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大天つ柱

 草むらに導かれて進んでいくと、開けた場所に出ました。

 途端、目の前に広がる光景にハイファは息を呑みます。

 大天つ柱の樹皮の上を光の線が瞬きながら駆け上り、無数に浮かぶ光の粒と色とりどりの花びら。

 見ているだけで満たされていくような──

 それもそのはずです。

 ここは全ての里の民たちの祈りが集まってくる場所なのですから。


 蔦の絡む祭壇のそばには、すらりと背の高い民が立っています。


「──大巫子さま」


 地面に付くほど長い黄緑色の髪、頭の上に咲き誇るのは巫子たちよりも大きな白花。

 風に揺れる毛先にはたくさんの小さな白花が咲いています。

 歩み寄るハイファに、大巫子は伏していたまぶたから鮮やかな青緑色の瞳を覗かせると微笑を浮かべました。

 こうして向かい合わせに並ぶとよくわかります。

 大巫子の腰のあたりまでの背丈しかないハイファは、ぐっと見上げなければ視線が合わないのです。

 ハイファは丁寧に白花を傾けました。


「ハイファと申します。昼出づる森の天つ柱が精霊主トワイより祝福を授かり、風駆ける山の天つ柱が精霊主ラピルイ、砂溢れる地の天つ柱が精霊主ワナイ、水満つる湖の天つ柱が精霊主パルマイより承認の小花を授かりました」


 大巫子は音も立てずに膝を付き、ハイファと目線を合わせてから返礼します。


「よくぞ参られました。道中、大天つ柱を通じて見ておりましたよ」


 大輪の白花を揺らして、木陰のそよ風のような印象の顔をもたげた大巫子は問いました。


「──巫子ハイファ。あなたは世界を知りましたか」


 一瞬、葉擦れの音が止み、舞う光の粒と花びらが静止してハイファの答えを待ちます。


「はい。わたしに見ることが出来うる限りの世界の姿を」

「世界は、大天つ柱は決断せねばなりません。このことはあなたにお話するのが初めてになりますね。後ほど、お話しましょう」

「はい、大巫子さま」


 立ち上がった大巫子は手を差しのべ、ハイファはその細い指先に触れます。


「ウロへ──白花の巫子の権能を授けましょう」

 


 ウロへの入り口は四つの天つ柱とは異なり、祭壇のすぐ裏にありました。

 大巫子に手を引かれて細い道を進み、やがて広間に出ます。

 ふたりの気配を感知した光傘木の群生が灯っていくまでは天つ柱のときと変わりませんでしたが、


「あ……」


 思わずハイファは声を上げます。


「大精霊主は……」


 天つ柱では欠かさずに存在感を示していた、あの巨大な岩がないのです。

 広間は完全な円形で壁側には隙間なく光傘木が並んでいます。

 首を傾げるハイファに、大巫子はするりと指を解いて広間の中央へと進みました。


「大巫子さま?」


 大巫子が瞳を伏せると身体が淡く光り出し、ふわりと宙に浮かびます。

 そして、外で見たような光の粒が地面や壁から現れたかと思うと次々にハイファを囲んでいきました。

 光の粒のうち、白い光は大巫子の手のひらの上に集まっています。

 

『──古に消えた森の営み。

 我が愛し子、我が同胞よ。

 我らが守りしものたちよ。

 我らは其を慈しみ、安寧を約束するもの。

 我らは大天つ柱。

 根幹たる樹──』

 

 大巫子なのに、そうではないような。

 静かな水面に高いところから雫を落としたように澄んだ声。

 ウロの中ではなく頭の中で響くような声でした。

 ハイファはつられるように大巫子のもとまで歩むと、膝をついて深く白花を傾けます。

 

『──我は大天つ柱に寄り添い代弁するもの。

 我が名はマヤナフ。

 古に消えた森の、巫子──』


 そっと顔を上げると、大巫子──大精霊主マヤナフが微笑みかけます。

 そして白い光に包まれた手のひらをハイファの白花にかざしました。

 

