とりあえず、驚け。
それは、とある夏の暑い夜のことだった。
冷房のタイマーが切れて、暑さに目が覚めた。
一晩中つけっぱなしは気が引けるのでタイマーをセットするのだが、スイッチが切れてしまう都度、起きてしまう。
あと2時間ぐらい延長しよう。
俺は暗闇の中、リモコンを探した。
すると。
むにっ、と柔らかいものが手に当たった。
猫か……?
寒い冬なら、布団に潜りこんできてくれるのは大歓迎だが、熱帯夜にはカンベンしてもらいたい。
とりあえず床に降りてもらおう。俺は猫の首根っこを探して手さぐりする。
なんだかちょっと、違和感。
と、同時に「にゃー!!」と、声がした。
続いて、
「ご主人様のバカ!!」と、女の子の声で日本語が聞こえた。
はい?
誰だ、ご主人様って。
俺のことか?
とりあえず、電気を点けよう。
気がつくと目の前に、褐色の髪と明るい緑の瞳をした女の子が座っている。
その上、よく見ると妙な格好をしている。コスプレか?
いくら暑いからって、腹を出すような格好は見苦しいぞ。
だいたい、そんな服装で外を歩いてたら通報もんだ。
それに、なんだよ。
猫みたいな耳を生やして、ご丁寧に尻尾まで……。
その時になって初めて、俺は異様な事態に気がついた。
「えっと……どちら様?」
女の子は何を今さら、と言う顔をして答える。
「メイだよ」
「ああ、うちの猫もそういう名前」
「だから私、その猫のメイだって」
「……」
「……」
「……頭、大丈夫? そもそも、どこから入ってきたんだ? お家はどこ?」
何を言ってやがる。
どう見たって人間の女の子じゃねぇか。
ちょっと妙な格好をした、ややイタい感じのな……。
「お家? ここだよ」
「あのな……」
最後に帰って来たのは誰だ? 姉さんか?
玄関の鍵をかけ忘れたんだろうか。
まったく、不用心なんだから……。
その時。
「ご主人様、お目覚めですか?」
背後から違った女の子の声がした。
俺はおそるおそる振り返る。薄い紫色のロングヘアに、深い緑の目。やはり猫の耳と尻尾がついている。
お目覚めも何も、起きているのか夢を見ているのかはっきりしない。
「プリン~!! さっきご主人様が私の胸、触ったんだよ?!」
えっ?!
どうりで、なんかいつもと手触りが違うと思った。
「メイ、それは事故よ。うちのご主人様は、そういうキャラじゃないから」
「むー……」
おい、お前らが俺のキャラを語るのか?
「えっと……?」
「私、プリンです」
確かに、家には二匹猫がいる。
一匹はメイと言う名前で、もう一匹はプリンと名付けた。が……。
「驚いていらっしゃいますね。でも、これは現実ですよ?」
嘘だ。
なんで猫が人間の格好……それもコスプレみたいな衣装で、日本語をしゃべるんだ?