一。秦振心太は転生が嫌いである
ネット小説のテンプレートなカテゴリの一つに『転生』というものがあるのは皆様ご存じであると思う。最早それは王道のジャンルの一つであり、恐らく誰もが一度は憧れる現象なのだろう。強い能力貰って異世界に行かせてもらって、そこで運の補正とかも色々かかってやりたい放題好き放題過ごせる。まあ能力を神様から貰えるようなお気楽な主人公は、そんな欲望に塗れた行動はしないのだろうけど。
しかし本当にそれは楽しいのだろうか?というか奴等は気持ち悪くないのか?自分にチートと呼ばれるような強大な力が宿っていること。その気になれば世界だって壊せてしまうこと。それだけでなく、『どうして自分だけ恵まれているのか』。それを気にせずに暴れまわる主人公の気が知れない。全知全能の神が『ごめん間違えてお前殺しちゃった、だから御詫びに転生させてやんよ』とか、そんな展開ありえない。っていうかあってほしくない。色々イメージが壊れる。もし自分が作者の筆で書かれた紙の上のインクでしかないのであれば、俺だったら速攻で死にたくなる。
――これ以上話していたら転生の悪口だけで小説一作分位は軽く語ってしまう気がするので、ひとまず俺がどれだけ転生とかご都合主義とかチート能力というものが嫌いか、というものを自分で再確認できたところで閑話休題だ。
俺、秦振心太はいつもの帰路のいつもの横断歩道で信号待ちをしていて、すると目の前に突然猫が飛び出し、自分でも何故そんな行動に出たのか分からないが、なんとなく猫を追って走ったら速度を上げて迫ってきていたトラックに気づかず、眩しいライトに目を瞑り、喧しいクラクションが響いたときには、あっさり自分の人生に諦めもついた。走馬灯なんか見なくていいと思った。ただ只管、全身に痛みが走るその瞬間を待っていた。結構大きなトラックだったし、痛みは一瞬で終わるだろうか。当たり所が悪くて一発で逝けるといいな……とかそんなことを考えていたのだが、いつまでたっても痛みはやってこない。恐る恐る瞼を開けると、トラックなんて何処にもなくて、道路なんて何処にもなくて、街なんて何処にもなくて、しかし猫だけは膝の上に乗ってにゃあにゃあと鳴いていた。
「……………」
俺の大嫌いな転生のパターンの一つに、『トラック転生』とかいうご都合主義な展開があったな、と思い出したところで思考を放棄してその場に寝転んだ。見上げると夜空には満点の星空。星達が今まで見たことがなかった様な輝きを放っているように感じた。手元に猫を抱き寄せ、そっと頭を撫でてやる。
――目が覚めたら元の世界に戻っていることを願おう。これは夢に違いない。
そう思いたかったけど抱き寄せた猫の温もりがこれが現実であると無慈悲に伝えてくる。吹く風が肌寒く感じて、さっきまでよりも強く猫を抱き締めて眠りに着いた。
もしもこれが転生だというのなら、目覚めたらさっさと死のう。