平和な日々
俺達はいつも、五人でいた。
西条豊の俺。
中学生にしては生意気な金髪の不良、坂口裕太。
引っ込み思案で、おどおどしているのが特徴的な一柳孝則。
明るく、活発な俺たちのリーダー役のような女子、石岡利穂。
最後に、クールで何事にも冷静な秋田彩佳。
どんな事があろうとも、俺たちは決して離れはしないと思っていた……。
寒すぎた季節を通り過ぎ、ようやく桜の季節がやって来た。
そんな中で俺たちは、幸せすぎる日常を繰り返し過ごしていたのだった。
「豊!」
昼休みの予鈴がなると、教室の入り口で俺の名前を呼ぶ利穂が目に入った。
俺はすぐに、利穂の用事が分かった。
「いつもの場所に行ってて」
そう利穂に伝えると、利穂は微笑んで頷いた。そして、俺は利穂を追うように教室を出て、利穂が向っていった逆方向に足を進めた。
鼻歌を歌いながら俺が向うのは、売店だった。いつもなら通れないくらいに生徒がいるのだけれど、それは人気メニューの時だけだ。
俺は、好物でもあるあんぱんを手に入れると『いつもの場所』へと向った。
三階の階段まで来ると、右手に古びた扉がある。
そこを開ければ、薄暗い階段が続いていて、その先に行くともう一枚扉がある。それも同じく開けると、春の風が俺を優しく包むように風が迎える。
そう、ここは屋上。
「おー! 豊、遅いじゃん!」
手すりに寄りかかっていた裕太は、俺が入ってくるのを見つけると大声で手を振った。
その裕太の動作に、地面に座って早速ご飯を食べている利穂と彩佳もこちらを向いた。
ただ、孝則だけはみんなと三十センチほど離れた場所で屋上から見える街の方を向いていた。
「わりー」
俺も、駆け足でみんなの所へ行く。
「何、今日もあんぱん?」
俺の手にあるあんぱんを指差し、利穂は笑った。なんとも馬鹿にしているような笑い方だったから、ちょっとムッと来た。
「何だよ、これじゃ駄目なのか?」
落ちるようにその場に座り、あんぱんを口にする。
「いや、よく飽きないものだなぁって思ってさ」
ちょっと強めの風が吹いて、利穂の長い黒髪が大きく揺れた。彩佳の髪も利穂よりは長いが、赤茶に染められて邪魔にならないように、結ばれている。
「あ……」
いきなり、裕太が何かを思いついたかのような声を出した。
俺たち四人は、裕太に視線を向ける。
「そうそう、豊……お前、知ってるか?」
知っているか? と聞かれて、大抵の人は答えられないだろう。
「知っているって、何?」
裕太は一瞬、思い出せそうで思い出せない表情をして、ついに何かを発言すると思ったら、
「何言おうとしたか忘れたわ」
と、なんとも間抜な答えが返ってきた。
俺は呆れて、何も口に出来なかった。
そこで、今までずっと黙っていた孝則が口を開いた。
「……一昨日の、事件の事じゃないかな」
相変わらず、ボソボソと喋る癖は直ってはいなかった。
俺と裕太と孝則と彩佳は元々同じ小学校で、特に俺と裕太は特別仲が良かった。
孝則と彩佳は特別仲が良かったというわけではないのだが、中学に入って利穂が現れ、彩佳は利穂と仲良くなり始める。
そして裕太が、利穂に恋心を芽生えさせ、カモフラージュに孝則を仲間に入れた。
そんな微妙な関係を保ち続けて、約一年。俺たちはいつの間にかいつも一緒にいた。
「事件?」
利穂もそのことについて首をかしげた。彩佳はただ、不思議そうに孝則を見ているだけだった。
そこで、ようやく裕太が思い出したようだった。
「ああ! そうだそうだ」
「何だよ、事件って」
俺が尋ねると、裕太は口元を緩ませた。
「この街で、一昨日事件があったんだよ」
「何の?」
利穂が問うと、裕太はちょっと間を空けてこう答えた。
「殺人事件のだよ」