『──巫子ハイファ。

 あなたに白花の巫子としての権能を授けます。

 世界と民を愛し、導きなさい──』

 

 身体中が熱くなり、眠いような、目覚めるような感覚の中、白い光は大きさを増して視界を白く染めていきました。


『──私は大天つ柱が大精霊主マヤナフ。

 子らの安らかなるを望むもの。


 世界と子らの旅路に祝福を──』

 

 光は一層強くなって一気に収束し、瞬きひとつのあとには何ごともなかったかのようにもとのウロに戻っていきます。

 ハイファがそろりと頭に手を触れさせると、みっつの小花は消え、白花は大輪へと変化を遂げていました。

 完全な白花の巫子の証です。


「大精霊主マヤナフ、ありがとうございます……。白花の巫子の役目、しかと務めさせていただきます」


 深々と白花を傾けたハイファを、地に降り立ったマヤナフは抱き寄せました。

 ふわりとくすぐる知らない香りはどこか、胸の奥を揺さぶる懐かしい気配がします。


「私たちの愛し子、同胞よ。世界のすべてをその目に見せ、その耳に聞かせましょう」

「はい」


 ハイファは頷きます。

 光傘木の群生は徐々に光を失い、もとの暗闇に戻ろうとしていました。

 


 再びマヤナフに手を引かれ、ハイファは祭壇まで戻ってきました。


「ハイファ、これより先は白花の巫子のみが知ることの出来るものです。民、そして次代の巫子への口外は許されません」

「なぜか、聞いてもよろしいですか?」

「民すべてに白花は授けられませんから。長き年月でようやく癒えたものを、あえて揺さぶることはないでしょう。巫子であればこそ、揺らぐことがないのです」

「そう、ですね。その通りです」


 頷くハイファに微笑んでマヤナフは祭壇に手を掛けます。


「大天つ柱よ。天頂への道を」


 そう短くいうと、どこからともなく風が巻き起こりました。

 緑の風はぐるぐると旋回して足元をすくい上げ、ハイファとマヤナフを包んで上昇を始めます。


「わ、っ」

「大丈夫、落ちませんから」


 風は上昇を続け、止まった頃には周りの景色はハイファの全く見たことのないものとなっていました。

 果てまで広がる半透明の枝葉がところどころ溶け込むように空と同化しています。


「天を支え、落ちてこないように縫い止めているのです。地面の下でも、根が同じ役割をしています」

「あっ……あれは」

「──そう、あれは世界の端」


 ここから見なければ、知ることもなかったのでしょう。

 どこまでも続く枝葉を目で追っていたハイファがふと下を見下ろして気付いたこと。

 民はもちろん巫子も立ち入ることのない天つ柱の外側で、きっぱりと途切れた森や砂漠のその先が空白になっていることに。


「あれより先が神樹のウロの壁です」

「あれが……」

「……トワイが太陽を飲むにはまだ早いですから、先にお話しましょうか。大天つ柱の決断を──」





    ◇

  ◇ ◆ ◇

    ◇

 

 



 精霊主トワイが太陽を飲み込み、夜が訪れました。

 大巫子の長い髪がさらりと夜風になびきます。


「決断、と大仰に言ってはいますが最初から決めていたことなんです。ただ、それが可能か確信が持てなかった。実るまでにはまだ時が必要ですが、必ず成されるでしょう」

「──民は。母たる天つ柱、大天つ柱とともにあるだけです」


 ハイファは落ち着いた表情でマヤナフに言いました。

 天を切り裂く三日月が仄かに照らす闇に、枝葉から放出された光の粒がきらきらと瞬きます。


「……太陽が飲まれましたね。最後に三日月を見に行きましょうか。空の天井へ」


 足元の緑の風が浮上し、間近となった三日月はこうしてみると白一色ではないことがわかりました。

 三日月型の亀裂は白い膜に覆われていますが、膜の向こうに荒れ果てた大地と灰色の空が見えているのです。


「向こう側が神樹の世界です。私たちがもともといた世界……あの頃は森の民と呼ばれていましたね」

「……マヤナフさまの姿がわたしたちと違うのは」

「そう、これが森の民の姿なのです。私はあの世界の最後の巫子でした。だからでしょうね。話すことのできない大天つ柱の代弁者として、大精霊主として、花獣たちと同じように永い時を生きることになりました」

