3粒目:ふーん、女の子扱いしてくれるんだ
ツンデレさんの家は学校のすぐ近くらしい。
つかつかと歩いていくツンデレさんの後ろをてくてくとついていく。
無言のままで。
どうしてボクがツンデレさんの家に?
腕を鷲掴みにされ、断る間もなく連れ出されたからなんだけど。
手を放してもらえた後も、
「あの……」
「なに!」
こんな調子で、振り向いて睨んでくる。
かと言って、走って逃げ出すのもどうかと思うし。
仕方なく、ツンデレさんの後ろをついていってる次第。
ううん、仕方なくでもないかな。
ボク自身滅入ってしまってる。
独りより誰かといた方が気も紛れる。
そういうキモチがあるのは否定しない。
しかし目の前を歩くツンデレさん、背が高いなあ。
一七五センチ以上ありそう。
ボクが一五〇センチだから二〇センチ以上違う。
出るところは出てるけど、全体にはすらっと流線型。
頭も小さくて手足の伸びたモデル体型。
それゆえなおさら、のっぽさんに映る。
そして大人っぽくてお洒落だ。
ベージュのカットソーにオフホワイトのデニム。
うるさすぎないアクセサリのつけこなしも相まって、大人っぽく上品に見える。
シンプルながらも春らしく上品な着こなし。
この学校はお嬢様校として有名だけど、いかにもなイメージの女性だ。
のっぽなツンデレさんと小さなボク。
きっと傍から見ると、まるでお嬢様と従者。
むしろペットか。
もう自覚しちゃってるからいいけどさ。
それでもオトコとして望む立ち位置は騎士
こんな人の騎士はどんな男性だろう。
ふっと興味を湧かせる女性であるには違いない。
突飛な行動はともかくとしても。
──ツンデレさんが立ち止まる。
ボクが隣に追いついたところで話しかけてきた。
「あたしカコ。香りに子でカコ。あなたの名前は?」
何事かと思えば。
まあ、他に話題なんてあるわけもなし。
「カオル、薫陶の『くん』でカオル」
「何だかあたしと似た様な名前ね」
だから何?
再び沈黙が流れる。
カコさんの右手には、プチプチにくるまれた炊飯器の箱。
空いた左手の人差し指を、せわしなく回したり振ったりしている。
恐らく次の話題を探しているのだろう。
こんな滅入ってるのに他人の相手なんてしたくない。
「誰かといたい」ことと「誰かと話したい」ことは別。
頼むから放っておいてほしい。
──カコさんが再び話しかけてきた。
「何か話題振ってよ」
何を言い出すのさ!
この人はどれだけワガママなんだろう。
隆一がオレサマなら、カコさんはワタクシサマだ。
あ、でも切り出すにはちょうどいいかな。
「ボク、オトコなんだけど」
「だから?」
あっさり流されてしまった。
このワンピース姿で、ボクのこの顔。
どう考えても驚く場面だろうに。
「いえ……あの……オンナの子の独り暮らしの家にオトコが行くのはまずいんじゃないかなって」
「ふーん、女の子扱いしてくれるんだ」
わずかにカコさんの口調が浮かれた気がした。
かと思いきや、炊飯器の入った箱を差し出してきた。
「それならこれ、持ってくれるのがマナーというものじゃない?」
「なぜボクが!」
「男の子でしょ? 子じゃなくて『娘』って書いた方がよさそうだけど」
「大きなお世話です」
言いながらも箱をひったくる。
カコさんの言い分は正しいから。
それ以前に、どうしてボクがカコさんの家に行くのかという問題があるけどさ。
「心配しなくていいよ、とって食おうというわけじゃないから」
ボクのついた悪態を見て察したのだろう。
カコさんは一瞬だけニヤリとし、再び前を向く。
「ボクが心配してるのはカコさんの貞操の方なんですけど」
「四月に入って聞いた中では、二番目に笑えない冗談ね」
明らかにムスッとしたのが声のトーンからわかる。
つまり呼びつけているのはボクの性別なぞ関係ない話ということか。
さてさて何が待ち受けているのやら。




