。


 ミュンヘンの街並みには歴史が色濃く残されており、まるで中世ヨーロッパにタイムスリップしたみたいな感覚を味わう事が出来る。



「……なあ皆、実は俺、異世界からこの世界に転生して来た勇者なんだ……」


 突然真顔で告白した崇彦。だが、女性陣は全く食い付く事無く、光輝も苦笑いを浮かべただけだった。


「なんだよオイッ! これじゃあ物語が始まらないだろ! プロローグでエタるわ!」


「分かったから、もうこれ以上傷口を広げるな……相棒」


「う~、昔のお前ならもっと乗って来てくれたハズなのになぁ。やっぱりお前、変わっちまってんだな~」


「うるさい。んな事で判断すんな」


 わざとらしく肩を落とす崇彦に反論する光輝。崇彦としては、敢えて弄る事で光輝の心の負担を軽減させてやろうとの考えがあった。


 コンプレックスを無くす為には、コンプレックスをコンプレックスと思わなくすれば良い。プライドが邪魔するならば、プライドを捨てれば良い。


 これは、人の心が読める崇彦が、自分の精神を保つ為に、自分自身でも常に意識している事だった。



「じゃあ最初は、聖ペーター教会に行きましょう! そこで私と光輝様は永遠の愛を……」


「お姉ちゃん。流石にそれは引かれるよ。ほら、光輝の顔、無表情だもの」


 光輝の左腕をアンナ、右腕をハンナ、美少女姉妹に挟まれながらも、光輝は胸が高鳴らない自分に気が付いていた。


(俺は……風香と別れてから、自分にはもう女性を愛する資格なんて無いと思ってた。だから、どんな女性にも心が動かなかったと思ってたのに、もしかしたらこれもリバイブ・ハンターの弊害だったのか……)


 最早全ての事がリバイブ・ハンターによる弊害なのでは無いかと、光輝の心の中は疑心暗鬼になっていた。


(なら……無理矢理にでも、昔の自分に戻れば良い。昔の自分……昔の俺って、どんなだっけ?)



 思い出そうとしても思い出せず、次第に表情が険しくなる光輝に、アンナとハンナも気が付く。


「あ……ごめんなさい。流石に図々しかったですね」


「光輝……ごめんなさい」


(いや、考え事してただけなんだけど……なんか気を使わせちゃったみたいだな)


「……別に嫌な訳無いじゃないか、二人みたいな美人姉妹に囲まれて。俺の方こそ気を使わせてしまったみたいだな。……よし、じゃあピーター教会とやらに行ってみようか」


 気を取り直して笑顔を作る光輝に、瑠美は不自然さを感じたが、敢えて指摘する所では無いと判断した。




 その後、アンナは近郊の様々な歴史的建造物を案内してくれた。光輝も最初は、建物を巡ってもつまらないだろうと内心では思っていたのだったが、実際に回って見ると中々興味深く、アンナのガイドを真剣に聞き出す程だった。勿論携帯端末の同時翻訳機能を片手に。


 反して、崇彦は無理に明るく振る舞っていたが、アンナとハンナが自分以上に光輝に絡んでくれているので、光輝の事は二人に任せて別行動をとる事にした。それは、なんだかんだで光輝が楽しそうにしているから安心しての事でもあったし、まだ昨日の件が自分の中で整理されてなかったのも理由の一つだった。



 そして瑠美は……、何故か崇彦に着いて行き、研究所で光輝に何があったのかを問い質していた。


 カフェ。瑠美と崇彦が対面で席に座っている。


「……それは教えられねーなぁ、いくら瑠美ちゃんでもね」


「なんで? 昨日から光輝の様子が明らかに変じゃない。何かあったんでしょ?」


 崇彦は、改めて瑠美の勘の良さに感心していた。僅かな機微で、光輝の身に何かがあったのだと察したのだから。


(まぁ、風香ちゃんの事があるから素直になれないだけで、瑠美ちゃんは光輝の事が好きだから気付いたんだろうけど)


