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第94話 任務が終わって

 ブライトとイーヴィルが並んで研究所を出ると、外ではティザーとハンナ、無事に救出されたアンナが待ち構えていた。


「おかえり。 こっちは万事予定通りに終わったわよ」


 ()()()()()人質は全員無事に救出した。それだけで、ティザーは十分だと割りきる。研究所内では、既に研究の材料として拷問に近い光景もあった。だが、全てを助けられるなどと考えるほど、ティザーはバカではない。


だからこそ、割りきって明るく近づいて来たティザーだったが、ブライトとイーヴィルの表情はどこかすぐれなかった。


「……どうしたの?ブライト君はともかく、イーヴィルまで暗い顔して?」


「ん? いや、そんな事ねぇよ? よ、よっしゃ~! じゃあ、念願の休暇だー!」


 気を取り直したイーヴィルが満面の笑みで両手を天に突き上げる。先程までの重苦しい雰囲気を隠して。


「変なの。さ~て、予想以上に早く終わったわねー。無事にミッションコンプリートしたし、明日一日位はゆっくりしましょー!」


 ティザーもイーヴィルに同調する様に背伸びをする。




「あ、あの、本当にありがとね。おかげで、お姉ちゃんを助ける事が出来た」


 ハンナがブライトに深々と頭を下げる。そして姉のアンナも。


「いつも妹がお世話になってます。ハンナの姉のアンナです。今回は助けて頂いて本当にありがとうございました」


「ひょー! アンナちゃんもハンナちゃんに負けず劣らず可愛うぃーねー! あ、そうだ! 良かったら明日観光に付き合ってくれないかな? 俺、ドイツの観光を楽しみにしてたんだー!」


 初対面にも関わらずアンナの手を握って懇願するイーヴィル。が、突然イーヴィルの頭上に雨雲が出現した。


「今すぐアンナさんから手を離さないと雷が落ちるけど……良い?」


 目が据わっているティザーに恐怖を感じ、イーヴィルは直ぐ様手を離した。


「はい! 離した! だから雷だけはぐぎゃ!?」


 手を離したにも関わらず、容赦なくイーヴィルの脳天に雷が落とされる。


「離れてくれて良かったわ。流石にアンナさんを巻き込む訳にはいかないからね」


 結局、アンナの手を握った時点でイーヴィルの命運は尽きていたのだろう。



 そのいつものやり取りを、ブライトは黙って見ていた。


 今回は、予想もしてなかった事が多過ぎた。なにせ、ずっと知りたくても方法すら分からなかったリバイブ・ハンターの情報を得る事が出来たのだから。


(リバイブ・ハンターがこのまま発動しなければ、俺はいずれ全てを失うのか……。そうならない為には、能力者を殺す必要があるなんてな……)


 マスクをしているから普通なら分からないのだろうが、憂鬱になっていたブライトの僅かな変化に、ティザーは気が付いた。


「どうしたの、ブライト君。何かあった?」


 ブライト時には相変わらず君付けで呼ぶティザーが、ブライトの様子を気にして声を掛ける。


「……いや、イーヴィルの事だよ。相変わらず懲りない奴だと思ってな。さて……、今日は少し疲れたな。俺は先にホテルに帰って休ませてもらおうかな」


 ブライトが疲れる程の事って、どれだけの事が研究所内で起こったのだろうか? と、思ったティザーだったが、よ~くブライトを見ると、どこか心此処にあらずと云った雰囲気を感じた。



