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吸血彼氏  作者: しきみ彰
4/10

4.オデカケカノジョ

本日二度目の更新です。

 ゴールデンウィーク初日。


 由羽は鼻歌交じりに服を選んでいた。

 クローゼットから引っ張り出した服たちはどれも、普段着るものとは違いオシャレだ。

 それもそのはず。これらの服はすべて、お出かけ用のものなのだ。


 なんせ今日は、久々のデートなのだから。


 レイナードからそんな連絡をもらったとき、由羽はいつになくはしゃいだ。本当に久しぶりだったのだ。


 ベッドの上に広げた、三種類の組み合わせ。大雑把に言えば「可愛い」「綺麗」「かっこいい」系の組み合わせは、昨日から決めていたものだ。

 由羽は数分悩んだ結果、可愛い系の服を選んだ。


 真っ白い薄手のセーターに、レースがあしらわれたくるぶしほどまであるロングスカート。上下白という真っ白いコーディネートは、由羽が最も好む組む合わせである。ひだが多いスカートは少し動いただけでも揺れ、とても華やかに見えた。


 姿見で一度確認した由羽は、鏡に向かって一つ笑みを浮かべるとポシェットを持って階段を降りる。


「行ってきまーす!」


 誰も起きてはいないがなんとなく気分的にそう声を上げ、由羽は家を出た。


 レイナードは既に、由羽の家の前にいた。

 彼は薄く雲がかかった空をぼんやりと眺めている。ただその場に佇んでいるだけで、まるで絵画を眺めているような気分になった。物思いにふけっているのだろうか。どことなく哀愁を感じさせる横顔に、胸がきゅうと締め付けられる。


 しかし由羽が来たことを悟ると、彼は直様破顔した。


「おはよう、ユウ」

「……うん。おはよう、レイ」


 レイナードは由羽の服装をじっくり観察すると、とろけるような笑みを浮かべる。


「由羽は本当に、白い服が似合うね。今日の服、すごく可愛い」

「あ、ありがとう……」


 お世辞とかそういうのを抜きでこう言ってくるから、レイナードは厄介だ。由羽の頬に熱がこもる。

 ぱたぱたと片手で頬を煽りながら、由羽は照れた。そんな姿を、レイナードは意地の悪い笑顔で見つめる。


「かわいいなぁ、ユウは」

「〜〜〜〜っ!! もーからかわないで!」

「ん? 本心だよ?」

「わたし、レイのそういうところ、すっごく意地悪だと思う!!」


 照れる心を隠すように言い放つと、レイナードはくすくすと笑った。どうやら全く反省していないらしい。


(たくさんかわいいとか、好きって言ってくれるのはすっごく嬉しいんだけど、確信犯めいたところがあるからなーレイ……)


 そうは思っていても、好きという気持ちが消えないのだからたちが悪い。むしろもっと好きという気持ちが広がるのだ。レイナードの笑顔には、そんな効果があった。


(かなわないなぁ、レイには)


 そして結局、大抵のことなら許せてしまう。どんなに拗ねていても機嫌が良くなる。困ったなーと思いながらも笑ってしまうのだから、由羽も相当重症だ。


「さ、行こっか。ユウ」

「……うん。行こう」


 そんな言葉とともに、ふたりは手を繋いで歩き出した。

 空に雲がかかっているせいか、外は少し肌寒い。春の天気はかなり気まぐれで、寒かったり暑かったりするところが由羽は苦手だった。

 だからレイナードの手は、由羽の安堵を誘う。その上デートに行くのだから、機嫌が悪いわけがなかった。

 たたん、たたん、とリズムを刻みながら、由羽はハッと我に返り口を開く。


「そういえばレイ。今日はどこに行くの?

 行く場所決めてなかったけど……」

「内緒。着いてからのお楽しみってことでお願い」

「わー!