 瑠美は……というより、光輝のリバイブ・ハンターの能力を知っているのは桐生を含め僅かしかいない。


(もう少し二人が深い関係にでもなれば、光輝の方から瑠美ちゃんには打ち明けると思うんだけど……俺がペラペラ喋る訳にもいかないしなぁ)


 崇彦としては、風香は嫌いでは無いが、既に敵対組織の人間だ。もし、光輝が付き合うとすれば断然瑠美を進めるだろう。


(何気に瑠美ちゃんって尽くすタイプで面倒見良いしな。空気も読んでくれるし、今の光輝には最高の相手なんだろうけど……)


 あれから、光輝は色恋沙汰には全く関心を持たなくなった。崇彦も、それは風香との失恋の影響だと考えていたのだが、状況が変わった。


(それがリバイブ・ハンターの、次第に感情を失うって云う弊害だったとすれば、そもそも恋愛に発展する事なんて考えられないんだよな)



「ねえ、崇彦。私も、一応ナンバーズの一員として、仲間として、光輝の事を心配してるの。光輝の身に何かあったんであれば力になりたいし、それは勿論アンタも同じ。貴方達二人とも、昨日からおかしいんだもの」


 崇彦は、瑠美がまさか自分の異変にまで気付いてるとは思っていなかった。それは、人を拐かす事に長けていると自分でも自負する所があったから。リバイブ・ハンターの真の秘密をたった一人で抱えている動揺を、上手く隠せていると思っていたからだ。


(敢えて気にしない様に気を付けてたのが逆に不自然だったのかな? でも、流石だなぁ。瑠美ちゃんをナンバーズに推薦した俺の眼は正しかった)


 それでも、やはり昨日何があったかを言う訳にはいかない。どう話したって、リバイブ・ハンター込みの話になってしまうのだから。



 だから、崇彦は虚実交えて上手く誤魔化す事にした。


「最近の光輝の変化についてね……光輝も漸く気付いたみたいでさ。それで悩んでるんだよ。

 ほら、急にナンバーズのナンバー1になったり、色々あって甘さを捨てた事で、もう何百人と悪党を殺してる訳だけど、元々アイツって人一人殺すのにも躊躇する程だったんだよ。だから、改めてそんな自分の変化に少し戸惑ってるだけさ。

 だから、俺や瑠美ちゃんは、アイツが間違った判断をすれば注意しなけりゃいけないし、自信を失いかけたとすれば励ましてやらないとなぁって、そう考えてたら俺も、考え過ぎてたんだろうな」


「……そう。やっぱり、光輝には光輝にしか分からない重圧ってあるだろうからね……」


 どうやら崇彦の言葉を瑠美はすんなり受け取った様だ。


「まさか、ブライトの名前がこれだけ世界中に広まるとは俺も思ってなかったしな~。世間からは正義の味方みたいに思われてるけど、やってる事は悪党の粛清だ。あれだけ正義の味方に憧れていた奴が、そのギャップに苦しまない訳が無い。その苦しみを和らげる為に、あまり物事を深く考えない様にアイツの心が防波堤を作ったから、感情の起伏が薄くなったのかもな」


 これは、崇彦が昨日まで考えていた光輝の変化の仮説だ。それが、リバイブ・ハンターの弊害と云う新たな情報で揺らいでしまったのだが。


「そうだよね、黒夢の看板を背負ってるみたいなもんだもんね。うん、やっぱり私は……どんな形でも良いから光輝の力になってあげなきゃ。だって光輝は……弟みたいなもんだからね」


 そう言って苦笑いを浮かべる瑠美に、崇彦は少しだけやるせない思いを感じた。


(本当はもう、自分の気持ちに気が付いてんだろうに。瑠美ちゃんにとって、敵になった今でも風香ちゃんは妹みたいなもんなんだろうな。だから、光輝を好きだって想いを表に出す事に遠慮してしまう。

 ……まったく、本当に罪作りな男だな~、相棒! 俺だったら瑠美ちゃんなら絶賛ウエルカムなのに!)