「ずっと、この世界が始まってからですか?」

「ええ」


 目を細めたマヤナフは自分の髪を梳く仕草の延長で無数に咲く小さな白花を撫でています。


「ここも神樹の世界に違いはありません。緩やかだったとはいえ、いずれたどる道は同じでしょう。裂けた大地と沈む砂漠、澄みすぎた水源に形を保てぬ木々──次に変化が現れるのはおそらく、森」

「はい。備えましょう」

「……巫子ハイファ。これで良かったと思いますか?」

「わたしたちは幸せじゃないと思ったことはありませんよ、マヤナフさま。今までも、そしてこれからも。ずっと」


 ハイファは自分の髪に結ばれた組紐に手を当てて言いました。

 マヤナフは静かに息を吐き、一粒の涙を溢します。


「……ありがとう。そろそろ、降りましょうか。昼になってから里にお帰りなさい」

 


 翌日、大天つ柱のそばの花畑で目が覚めたハイファは祭壇に佇むマヤナフの元へ向かいました。

 マヤナフは変わらぬ微笑で、


「よく眠れましたか?」

「はい……なんだかとても調子がいいです。恵みの雨のあとみたいに」

「ふふ、それはここが大天つ柱だからですね」


 ハイファは背筋を伸ばし、改めてマヤナフに白花を傾けます。


「昼出づる森の天つ柱が白花の巫子、ハイファ。これより里へ戻ります」

「道中の標は、これが務めましょう」


 手のひらから白い光を浮かび上がらせたマヤナフは、それをハイファに向けて手放します。

 柔らかく瞬く光はふよふよとハイファの頭をひと回りしました。


「はい、ありがとうございます」

「大天つ柱の祝福を。我らはともに」

「いつか来る、その時まで」


 祭壇を離れたハイファは振り返り、白花を傾けるマヤナフと大天つ柱をしばらくの間見つめていました。

 大きく息を吸ってぺちんと頬を叩き、もう一度改めてマヤナフに白花を傾けてから、草むらへ向かって飛んでいく白い光を追いかけます。


 マヤナフは、ハイファの姿が見えなくなると光の粒と白い花びらを残して大天つ柱の中へと溶けていきました。

 積もる花びらは時折風に掬い上げられると高く舞い上がり、またゆっくりと降ってくるのを繰り返します。

 大天つ柱の麓では周囲の木々の葉擦れの音だけが聞こえていました。




 

    ◇

  ◇ ◆ ◇

    ◇





「明日だね」


 わたしが旅の支度をしていると横からコップが差し出されました。

 ノルタさまにお礼をいって受け取り、口をつけます。

 

