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策略生徒会Ⅱ 柳骸坂を昇れ  作者: 中川大存
第三章【損崎巳樹の政略】
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第三章【損崎巳樹の政略】②

 

          [2]

 

 陽陵学園生徒会室。

 五月十四日──交流試合が本決まりになった三日後、島崎は再び生徒会役員を招集した。

 その場にいる誰もが、柳骸坂に対抗するための構想を発表する場なのだと分かっていた。

 早速のように、樋野が口火を切る。

「どう動くんですか?」

「うん。大筋として考えているのは……」島崎は天井に目を向けた。「柳骸坂の支配システムの全貌を把握し、証拠を握り、脅す」

「お、脅す」

 物騒な響きにたじろいだ植村に、島崎は笑いかけた。

「嫌な言い方だけどね──でも、警察沙汰にするよりは平和だろう? それに、過去に南岳政権の内実を公に曝した僕の脅しなら、より効果的だと思う。口だけでなくいざとなれば本当にやる、と印象付けられるからね」

「しかしそれって相当恨まれませんかね?」樋野が腕を組んで島崎を見上げる。「証拠を握られたらそいつごと消せばいいって考えるかもしれないし……これまでに犠牲が出たことを考えれば、何も知らない一般生徒を人質に取ってくるようなこともあり得るんじゃないですか?」

「うん。半端にやれば、きっとそうなる。だから徹底的にやる──僕ごと秘密を葬り去ろうとしたり一般生徒に手をかけようとすれば即座に情報が漏れるような形を作って動かなければいけないし、掴む証拠も一発で相手の息の根を止めるレベルの決定的証拠じゃないと意味がない」

 ふうっ、と植村が鼻から息を吐いた。

「かなり難しいね……少なくとも、何かの手を使って向こうがガードを解く瞬間を作らないとそこまでの情報は得られないよね」

「つーことは、交流試合の日に向けてどうにか柳骸坂の裏をつく手立てを考えとかないといけないってことですか。そして当日に満を持して校内に入り、証拠を掴む」

「いいや」

 島崎は首を振った。全員が意外そうな視線を向ける。

「決戦は交流試合じゃない。明日だ」

 吉良崎が納得いかない様子で声を上げた。

「どうして? わざわざ忍び込まなくたって、交流試合まで待てば大手を振って入れるのに」

 だからこそだよ、と島崎は言った。

「陽陵と柳骸坂の接触の日取りが決定した今が好機なんだ。逆に言えばそれまでは準備期間だと思わせられる──そこに付け込み、布石を打っている最中の無防備な柳骸坂に忍び込んでワンポイント早く攻撃を開始する」

「なるほど。交流試合の設定はフェイントってわけですか」樋野がにやりと笑う。「会長、真面目面して案外狡いですね」

「本当に先手を取ろうと思ったらそうせざるを得ないんだ」

 島崎は植村に目くばせした。

「柳骸坂から連絡が来たの。今回の試合は単なる練習試合ではなく、二校の交流試合だという性格上、生徒会長と副会長にも試合会場──つまり柳骸坂高校にお出で願いたいって。試合開始前に何か喋って欲しいって名目はあるんだけど……」

「わざわざ交流試合と銘打ったのには、陽陵の頭を自分達のフィールドに引きずり込む意味があったんですね……」

「向こうはこっちを潰すためになんでもやってくるだろう。そう考えると僕らがわざわざ柳骸坂に出向くというのは明らかにまずい──何が起きても闇から闇へ葬り去られる危険があるからな。向こうが手出しできないよう試合の場を市民球場かどこかに変えさせるというのも考えたけど、下手に相手を警戒させるよりは一旦言いなりになっておき、隙につけこんで短期決戦で勝負を決める方が成功率が高いと僕は思う」

 これが最善手だ──そう島崎は結論付けた。

 しかし、心の底では不安もある。

 最善手──だからこそ、相手にとっても論理的にたどり着くことが可能なのではないかという心配。

 しかし、だからといって手をこまねいていて試合当日になってしまえば勝ち目はなくなる。懸念を抱えつつも、進む以外の選択肢はないのだ。

「僕は柳骸坂に潜入し、搔き乱す──騒動を誘発し、いかにそれを収めるかを見る。その過程で柳骸坂の闇の一端を掴み、引きずり出すつもりだ。そのための工作は演劇部に手伝ってもらう」

 言葉を切って、部屋の奥を見やる。植村と樋野もつられるように同じ方を向いた。

 生徒会室の突き当り、三人とやや離れたところにいる吉良崎──その隣に立つ男が、にっこりと笑った。

「頼んだよ、爪山君」

「へはは──任せときな、島崎会長」


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