第92話 リバイブ・ハンターの弊害
※閑話を含め、今回で自身初となる100話達成です!これだけ長い作品に出来たのは、読んでくれる皆様のおかげです。
さて、トータル100話記念として、本日中に活動報告にて重大発表をさせて頂きます!是非そちらもご覧下さい\(^^)/
それでは、今後とも宜しくお願いしまーす!
「キ……キマイラを子ども扱いだとお?」
「そりゃそうだろ? レベル8がレベル10に勝てる訳無いだろ?」
あまりにも呆気ない決着に、シュトロームは唖然としてしまった。だが、予想通りブライトがキマイラを簡単に倒したにもかかわらず、イーヴィルの表情はすぐれなかった。
「……で、さっきの質問に対する質問の答え、本当なのか?」
イーヴィルはブライトが戦っている間も、シュトロームからリバイブ・ハンターの情報を引き出していたのだ。シュトロームも、心を読まれているのは分かっているが、抗う術を知らないため、情報を聞き出されている事に対して諦めていた。
「ちっ……お前が勝手に僕の心を読んだんだろ? どこまで読んだかは知らないが、多分本当だよ。まだ実験中だったから絶対とは言い切れないが、確率的には90%だろうがね」
イーヴィルは、この情報をブライトに告げるべきか迷っていた。告げれば、間違いなく自分達の関係は壊れてしまうのを悟っていたから。
そんなイーヴィルの下に、ブライトがやって来た。
「さて、質問を続けようぜ、イーヴィル」
「え? あ、ああ……でも、もうあんまり重要な情報は無いみたいだぜ?」
イーヴィルは誤魔化した。今は、まだ決断する事が出来なかったのだ。
その様子を見て、シュトロームは確信した。ブライトもまた、リバイブ・ハンターだと。
「クックックッ……ブライト、やっぱり君もリバイブ・ハンターなんだね? お前の相棒の顔を見てれば分かるよ。そして、君のギフトを見てもね。
君はロンズデーライトのギフトを持っているが、僕の知る限り、ロンズデーライトの所有者は過去も現在も一人しかいない。そして、その一人は今も生きている! 君達のボス、黒夢の魔王・桐生辰一郎だもんね!」
ブライトは、シュトロームが何を意図して喋ってるのか分かっていないが、イーヴィルを唖然とさせた真実には辿り着いていた。
「ハッハッハ! 図星だね? 辛いねえ! やるせないねえ! 」
「何が言いたい? それに、俺はまだ自分がリバイブ・ハンターだと認めた訳じゃ無いぞ?」
シュトロームは、ニヤケながらジッとイーヴィルを見つめる。
「……そうかそうか。認めたくないのなら、僕からはもう何も言うまい。あとは……君の相棒にお任せするとしよう」
そう言うと、シュトロームが自分の胸元に手を入れる。すると次の瞬間、シュトロームの身体が光を放った。
「しまった! 転移石か!」
「また会おう! いや……もう会うことは無いかもね。じゃあね、ブライト!!」
即座にブライトはフラッシュを発動したが間に合わず、シュトロームは転移してしまった……。
「くそっ……逃がしたか。おいイーヴィル、らしくないぞ? お前ならシュトロームが転移を狙っている事くらい予想できただろう?」
「……すまん、ちょっと分からなかった」
本当は、シュトロームが転移石を持っている事も、転移をする瞬間すらも、イーヴィルは全て把握していた。でも、動かなかった。今は、一刻も早くシュトロームとブライトを引き離したかったから。
「……で、俺が戦っている間に、何か新しい情報を手に入れてくれたのか?」
「……ああ、まあ、聞いたは聞いたんだが……」
「リバイブ・ハンターの情報なら、どんな情報でも知っておきたい。教えてくれよ」
イーヴィルは再び迷っていた。いつかは、ブライトには告げなければならないだろう。告げなければ、親友であるブライトに対する裏切り行為となるから。でも、伝える訳にはいかなかった。それが、ブライトだけではなく、桐生にも関わる事だったから。
そして、イーヴィルは迷った挙句……
「実は、あんまり良い情報じゃないんだ。心して聞いてくれ」
普段からは考えられない程に神妙なイーヴィルの表情に、ブライト気を引き締めなおして頷く。例えどんなに、自分にとって過酷な情報だったとしても、自分はこれからもそれと向き合っていかなければならないのだから。
「お前にとってはツライ情報かもしれないんだが、リバイブ・ハンターは、発動しない期間が長ければ長くなるにつれて、身体に悪影響を及ぼすらしいんだ。例えば、五感。味覚や触覚、嗅覚、聴覚、そして視覚。これらに何らかの変化が起きるらしい」