 分かった!楽しみにしてるね!」


 由羽は繋がった手をぶんぶん振りながら、瞳を輝かせた。


 レイナードは、サプライズが好きだ。どうやら由羽が驚く姿を見るのが好きなようで、ときどき予期せぬタイミングでサプライズを用意してくる。今回もそれと同じなようだ。


 そんなとき由羽は、不安がるのではなく楽しみにすることにしている。そのほうがずっと有意義だし、レイナードも喜ぶからだ。


(どこに行くんだろう)


 直球か、はたまた変化球か。レイナードの行動は予想ができない。

 これから行く場所を楽しみにしながら、由羽たちは駅までの道のりをゆっくりと進んだ。



 ***



「……ほわぁ……」


 ガラスケースの中に飾られたそれに見入り、由羽は声にならない声を上げた。その瞳はきらきらと輝き、細部までチェックしようと忙しなく揺れている。

 そんな姿を見て、レイナードは微笑んだ。


「気に入った?」

「……うん、すっごく楽しい」


 静かな声でそう告げる由羽の目は、真剣そのものだ。

 そんな様子をまぶしそうに見つめ、レイナードはほう、と息を吐いた。


 由羽が真剣な眼差しで見つめる先にあるのは――真っ白いドレス。


 花嫁が身にまとうような純白のドレスには様々な種類のレースがあしらわれ、布のほうには宝石とともに繊細な刺繍が施されている。これが昔の技術だというのだから、驚きだ。


 周りを見渡しても、ドレス、ドレス、ドレス。広い室内に並べられたドレスはどれもショーケースの向こう側に置かれ、その素晴らしい技術を誇示していた。


 ふたりがやってきたのは、美術館だった。

『中世ヨーロッパの女たち』というテーマをもとに開催されているその中には、ドレスが展示された空間があったのだ。


 由羽は手芸が大好きだ。ここまで凝ったドレスは作れないが、仮装の一環で使うようなドレスやメイド服などは作れる。それはもはや趣味の領域を超えており、文化祭のときは演劇部に頼まれて、衣装を作ることが多かった。


 つまり由羽は、根っからの創作好きなのである。


 それを知っていたレイナードはこうして、由羽を美術館に連れ出したというわけだ。サプライズは無事に成功したのである。


 貴婦人たちが身につけていたドレスや、平民たちが着ていたとされる民族衣装を、穴が空きそうなほどじぃ、と見つめる由羽。その真剣な眼差しに、レイナードは優しい眼差しを向けていた。


 しかしふと、その瞳に憂いが帯びる。が、それも一瞬で、ドレスに注目していた由羽は気づかなかった。


 民族衣装が展示された場所の滞在時間が異常に長かったものの、他もしっかり見て回り気づけば昼過ぎ。お腹も空いてきたことだし、とふたりは美術館近くにあったレストランで、遅めのランチをとることにした。


 店内には、落ち着いたオレンジ色のライトが降り注いでいた。木造の室内に、年輪が覗く木のテーブルが独特の柔らかい雰囲気を醸し出している。


 昼過ぎだからか、店内にいる人はぼちぼちといったところだ。並ぶことなく入れたふたりは、早速メニュー表を見た。

 そこで由羽はオムライスを、レイナードはハンバーグを頼む。


 店員が去って行ったのを確認し、由羽はようやく力を抜いた。


「ちょっと疲れた……」

「あれだけ真剣に見てたら、そりゃあ疲れるよ」

「だって、楽しかったんだもん……」

「そう。そんなふうに言ってくれて、嬉しい」


 向かい側に座るレイナードは、頬杖をつきながら目をか細めていた。口元は緩やかに弧を描いており、本当に嬉しそうだ。

 由羽は出された水に口を含みつつ、こくりと頷いた。


「すごく楽しかった。連れてきてくれてありがとね、レイ。今回演劇部に頼まれている衣装、あんな感じのやつだったから、すごく助かっちゃった」

「……あれを作るの?」

「んーあれよりももう少し簡易なやつかな?

 予算もそんなに出せないって言ってたし。なんかねーエリザベス一世をモデルにした劇をやるんだって。すごいよねぇ」


 由羽が今から文化祭用の作品を作っているのは、演劇部の衣装に集中したいという理由からだった。


「レイは何が面白かった?」

「そうだなぁ……ユウを見ているのが、面白かったかな」

「………………じょ、冗談……だよね?」


 数拍おいて、由羽は引きつった笑みを浮かべる。というより、見られていたという事実に顔が赤くなった。


 そんな由羽に、レイナードは首をかしげ。


「見てたのは事実だよ?」


 由羽は、勢い良く水をあおった。そして両手で顔をおおう。


(だから! なんで! そういうことをためらいなく言うの……!)