 すると、そんなブライトの変化に気が付く訳が無いアンナが、目を輝かせてブライトの目の前に立った。


「あの……本当にありがとうございました! あの……闇の閃光・ブライトさんですよね? 私、コミック全巻持ってます! 良かったらその……握手してくれませんか?」


 まるでスターを見る目で手を差し出すアンナ。


「ああ、無事で良かった。それに、ハンナにはいつもお世話になってるんだ。握手くらいならいつでも良いよ」


 ブライトが手を握り返すと、キャーと感激で声を上げるアンナ。どうやら妹よりも社交的な様だ。



「え~っと、アンナさんって、随分積極的なのね」


 何か不穏な気配を察したティザーは、妹であるハンナに話し掛ける。


「ん~、普段はそんな事無いんだけど、自分が興味を持った事や好きな事には凄いアクティブになるの」


「ま、まさかブライト君の事を!?」


「ブライトの漫画はドイツでも有名みたいだからね。私、黒夢で一緒に行動する事が多いって前に手紙で伝えた事があって、それからずっと会いたいって言われてたんだ……」


「もしかして、今回の件をブライト君にお願いしたのって……」


「それは違うよ? お姉ちゃんが心配だったけど、私が相談できるのはティザーとブライトしかいないから……」


「そ、そう……。でも、只の憧れだもんね? ほら、アイドルに憧れるみたいなもんでしょ?」


「うん。でも……多分素顔の光輝を見たら……憧れが本気になるかも? …………昔から姉妹で趣味が似てたし……」


 最後の方は声が小さ過ぎて聞き取れなかったが、ティザーの中でアンナが要注意人物として頭にインプットされた。



「いだだだだ……なんで俺は手を握っただけで雷落とされてんのに、お前はアンナちゃんの方から手を握られてんだよ?」


 意識を取り戻したイーヴィルの目の前では、アンナが嬉しそうにブライトの手を握っている。


「ん? 日頃の行いだろ?」


「殺す! 貴様はこの俺が殺おおす!」


 ブライトに飛び掛かるイーヴィル。なんだかんだいつもの和やかな光景に、ティザーも少しだけ胸を撫で下ろした。




 ――翌日



「昨日はご苦労だった。流石は黒夢のナンバーズだな」


 任務の成功を報告する為、崇彦はブッフバルトの下を訪れていた。因みに光輝は来ていない。


 光輝が報告に来ていないのは、なにも今回だけの事では無く、基本的に光輝は任務自体には参加するが、前段の会議や終了後の報告などは全て崇彦に任せているのだ。



「ありがとうございます。でも、所長だったシュトローム博士にはまんまと逃げられちゃいましたし。でも、コアーにとってあの研究所の重要度は低かったんじゃ無いですかね? 確かに、シュトローム博士の実験体は例外的強さを誇ってましたが、所内の警備を考えると、重要拠点とは考えて無かったと見受けられます」


 ドイツ最凶コンビがいた時点で、コアーとしては充分警備に力を入れていたつもりだったのだが、崇彦はそれを脅威とは感じていなかった。


「ふむ、流石はゴッド・アイの異名を持つイーヴィルだ。今回の件、コアー側は早くもシュトロームによる独断・暴走だとして、あの研究所自体を本社とは関係無い施設だったと言い出している。

 実際、シュトローム博士が自由に研究をする為だけの施設だった事は間違い無いのだが……」


「何らかの利益が無ければ、とっくに研究所を潰してるでしょうから、本社側もしっかり利益を得ていた……もしくは、これから得る予定だったんでしょうが、要は切り捨てですね」


「だろうな。せめてシュトロームを捕まえる事が出来ていれば話を聞き出す事は出来たんだろうが……」


 自分がわざと逃がした……とは言えず、崇彦は無難な報告を終え、ブッフバルトの下を後にした……。




 ――その頃、瑠美・ハンナ・アンナの三人は、光輝を観光に誘うべく、ホテルの光輝の部屋にやって来たのだが……



「俺はパスでいいかな? なんか……まだ疲れが抜けなくて」


「光輝がそれだけ疲れたって言うなんて、昨日はそんなに大変だったの?」


「ん? まあ、色々とな。それに、ちょっとゆっくりと考えたい事もあってな……」


 今回黒夢メンバーに用意されたホテルの部屋は、流石に政府からの依頼と云う事で広め部屋の綺麗な部屋だった。


 三人掛けソファーには瑠美とハンナが座り、対面のソファーには光輝と何故かアンナが座っていた。テーブルにはルームサービスで頼んだ人数分のコーヒーが置かれてある。


(つーかアンナさん、なんで当たり前の様に光輝の隣に座ってんのよ! 部屋に入った瞬間から目が輝き始めてたからヤバイとは思ったけど)