五感に悪影響が現れる……。その言葉を、ブライトはすんなりと受け入れる事が出来た。それは、既に自分でも自覚症状があったからだ。
まだ味覚だけだが、最近は何を食べても味が変わらないのだ。始めは病気だろうかと不安になったのだが、病気であればセル・ホワイトが自動で回復させてしまうハズだし、取り立ててそれ以外に身体の異常を感じなかったから気にしないでいたのだが、それがリバイブ・ハンターによる弊害の一つだったとは予想もしていなかったのだ。
「そうなのか……。だが、リバイブ・ハンターを発動したくても、残念ながら俺のセル・フレイムは、俺の身体に異常があると自動発動しちまうんだ。俺の意識とは別に身体を修復してくれるのだから助かるといえば助かるんだが、俺はもう生半可な事じゃ死にたくても死ねないんだよ。……まあ、わざわざ死にたくはないけどな」
死ねない。イーヴィルの言った事が本当ならば、リバイブ・ハンターが発動しないとなると、今後もブライトは五感を徐々に失っていく危険性があるのだ。
「んで、それを防ぐには方法は一つ。能力者を殺す事なんだ」
「能力者を殺す? それが、リバイブ・ハンターの弊害の進行を遅らせる方法だってのか?」
「……ああ。本当なら、リバイブ・ハンターが発動しないで一年もすると、五感をほぼ失うらしい。でも、お前はブライトとして、この一年以上もの間、多くの能力者を殺して来た。お前が今もピンピンしてるのも、それが幸いしたんだろうな」
確かにブライトは、自分が殺しても良いと判断した悪党だけではあるが、かなりの能力者をその手に掛けて来た。元来、無益な殺生に抵抗を抱いていたブライトにとって、今後は明確な目的がある訳でもなく、自分の為に能力者を殺し続けなければならないという事実は、確かに良い情報では無かった。
「……なるほど。確かに、あまり聞きたくなかった情報ではあったな」
「光輝……あとさ……」
「任務中はブライトだろ? いつも飄々としながら誰よりも冷静なお前らしくないぜ?」
「あ、ああ。ブライト、失うのは五感だけじゃ無いんだ。もう一つ、徐々に感情を失っていき、最終的には自我を失うらしいんだ」
感情と自我を失う。その上五感も失えば、ある意味死んだも同然である。
「それはキツイな……。いや、五感を失ってる時点で同じではあるか。なんにしても、このままだと俺は、俺じゃなくなる訳か」
「でもさ、対処法が分かったんだから、考えようによっては良かったんじゃないか? な~に、世の中にゃまだまだ殺さなけりゃならない悪党はごまんといる。そいつらだけを片っ端から殺してきゃ良いんだから!」
「ひとを猟奇的殺人者みたいに言うな。俺は、例え悪党だとしても明確な理由がなければ殺すのには気が引けるんだ。それが、自分の為に殺すとなると……」
「だから! 殺す必要がある悪党だけさ! それでリバイブ・ハンターの弊害を取り除けるんだから、ある意味今まで通りだろ?」
「そりゃそうなんだが……」
「よし! ティザーも待ってるだろうし、もう行こうぜ!」
そう言うと、イーヴィルはもう歩き出していた。
「はあ、まあ、なる様にしかならないか」
ブライトは納得したわけでは無かったが、深く考える事を止めた。そしてそれこそが、感情が失われつつある証明でもあった。
感情を失う……。シュトロームの実験結果だと、徐々に感情の起伏が薄くなり、最後は完全に感情を失い、フェノムの様な獣同然の生物になる。
(瑠美ちゃんも言ってたけど、俺も光輝が変わった事に気が付いてた。でもそれは、立場が人を変えるのだと、ブライトが黒夢のナンバー1になった事で精神的に成長したのだと思っていた。いや、思おうとしていた。
確かに成長はしたのだろう。だけど、ほんの一年前までは、光輝はクールぶる所はあるがどこか抜けてる所もあり、お調子者な所もあり、優しくて真っ直ぐな男だった。そんな光輝だから、俺も親友として好きになったんだ)
そして、イーヴィルは結局、最も大事な情報をブライトに告げる事が出来なかった。
(言えない。俺には言えない! こんな……こんな残酷な秘密を、今の俺じゃあ、光輝には……いや、ボスにも、絶対に言えない!!)
言えなかったもう一つの情報。それこそが、桐生にも関わる重大な秘密だった。
それを、イーヴィルは後回しにした。だが、自分でも分かっていた。今は告げなくても、いずれ自分は、重大な選択を迫られる事には変わりはないのだと……。
あれから一年半。風香は今でも、あの日の事を思い出す。
あれから一年半。比呂は、前だけを見ていた。
次回『華撃隊と白虎隊』
「闇の閃光・ブライト……次、会った時は……」
「俺はブライトの……ライバルになる男ですから」