 恥ずかしくて仕方がない。というより、レイナードは一体なんのために美術館に入ったのだ。無駄な出費ではないか、とわけの分からない思考が、頭の中をぐるぐる巡る。

 そんな由羽に甘い視線を向けながら、レイナードは再度口を開いた。


「ユウのドレス姿、見たいなぁ」

「んなっ!」

「できることなら、ウェディングドレスがいいね?」

「飛躍しすぎじゃない!?」

「ユウ白い服似合うし、ウェディングドレスも絶対に似合うと思うんだけど」

「だから! まだ! 早いって!!」


 店内ということもあり極力声を抑えたが、レイナードは由羽の反応を見て満足そうに笑みを浮かべている。

 本当にたちが悪い。由羽が結婚のことを考えてくれていることに対して喜びを感じているのを知りながら、そんなことを言うのだ。


(すっごく嬉しいんだけど、なんか悔しい……!)


 それから程なくして運ばれてきたオムライスの味は、あまり感じられなかった。


 レストランを出ると、ふたりはふたつ隣の駅にあるショッピングモールで服を物色した。服は結局買わなかったが、お互いがお互いに似合いそうなものを見繕い試着する、というのは、存外楽しかった。


 電車に乗った頃にはすっかり日も暮れ、由羽がレイナードの肩に寄りかかり欠伸をする。始発駅であるためか、人はまばらだ。おかげで座れた。


「ふわぁ……ちょっと疲れちゃった。でも、すごく楽しかった。最近デートなんて行ってなかったから、ほんと……」

「……うん、ごめんね」

「……なんでレイが謝るの? わたしは別に、レイのお家でゆったりするのも好きだよ?」


 巷でいうところのお家デートが、最近のふたりのお馴染みとなっていた。レイナードの部屋にはたくさんの本があり、それを読みあさったり他愛もない話をしたり。それだけで十分、ユウは楽しかった。


 ゆえに、謝られる理由が分からない。


 押し寄せてくる睡魔に抗いながら、由羽は口を開く。


「わたしは、レイと一緒にいられるならなんでも楽しい、よ?」

「……うん。俺も」

「……レイ?」


 レイナードの様子が、おかしい。


 そのことに気づいた由羽が頭を持ち上げようとしたとき、レイナードの手が伸びた。

 彼が手を瞼に当てると、由羽の眠気が増長する。


「れ……い……」

「おやすみ、ユウ。……今はゆっくり、寝てて? これから起きることは、全部夢だから……だからユウは、気にしないでいいから、」


 どういう意味なのか。それを聞く前に、由羽の瞼は完全に落ちる。


 眠りに落ちる間際、涙に濡れた声が聞こえた気がした。



 ***



 目が覚めた。

 重たい瞼を開けば、目が痛くなるくらいの白が視界に映り込む。


「ふわぁ……よく、寝た」


 そこで由羽は、はたりと気づいた。


(あ、れ……ここ、どこだろう)


 少なくともここは、由羽の部屋ではなかった。

 一面真っ白い部屋に、ぽつねんとベッドがある。天蓋付きの、高価なベッドだ。由羽はそこで寝かされていた。

 未だに働かない頭で辺りを見回せば、色々とおかしいことに気づいた。


「あれ……この服、かわいい」


 由羽が着ていたのは、純白のドレスだった。種類で言ったら、アフタヌーンドレスと言われるものだろう。くるぶしまである丈に露出が少ないデザインは、アフタヌーンドレスの典型だ。生地に施された刺繍は銀の薔薇。このようなベッドの上で着ているのはもったいないほど、美しいデザインだった。


 由羽はなぜかそれが、ウェディングドレスに見える。


「花嫁の、衣装」


 そうつぶやくとふと、レイナードの顔が浮かんだ。


 光を集めたような金色の髪に、若葉のように青々とした翡翠の瞳。

 由羽の幼馴染で、彼氏で。そして、この世で最も美しく愛おしい、吸血鬼。


(レイに、会いたい)


 そう思ったときだった。由羽の首筋に手が触れた。


「ひゃっ!?」


 その冷たさと予想だにしない場所からの接触に、由羽が身を跳ね上げる。しかし振り返ろうとしても、できなかった。


(あ、れ……からだ、が、いうこと、きかな……)


 自分の体が他人のものになってしまったかのように、身動きが取れない。

 そんな由羽の心情などつゆ知らず。背後から忍び寄った影が彼女の首筋に顔をうずめた。


 その圧倒的な既視感に、由羽は身を震わせる。


(れ、い……?)




「ユウ……ごめんね」




 ぷつり。

 牙を立てる音が、嫌に響いて聞こえた。

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