 瑠美が心の中で愚痴ったように、アンナは光輝の素顔を見た瞬間、恋する乙女の表情に変わった。実際は、アンナは研究所で素顔の状態の光輝と顔を合わせているのだが、その時は誘拐されてきたことにより不安定になっていて、光輝を認識していなかったようだ。



「そんな! 行きましょうよ! 私、光輝様にこの街の素晴らしさをもっともっと知って頂きたいんです!」


 アンナが光輝の腕にピッタリと密着して目を潤ませる。羨ましいと思いながらも、瑠美にはあんな風に甘える事など絶対に無理だろう。


 すると、アンナが突然立ち上がり、光輝に手を差し出した。


「ってゆーか、ブライト様の時も素敵だったけど、素顔の光輝様はもっと素敵……良かったら友達から始めて下さい! なんなら恋人からでも……」


(ええ!? いきなり告白!? なんなのこの娘!?)


 動揺する瑠美を他所に、光輝はなんとアンナの差し出した手を受け入れる様に握り返した。


「えっ……? ちょっと、光輝?」


「ん? なんだよ瑠美、鳩が豆鉄砲喰らった様な顔して」


「え……えっと……ちょっとハンナ。貴女のお姉さん、ちょ~っと距離感がおかしいんじゃないかな?」


 助け船を出してもらおうと、瑠美は小声でハンナに呟く。そして自分を落ち着かせるようにコーヒーに口をつけると、物静かなハンナにしては珍しく力強く頷き、アンナとは反対側の光輝の腕をそっと掴み……


「光輝は……私とじゃ……嫌?」


 盛大に飲んでいたコーヒーを吹き出す瑠美。


(アンタまで便乗してどーすんのよ!? ってゆーか、ハンナってまさか、光輝の事を?)


 コーヒーを吹き出していた瑠美を他所に、ハンナは決意していた。


(やっぱりお姉ちゃん、光輝の事を……。負けてられない。瑠美ちゃんも応援してくれてるんだもん!)


 ハンナの中では、瑠美は自分の光輝への想いを知っていて、いつも後押ししてくれている存在だったようだ。確かに、人見知りなハンナに瑠美は光輝や崇彦を紹介し、率先して関わる様に促していた訳ではあったのだが。



「……よ、良かったわねー、光輝。モテモテじゃん。こんな可愛い姉妹から誘われるなんてね? しかも、アンナさんを受け入れるなんて……」


 目が据わり始めた瑠美の皮肉に、光輝は困った表情を浮かべる。


「なあ瑠美、お前、一つ忘れてないか? 俺、ドイツ語分からないんだけど。何? アンナちゃんには昨日も握手位いつでもしてやるって言ったから握手したんだけど、何か違ったのか?」


 そう言えばそうだったと、瑠美は胸を撫で下ろす。


(ん? でも状況的には姉妹から好意を向けられてる事には変わり無いわよね……ムムムッ……)



 そうこうしていると、報告から帰って来た崇彦が勢いよく光輝の部屋の扉を開けた。


「たっだいまー! さあ相棒、遊びに行こう……ぜって、なんだこの状況!? なんでアンナちゃんとハンナちゃんに両脇から抱き付かれてんだよ!」


「いや、ドイツ語わかんねーからイマイチよく分かって無いんだけど……多分、一緒に観光に行こうって事じゃないかな?」


 崇彦は瑠美を見る。非常に冷めた表情だが、目がメラメラと燃えてるのが見えた。


(ああ~相棒、お前はなんて罪作りな奴だ……)



