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~密輸~3/4

「応援願います!」


 警官が無線に向かって連絡をしている。仁科たちは、息を整えながら様子を見ていた。夜のため、凍えるような潮風が吹き付ける。


 パリンッ


 突然窓ガラスが割れる。振り返るまでもない。銃弾が撃ち込まれたのだ。仁科たちは、車のさっぱり通らない車道を全力で走る。


「あそこに隠れるぞ!」


 警官が、閉まっている土産物屋を指さした。全員で建物の陰に隠れる。近づく足音。まっすぐに走ってくる男たち。警官が走り出す。仁科たちも後を追う。走る。走る。そのうち、広い砂浜に出た。砂浜の上を、足を取られそうになりながら全力で走る。真っ暗な砂浜、何かに躓いて転びやしないか、不安でたまらない。

 そのとき、突然腕を引かれて後ろにひっくり返る。腕が痛い。ぎりぎりと腕を掴む、男の姿があった。


「……ぜぇ、はぁ! ……くそっ!」


 反対の腕で砂の地面を叩く。


「い、いやぁ! はあっ、はあっ……は、離してえ!」


 有里の悲鳴だ。仁科は心臓が締め付けられる。


「……っ!」


 視界の隅で、新藤が捕らえられる。


「……お主ら、こんなに罪を重ねて、……はぁ……どうなるか、分かっているであろうな!」


 富枝まで掴まったと悟った。目の前で、用務員が思いきり転んで、外国人に取り押さえられる。

 そのとき、側頭部に冷たい感覚が走った。銃口を突きつけられている。


「ひいっ……! うぐっううう……ひぐっ!」


 喉が引きつり、情けない声しか出ない。


「仁科! やめて! やめてよお願い! 殺さないでえ!

 有里が叫ぶ。


「勘弁してくれ!」


 新藤も叫ぶ。


「もう止まってはくれぬだろう……」


 富枝は目をつぶった。仁科に突きつけられた銃口が離される。


 パスッ!


 耳がちりちりと焼けるように痛い。耳のすぐそばで、威嚇射撃をされたのだ。


「……っ!」


 仁科たち、全員が目をつぶり、耐える。直に訪れる、死を伴う痛みに備える

 もうだめだ……


 仁科は、諦めた。楽しいことを思い出すことにした。まぶたの裏に浮かぶのは、この前、最初にこの海に来たときに見た、きれいな夕日……それを見て、幸せそうな顔をしていた、有里の姿だ。とても良い笑顔だった。可愛かった。そんな有里を、もう二度と見れない。新藤とも、富枝とも、世話になっている用務員とも

 生きて……帰りたい!


 そのとき、潮風が強く吹いた。仁科の背中を押す、追い風のように。


四部構成の三部目です。次回ラスト、お楽しみに!

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