「はい。明日、巡礼に旅立ちます」

「早いもんだ」


 ノルタさまは自分の分のコップを片手に持って、わたしの隣に座ってからからと笑います。


「おまえの生まれた花祭りが昨日の事のように思い出せるよ。天つ柱の白い蕾……巫子の花」

「ふふふっ」

「もう耳にこぶが出来るほどいってるだろうけど。里の外では祈りの泉以外、精霊主の恵みが得られない。祈りの果実はあくまでその場しのぎにしかならない」

「わたしはこの里の、精霊主トワイに仕えるべく生まれた巫子です。これくらいの事を越えられずに何が出来るというのでしょう」


 そういって胸を張ると、ノルタは小さく吹き出しました。

 そして一気に飲み干したコップを置くと、両手を構えて飛びかかってきたのです。


「わっ、ノ、ノルタさま?」


 わしわしと頭を撫でてくるノルタさまは、慌ててわたしがコップを置いたのを見計らったように引き寄せて抱きしめてきます。


「立派になったもんだなあ! くく……っ」


 わたしの髪に顔を埋め、しばらく肩をふるわせると深く息を吐いていいました。


「母は、精霊主トワイはお前とともにある。里の民も、あたしもな」

「……はいっ」


 明日、わたしは生まれ育った天つ柱を離れて里の外へ出ます。

 巡礼とは大きな区切りなのです。

 これは巫子に定められたことで、もちろん小さな頃から知っていたことですが、どうしても寂しさは拭えません。

 爽やかな香りがもう一度私を包んで離れていきました。


「なあに、今までの巫子もみんな通ってきたことなんだ」

「はい……ノルタさま」

「ん。明日は祈りの儀式のあとに天つ柱のウロへいくよ。まず、精霊主トワイから祝福を授かるんだ」





    ◇

  ◆ ◇ ◇

    ◇





 久しぶりに帰ってきた昼出づる森の里。

 ハイファはほう、と息を吐いて天つ柱を見上げると、柵を越えて里の中に入ります。


「わあ! ハイファさまだっ」


 ハイファの姿をいち早くみとめた小さな民が声を上げ、駆けてきました。

 抱きつき、見上げてきた民に笑いかけます。


「リシュラ、少し大きくなりました?」

「うんっ! あのねえ、かさきのおちゃいれられるようになったんだよ」

「それはいいことですね」


 リシュラの声を聞きつけた他の民たちも集まってきます。


「巫子さま、おかえりなさい」

「白花の巫子ハイファ。精霊主トワイの祝福とともに巡礼を終え、証を得てただいま戻りました」


 ハイファは笑って、民たちに応えました。

 


 民たちをそれぞれの仕事に戻し、ハイファはウロへと向かいました。

 祭壇を過ぎ、天つ柱をぐるりとまわって、ひとりで歩いていきます。

 開いた入り口から細い道を進み、ウロの中心部に出ると待っていたように光傘木の群生が灯っていきました。

 変わったことといえば、巨大な岩の前に積み上がる枯れ葉の山です。

 ふいに、昨夜夢で見たノルタの姿を思い出しました。

 ハイファは枯れ葉の山の手前で膝をついき、大輪の白花を深々と傾けます。


「昼出づる森の天つ柱に宿りし精霊主トワイ。大天つ柱が大精霊主マヤナフより大輪を授かりし白花の巫子ハイファが御前に」


 空気が動きした。

 すっかり聞き馴染んだ、岩をこするような、大木がきしむような音がウロ中に響きます。

 目の前の岩がゆらめくと、ゆっくりと頭を振って見下ろす精霊主トワイが変わらぬ姿でそこにいました。

 

『──世界を知ったか、白花の巫子ハイファよ──』

 

「はい。大精霊主マヤナフより、大天つ柱の決断も」

 

『──力は未だ満ちぬ。

 時が来るまで変わらぬ平穏の中に生きよ。

 安らかなる姿を、幸福を、我らは望む──』

 

 大精霊主トワイはじっとハイファを見つめたあと、目の前の枯れ葉の山に息を吹きかけました。

 枯れ葉は地面を離れるときらきらとした粒となって消えていきます。

 

『──我らが愛し子よ。

 しばしの間、大天つ柱が懐で眠るがよい──』


 そして岩のこすれるような、大木のきしむような音を立てて、精霊主トワイはもとの巨大な岩に戻っていきます。

 ハイファは目の前に残った組紐を拾って立ちあがり、薄暗くなっていくウロを後にしました。



 


 変わらぬ平穏、つつがない毎日が続いて行きます。

 いまだ変わらぬ姿を保つ昼出づる森の天つ柱の祭壇の前で、ハイファは民たちを見渡しました。


「精霊主トワイ、われらが母よ、恵みに感謝を。われらは精霊主トワイとともに──」


 繰り返し、次代へ繋ぎ、その時まで。





    ◇

  ◆ ◇ ◇

    ◇





 ハイファは天つ柱を仰ぎました。

 遥か頭上にある枝葉から降りそそぐ花びらの雨にしばし見入っていたハイファは、一抱えほどもある鮮やかな産花のある根元近くに視線を落とします。

 新しい民の誕生の日、花祭り。

 育てた傘木を供えた祭壇の前では楽器を弾くもの、それに合わせて歌うものと互いの手を取り踊るものたちがいます。

 民たちの足取りに合わせるように舞う花びらが風景をより美しいものにしていました。

 花祭りはいつだって特別な日でしたが、今回の花祭りはハイファにとってさらに特別です。

 

