長老による演説
猫達は一匹も漏れずに姿勢を正す。
隣を見るとうちの猫達も背筋を伸ばして、口を閉じた。
「皆、よく集まってくれた。今日は……大切な話がある」
大事な話?
集まった猫達は一身に黒猫を見つめる。
「我が飼い主である、保健所に勤めるタケシから聞いた話では……今日、ドリームボックスで殺処分された我らが同胞は約200匹……!!」
野良猫や捨て猫を集めて殺処分する箱のことを『ドリームボックス』と言うことは俺も知っている。
「さらに言うなら! 昨日、観音町のとあるマンションのゴミ捨て場に、生まれたばかりの子猫が捨てられていた。人間どもの出した生ゴミと一緒にだ!! 彼らはカラスに襲われ、不幸にも2匹が命を落とした……」
「なんという……」
ざわざわ。
猫達がどよめき始める。
「それというのも、本来なら回収日ではない曜日に人間どもがゴミを出したせいで、カラスどもが増え、罪なき子猫達が犠牲になっているのだ!!」
無責任な飼い主によって捨てられた猫達。
繁殖の可能性を考えずに無闇に、野良猫に餌を与える人間達。
年間およそ2万匹はそうして処分されているらしい。
飼い主が猫を捨てる理由は様々だ。
引越し先がペット禁止、予想外に子猫が生まれてしまった、病気になってしまったので面倒を見きれない……など。
いずれも人間の身勝手な理由で振り回される猫達の身にもなってみろ、っていうんだ。
猫達はしゃべれない。
だから、文句も言えない。
人間達には声が届かない。
でも、人間と同じ……猫にだって感情がある。
赤い血が流れている。
俺は猫が好きだ。
1匹でも多く、助けたいと思う。
でも……俺1人でできることなんて、限りがあるだろう?
ざわざわ、と集まっていた猫達のざわめきは一層大きくなる。
「人間を許すな!!」
「そうだ!!」
「静かに!!」
側近が言い放つと、静かになる。
「皆……前回の集会で出た提案のことは、覚えているか?」
黒い猫が話し出すと、はい、と何匹かの猫が答えた。
「いよいよ、あれを実行に移すことにしようかと思う」
おお~、と猫達の間から感嘆の声が漏れる。
「いいか、お前達。最低は1匹につき、1匹じゃ!!」
何の話だ?
俺は思わず、プリンの方を振り向く。
彼女(?)は微笑んで、司会をしている猫の方を見ろと言った。