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1粒目:薫、キモイよ

 満開となっている桜の花びらが宙に舞う。

 きょろきょろしながら歩く新入生とサークル勧誘の上級生。

 雑踏で賑わう、入学式から一週間が経過した春のキャンパス。


 目の前に立つ、冷たそうな三白眼のイケメンが静かに口を開いた。


「薫、キモイよ」


 それが一年ぶりに会えた隆一の第一声だった。


「ひどい……待っててくれるって言ったじゃないか」


「おいおい、そんなの社交辞令に決まってるだろ? それにまさか、薫がこの学校に合格するなんて思わなかったからさ」


 いま籍を置くK大の偏差値は六五。

 隆一の言う通り、高校時代の偏差値は四〇なかった。

 当然現役時代は全学部全滅したけど、不眠不休で浪人生活の苦行を耐えた。

 そしてようやく、同じキャンパスに立てたのに!


「『相方』って呼んでくれたじゃないか! ずっと隆一のことだけ考えて、隆一と一緒にキャンパスを歩く日を夢見て、ずっとずっと徹夜で頑張ってきたのに!」


「どこまでキモイんだよ。『相方』ってのは『友達』だろ? まるで『恋人』みたいな言い方しないでくれないか?」


「キモイって……今日だって隆一のために、こんなにおめかししてきたのに!」


 隆一がため息をついた。


「その前に自分の性別を考えろよ。薫はオトコじゃないか」


 そう、ボクは「オトコ」だ。

 だけど……。


「そのオトコを女装させて、街中連れまわしたのは隆一じゃないか!」


「そりゃ男子校だったし。薫って、見てくれは絶品のカワメンだし。だけど今や俺の周りは美少女でよりどりみどりで落とし放題だもの──」


 オレサマな隆一らしい台詞だ。

 一重で三白眼、すっきりとした輪郭。

 悪く言えば人情味がなくて冷たく見えるけど、良く言えば男らしくクール。

 外見的な欠点は身長が一七〇センチと、オトコとしては微妙に高くないくらい。

 それでも決して低くはない。

 女の子さえ周りにいればモテるのが当たり前だろうけど……。


 もう耳を塞ぎたい。

 しかし隆一は、認めたくなかった現実をつきつけてきた。


「──無理してオトコをアクセサリにする必要はないからな」


 目尻に熱いものを感じた。

 涙を堪えるため、拳をギュッと握り込む。


「そう。わかったよ」 


 もうこれ以上は何を言っても無駄だ。

 ボクだってオトコ、例え外見はオンナに見えようと。

 醜態は晒したくない。


 唇を固く結び、隆一に背を向ける。

 目を瞑り、軽く息を吸い込む。

 「これまでありがとう」、そう告げるため唇を緩めようとした矢先だった。


「これからは学内で会っても知らない顔してくれよな。恥ずかしいから」


 くっ!

 でも振り向いちゃダメだ。

 もう涙を流してもいい。

 だけど喚くわけにはいかない。

 叫び出したい衝動をつま先に込めて地面に叩きつける。  


 ──ゴミ箱が目に入った。


 左耳のピアスを外す。

 「俺達は二人で一人の証」と、隆一のくれたプレゼント。

 そういえば隆一の右耳にピアスはなかった。

 ボクはとっくに切られてたんだな……。


 隆一はボクにとって、唯一無二の友達だった。

 それは決して比喩ではない。

 文字通り他の友達がいなかった。


 決してイジメられていたわけじゃない。

 だけどボクには誰も近づかない事情があった。

 それはボクの実家は黒服の男達が常に出入りするような家だったこと。

 それをカサにきたことも、きようとしたことも、一度もない。

 どんな理由であれ、他人を傷つけるなんて嫌いだから。

 でも……周囲はそうみてくれなかった。

 加えて、オンナにしか見えない容姿。

 好奇の目でみられることも仕方なく、ボクはコンプレックスの塊だった。


 「周りなんて気にするなよ、遊びに行こうぜ」。

 教室の隅で一人たたずむボクに、声をかけてくれたのが隆一だった。

 話しかけられた瞬間、まるで光に包まれたようだった。

 しばらくして隆一は、ボクに女装を勧めてきた。

 ボクはオトコ、女装なんてイヤだったけど……。

 断れば隆一に捨てられる、そう思って言われるがままに従った。


 「かわいいじゃん。もっと薫の女装見たいな」。

 隆一は笑ってくれた。

 喜んでくれるならと、ボクは自ら進んで女装するようになった。

 そして二人、いつも一緒に連れだって歩くようになった。

 ボクを「相方」と呼んで。


 確かに隆一は恋人じゃない。

 だけど、もしかしたら似たような想いはあったかもしれない。

 「相方」という言葉に、そう思わされた。

 男同士だというのに……。


 ゴミ箱の上に手を伸ばす。

 摘まんでいた指を開く。

 かりそめの絆でしかなかったピアスがぽとりと落ち、ゴミの中に紛れていった。


 顔を上げると、歩いてくるクラスメイト達が目に入った。

 チラッと視線を寄こしてくる。

 しかし挨拶してくれることなく通り過ぎて行った。

 ボクは本当に一人だ。


以前にBL版を読まれた方へ

大筋は同じですが、一話目の通り、印象はかなり変わっていると思います

前回同様、30000字ほどで完結します

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