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闘技場にて

作者: 駒沢

遠くで鳴り響く歓声を聴きながら私はゆっくりと息を整えた。ここは闘技場の地下控室。そして私は剣闘士だ。まもなく命をかけた戦いが始まる。


今日の対戦相手については何も知らされていない。アリーナの扉が開いたときに初めて知ることになる。私と同じ人間かもしれないし、ライオンや虎かもしれない。相手を見極め、有効な武器を素早く拾うことができるかどうかが生死の分かれ目だ。

相手が人間なら使い慣れた剣が一番いい。ただし重装なら斧かハンマーだ。相手が獣だった場合は間合いが取れる槍にしよう。

まだ見ぬ対戦相手を想定し、私はイメージトレーニングを続ける。冷静な判断こそが生存へのカギなのだ。


ドォーンというドラムの音が鳴り、闘技場にひときわ大きな歓声が沸き上がる。私の名が呼ばれたようだ。薄暗い通路を通って私はアリーナの扉へと向かった。


巨大な闘技場にファンファーレが鳴り響き、ゆっくりと扉が開かれた。満員の観衆が放つ、絶叫にも似た歓声。天井から射し込む光が眩しい。

明るさに目が慣れた私は、アリーナ中央で待ち受ける相手の姿を確認して絶句した。それは人間でも獣でもなかった。銀色に光る人型ロボット。こいつは以前テレビで見たことがある。国防軍が開発中の対テロリスト用アンドロイド、AHT-01Aだ。


前世紀の半ば、人工知能とメカトロニクスの進歩はついに技術的特異点を超えた。両者を組み合わせた高性能の人型ロボットが誕生し、工場はもちろん建築現場や物流にも大きな変化が生じた。「1日に8時間しか働けないのは非効率」という理由で人間は次々と排除された。


より人間に近いロボットが登場すると、機械化は無理だと思われていた業種でもリプレイスが行われた。ショップの店員、カフェのウェイトレス。それどころか教師や保育士、医者や弁護士までもがロボットに置き換えられた。

人間以上に賢いAIと人間以上に強靭な躰、そして人間以上に美しい外見を手にしたロボットの登場は、「人間にしかできない仕事というのは、実はほとんどないのだ」という事実を明らかにした。


そして数十年が過ぎ、社会はロボットを所有する一部の富裕層と仕事が無い多数の貧民に別れた。結局「人間にしかできない仕事」として残ったのは性風俗と代理母、売血と臓器提供ぐらいなものだ。いまや、それすら人の手を離れようとしている。


幸い私は体格に恵まれ、また格闘センスが優れていたために剣闘士になることができた。古代ローマよろしく、都心に作られた巨大な闘技場で戦う日々を過ごしている。同じ剣闘士や猛獣と戦い、血や内臓をぶちまけることで富裕層を楽しませるエンターテイナー。ロボットにはできない人間らしい仕事に就くことができた。


戦いの開始を知らせるドラが鳴った。

キュインと音を立てて起動したAHT-01Aが両手の刃を振り回しながら接近してくる。その攻撃をかわしつつ私は武器を探した。こんな相手に剣や槍が通用するはずがない。だとすれば、何か使えるものが用意されているはずだ。私はそう推理し、周囲を注意深く観察する。


あった。高電圧のスタンガンだ。

私は素早くスタンガンを拾うと、スイッチを入れてスパークを確認した。いける。AHT-01Aの攻撃を間一髪でかわして背後からスタンガンを押し付けると、バチンと大きな音がしてAHT-01Aは動かなくなった。すかさず斧を拾ってAHT-01Aの頸部に叩き込む。ケーブルを切断して頭を引きちぎり、それを高く掲げると闘技場は大きな歓声に包まれた。

こうして私は、対テロリスト用アンドロイドとの戦いに勝つことができた。


しかし、本当にそうだろうか?

今日の戦闘結果は自動的に分析され、AIはさらに賢くなるだろう。次に戦うとき、今日と同じ戦術は通用しない。つまり私は、対テロリスト用アンドロイドの教師として戦い方を教えたことになる。そしてこの教育は生徒が教師に勝つまで何度も繰り返されるだろう。


いつか私がアリーナに血と内臓をぶちまけて倒れるときまで、ずっと。

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読んでいただいてありがとうございました。よろしければ、他の作品もどうぞ。
駒沢的怪異譚
― 新着の感想 ―
[気になる点] 戦闘シーンの描写はもう少し具体的でもいいと思います。 [一言] そのうちターミネーターみたいにロボットが人類を(能動的に)駆逐するんじゃないですか? 人間とロボットの闘いを娯楽にする…
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