 取り敢えず、崇彦が瑠美の隣に座り、改めて今後の予定を話し合う。だが光輝は……


「ん~……正直、気分じゃ無いんだ。今、お前達と一緒に出掛けても、俺はお前達を楽しませてやる自信も無いし、何より俺も楽しめそうに無い。そんな俺と一緒にいても迷惑になるだけだろ?」


 光輝は、至って冷静にそう返した。



 ……瑠美から見ても、アンナとハンナは超絶美少女だ。日本人では絶対にあり得ない洋風人形の様な可愛さがある。

 それなのに、そんな美少女の誘惑に目もくれない。瑠美としては安心した部分もあるが、もっと別の不安が頭を過る。


(やっぱり……光輝は変わった。いくら大人になったっていったって、人が一年でこんなにも変わる? 確かに風香の事があって、色恋沙汰に興味を失ったのだとしても、それ以前に感情が希薄過ぎるでしょ?)



「だからさ、悪いんだけど、観光にはお前達だけで行ってくれよ」


 美少女二人に挟まれても尚、全く意見を変えようとしない光輝だったが、そんな光輝に崇彦が諭す様に話し掛けた……。


「なあ、光輝。昨日の事は俺も知っている。その上で言わせてもらうが、昔のお前なら、今みたいな状況になったら顔ではクールぶっても内心はドギマギして、そんな達観した態度は取れて無かっただろうな」


「……」


 光輝が押し黙る。そんな二人のやり取りをみながら、瑠美は自分の知らない、崇彦と光輝だけが知る何か重大な出来事が昨日あった事を悟った。


「そんなに思い詰めるな。こういう時は昔を思い出して、思いっきり楽しむ事も必要なんじゃねーか?」


 瑠美は、今の崇彦の言葉に、言葉以上の意味が込められてる気がした。



 光輝もまた、崇彦に言われて思う所があった。リバイブ・ハンターの弊害……感覚と感情を失う。感情の部分では、昨日まで自分では全く自覚は無かった。思い返してみれば、感情面の変化に関しては結構前から瑠美に指摘されていた。これらは全部、能力の弊害では無かったのかと不安を抱いたのだ。


 勿論、それに抗うつもりはある。それでも、自分が気が付かない所で、確実に自分が蝕まれていたのだから、観光気分になんてなれる訳がなかったのだが……。


「……分かったよ、じゃあ行くよ。……よ~し、気を取り直して楽しむぞ!」


 だから、敢えて崇彦の言う通り、感情に逆らう行動を取ってやろう。そう、光輝も思い直した。




「よし、じゃあ皆で観光だー!」


 自分達がお願いしても首を縦に振らなかった光輝をアッサリと誘い出す事に成功しガッポーズをする崇彦に、瑠美はどこか悔しい感情を抱くと共に、やはり男同士の友情には、女である自分や、アンナやハンナの想いは勝てないのだろうかと、諦めの様な想いを抱いてしまった。


(でも……ま、いっか。光輝が元気になってくれたんなら、それが何よりだもんね)



 ……が、崇彦は心の中で複雑な想いを抱いていた。


(今の俺に出来る事……。それは、今まで通り接する事ぐらいしか無いよな……)


「よしよし、光輝が行かないと、アンナちゃんやハンナちゃんまで行かないなんて言い出しそうだったからな……。クックックッ」


「呆れた……。やっぱり崇彦は崇彦ね」


「ま、通常運転だな。さ、行くならとっとと行こうぜ」


 崇彦は無理矢理にいつもの様な軽い雰囲気でニヤリと笑い、それに瑠美がリアクションする。……そんないつもの光景は、確かに光輝の心を温かくしてくれたのだった。


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[一言] 光輝がこれからどういう方向に進んでいくのか気になる
[一言] 光輝...これからどうなってしまうのか...
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