「よし! 俺、なんか腹減っちゃったな! なんか食おうぜ、瑠美ちゃん! 奢るからさ!」


「そうだね。でも、アンタに借りを作りたく無いからワリカンで良いわよ」


「可愛くないなー! そんなんじゃ好きな男に振り向いてもらえないぞ?」


「なっ!? 心配してくれなくても、私は好きな人にはちゃんと甘えますう~!」


(……甘えて無いじゃん)


「もーどーでもいいよ! すみませーん、ソーセージをジャンジャン持ってきてー!」




 ――その頃、光輝は歴史的建造物を一通り見終え、何処か心が晴れやかになっていた。


「どうでした、光輝様」


「いや~、中々楽しめたよ。まさか俺、自分でもこんなに歴史ある建物に興味があったなんて知らなかったから」


「フフフ、良かったです!」


(やっぱり、気分が乗らないからって自分の殻に閉じ込もってちゃ駄目なんだな~。うん、良い気分転換になったし…………ん!?)


 急に、風が吹いた気がした。とっておきの、危険な雰囲気を乗せた風が。



(なんだこれは!? まさか、敵?)


 アンナとハンナは気付いていない。でも、光輝は確かに感じた。久方振りに味わう、絶対的強者のオーラを。



 オーラが漂って来た方向を見る。そこは小高い丘の上で、男らしき人物が一人で立っていた。


(……明らかに俺を誘ってるよな……)


「アンナさん、ハンナも、悪いけど先に瑠美と合流しててくれないか? で、崇彦に伝言を頼む。“ちょっとそこまで”って」


 ちょっとそこまで……は、光輝と崇彦の中では、“敵がいたから相手してくる”の暗号だった。


「え? 光輝様?」


 それだけ言うと、光輝はワールド・オブ・ウインダムを発動して、丘の上目掛けてジャンプした。



「逃げずに待ってるとは……俺に何の様だ?」


 男は、帽子とマフラーで目元以外を隠しており、黒いロングコートを羽織っていた。


「お前が、エスディスを殺した……ブライトか?」


 その男は、流暢な日本語で光輝に語りかけて来た。


「……さあ? そうかもしれないし、違うかもしれない」


 暫し睨み合う二人。すると、男はマフラーを下げて口元を出すと、ニヤリと笑った。


「エスディスは……馬鹿な奴ではあったが、それでも同志と呼べる奴だった。最後のな」


「同志? 何の事を言ってるのか知らないが、仮にそのエスディスとやらを俺が殺したのだとしたら、お前はどうするつもりなんだ?」


 光輝は、いつでも動ける準備をしている。仮に、この男が攻撃を仕掛けて来たとしたら、0コンマ01秒後には首を斬り落とせる準備を。



「お前を殺す……」


 男からも突き刺す様な殺気が溢れ出す。


「へぇ~、殺すか。最期に聞いときたいんだけど……ああ、勿論俺じゃなくてアンタの最期な。仮に、なんでそのエスディスって奴を俺が殺していたら仇をとるんだ? もしかして、仲間だったのか?」


 次の瞬間、男から語られた言葉は、光輝から戦う気構えを一瞬だけ躊躇させた。


「俺も……リバイブ・ハンターだからだ」


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― 新着の感想 ―
[一言] なんか…
[一言] どんどん増殖するリバイブハンター!! ヤバイ、この調子だと俺がリバイブハンターの四天王、いや我こそはリバイブハンターの魔王!とかなりそうで怖いw
[一言] とうとう小説においての禁断の一手を投入か… 主人公の能力=他者も同じ能力乱発 楽しみ感や謎感が無くなり一気に萎えて飽きるパターン
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