 やがて産花が開き始め、民たちの間からは歓声が上がりました。

 赤色、黄色、桃色──ひとつまたひとつとほころんでいくその中から小さな子どもたちが起き上がり、名を与えられると民たちの中に迎え入れられていきます。

 世界に愛されて生まれた子どもたちはこれから自分のすべきことを学び、世界に寄り添い生きていくのです。

 これまでも、これからもずっと、変わることなく。


 ハイファは一段高い場所へ視線を向けます。

 白い産花の中でまだ眠ったままだった子どもは身じろぎをして、今にも目を開こうとしていました。


「こんにちは、次代の白花の巫子。あなたの名前は……ずっと前から決めていたんです」


 薄赤色の瞳に世界を映した子どもは、にへらと笑うとハイファの腕の中に飛び込んでいきました。











  ◆ ◇











「産声高く 聞こゆるは

 祝いあふれし 白き森


 平和がためと 呪わば

 見ゆる雲ゆく 空の青


 険しき山の 誓いにて

 われら守らん 竜がため


 栄えて遠く 豊かなる

 瞬く光 息吹の尾


 眠りのふちへ 誘いて 

 われら綴らん 永久なるを」


 枯れ木の目立つ森の中で白花の巫子は口ずさみました。


 砂漠はもっとも早くに地の底へと落ちてゆき、清らかに過ぎた水はその意味を見失って虚ろの湖となりました。

 そして太陽は砕け昼と夜の区別がなくなり、風の絶えた空の灰色には三日月ばかりが白く冷え冷えと存在を主張しています。

 

 ついに時が来たのです。

 

 すでにみっつの天つ柱は閉じられました。

 目の前には民の数だけある花の蕾。

 ひとり残った巫子は、祈りを失った大天つ柱に向けて歌い続けていました。

 民たちが初めて教わったという、神樹の世界から連なる歌、精霊主の子守歌を。


「どれほど遠くへ離れようと、忘れようとも、この魂あるかぎりわたしたちは母とともに……ですよね、精霊主トワイ……」


 力尽きてふらりと前へ倒れた巫子を、傍らに佇んでいた小さな黒い獣が背で受け止めます。

 それから白花を傾けるように頭を柔らかな温もりに落とし、巫子はさいごに微笑んで呟きました。


「──おやすみなさい。また……目覚め……まで──」











  ◆











 大天つ柱は決断しました。

 母である神樹の選択に倣おうと。

 長い時の中で蓄えた力と民の魂を精霊主たちに託し、本当の意味で幸福になれる世界を探せと。

 すでに精霊主たちはそれぞれ違う世界を目指して神樹のウロを飛び出していきました。

 唯一、大天つ柱の傍に残った大精霊主マヤナフは苦笑して言います。


「駄目ですよ。私もここに残ります。だって、あなただけを残しては行けないでしょう? それに、終わりまでふたりきりでいるのだって悪くないと思うの。ね、あなたはちゃんと役目を果たしたわ。大丈夫、あの子たちにはみんながついてるもの」

 

 灰色の空の下、大天つ柱とマヤナフは寄り添って思い描きました。

 この広大な宇宙の枝のどこかで幸福に生きる愛しい子らの姿を。

 そうであれと願いを込め、祈り続けます。





 遠い遠い時代の原初より分かたれた枝の先。

 天と地を抱く巨大な樹・大天つ柱と、その四方を囲む天つ柱によって生命が巡っていた世界がありました。


 今では抜け殻だけが残っています。

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