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 ニューイを迎え入れてから4ヶ月が経ちました。

 当初は状況の変化に猫耳の毛を逆立たせ、尻尾をピン、と張り戸惑い、酷く怯えていましたが、なぜかリートにだけは最初から懐いていたのでなんとかなりました。彼に親やそれに類する存在はいないこともわかり、侵入ルートも詳しく聞きだして腐樹病の蔓延も未然に防ぐことが出来ました。主に聞き出したのはリートですが。


 2週間も経つとニューイもだんだんと周りに興味が出てきたようで少しずつ私にも慣れていってくれました。この頃から彼の『ノート』の『その他』には少しずつ『忠誠心』が書き加えられていきます。

 まだニューイは小さいので心も敏感でその分影響が強いため、慎重にやる必要があります。10歳以上の子供達ならばここまで慎重にしなくてもいいのですが、ニューイは評価4の特別な存在ですので特に慎重を期するつもりです。


 『白紙のノート(私のスキル)』の能力の1つがこの『その他』に対する『強制書き込み』です。しかしこの『強制書き込み』は扱いが非常に難しい力です。

 この力の実験にはたくさんの犠牲が出来ました。どの程度の書き込み量で精神が壊れるか。どの程度の期間を空けて書き込めば精神が壊れないのか。どの程度の書き込みまでが有効なのか。様々な実験を様々な人に行い、たくさんの廃人を製造しましたが能力の解明には非常に役に立ってくれました。

 彼らも私のために死ねたのですから本望でしょう。もちろん廃人のまま放っておくほど私も酷くないので精神が壊れた人は壊れた状態での書き込みや危険な書き込みの実験に使い、無駄が無いようにしました。


 当時はまだ『学校』も無く、『候補生』も居らず、炊き出しもしていなかった頃なので始めは周りの騎士を相手に。精神が壊れて廃人になることが判明してからは適当に屋敷の外に見える人を相手に実験していました。

 3桁に届くほどの廃人を生み出し、細かく能力を検証した結果、私は『忠誠心』を書き込む方法が1番お人形さんを作るのに適している事を突き止めました。自由意志の元に『忠誠心』を持つことが肉体及び精神の強化に多大な影響を与えるのです。

 意思も持たない人形とは出来ることが段違いです。高い『忠誠心』は狂信すらも上回るのですから。


 数々の実験を経て『忠誠心』を『強制書き込み』することがまず私のお人形さんを作る上での最初の儀式となりました。

 ニューイにも少しずつ書き込み、徐々に徐々に浸透させていきます。リートにも同じようにしていますが、やはり私の傍に居続ける彼は他の人よりもずっと『忠誠心』も高く、そして私への愛で溢れています。ニューイもきっとリート同様になるでしょう。リートに似ている顔立ちの彼が向けてくれる笑顔はとても心を満たしてくれるでしょう。


 2ヶ月も経つ頃にはニューイもすっかり私に対して心を開いてくれるようになりました。『忠誠心』の書き込みも順調です。ですがニューイはどうやらリートに依存しているように思えます。どこに行くにもリートと一緒です。それはつまり私とも一緒ということですが、さすがにトイレの中までは一緒というわけではないのです。ですが、リートとニューイはトイレも一緒です。

 リートもリートで弟が出来たように一生懸命お姉ちゃん……いえ、お兄ちゃんをしています。もちろんニューイにもリートとお揃いの服を着せているので見た目はどちらも女の子のように可愛いです。

 リートと似た顔立ちで尻尾と獣耳が違うだけのニューイは本当に姉妹のように感じます。ですが似たような顔立ちでもやっぱり別人ですので同じ服を着ても違いが出ます。特に狼耳と猫耳の違いは大きいです。着せ替えが楽しくてついつい彼らの服をたくさん作ってしまうほどです。でもあんまり着せ替えしすぎると2人とも疲れてしまうので我慢も大事です。


 3ヶ月が経つと『学校』にも興味が出てきたようです。『下位候補生』が1日中走りこみ、筋力トレーニングに明け暮れているのをリートと一緒に飽きもせず見ていることもありました。

 基本的に『下位候補生』は走る事が仕事です。徹底的に体力と肉体を強化することがメインなのです。もちろんその期間の間に『忠誠心』も書き込み続けますが。

 1年間走りこみ、トレーニングに明け暮れた彼らは立派な『忠誠心』と肉体を持つことになります。『下位候補生』から『中位候補生』に昇格するには『忠誠心』が一定以上あり、昇格試験として魔物を討伐して『Lv』を上げる事が必須です。

 もちろん何の訓練もなしに魔物を討伐させるわけではありません。1ヵ月から2ヶ月ほど武器防具の扱い方を勉強してからとなります。使うのは普通の鉄の武器と皮の防具ですが。

 ただ討伐する魔物もD-36近辺の大して強くない魔物です。それでも大怪我を負って戻ってくる人もいるのが現実です。尚、今のところ『中位候補生』が監督しているので死者だけは出ていません。1年間『忠誠心』を書き込み続けたのですからそんなに簡単に死んでもらっては困りますし。


 4ヶ月が経ち、ニューイもすっかり環境に慣れ今ではとても元気にリートと走り回ったり、お勉強したりしています。ですがニューイの『Lv』は実のところまだ1()です。

 リートは初めて出会った当時に2でしたが、『Lv』を2にするにも魔物を相当数倒さなければいけません。リートがあの年で『Lv2』であったことは明らかに異常なのです。『Lv』が上がらず生涯を終える人は一般人としては当たり前なのですから。

 そしていくら『才能値』が高くとも『スキルP』がなければ『スキル』は取得できません。ニューイの有用性を高めるためにも彼には『Lv』を上げてもらわねばなりません。ですが可愛い可愛いニューイに武器を持たせ、防具で身を包み恐ろしい魔物と対峙させるなんてことは私には耐えられません。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「リート、ニューイ。今日は遠足です」

「わぁーい! 遠足!」

「えんそく……?」

「えぇ、遠足です」

「ニューイ! 遠足はね、街の外にいけるんだよ!」

「! おそとこわい……」


 今日のスケジュールを伝えるとリートは以前にも行った事がある遠足に諸手を挙げて大喜びですが、ニューイは打って変わってとても不安そうです。外から命がけでスラム街までやってきたニューイにとって街の外は恐ろしい場所なのでしょう。それが普通の認識です。護衛もなしに街の外――フロア外に出る事は自殺と同義ですから。


「大丈夫ですよ。私とリートが守ってあげますから」

「ほんとう……?」

「うん、約束! ニューイはボクとお姉ちゃんが守るよ!」

「……うん」


 涙目で上目遣いに見上げるニューイを抱きしめてリートと一緒に説得します。リートの頼もしい言葉にまだ不安そうにしているニューイでしたが、一緒に行くことに同意してくれました。

 準備は動きやすい服装に着替える程度なのですが、その間中いつも以上にリートに張り付いているニューイ。大変微笑ましい光景です。でも本人にとってはとても不安で不安でたまらないのでしょう。しかし今行かなくても先延ばしにするだけで何れは行かなければいけません。ここは心を鬼にしてリートに張り付いてとても可愛らしい涙目のニューイを堪能しなければいけません。


 ……ちょっと趣旨が違っていますが、まぁ問題ありません。


「お着替えできました!」

「……ました」

「はい、よく出来ました。偉いね、2人とも」

「えへへ」

「……えへ」


 私の手伝いなしでちゃんと着替えられた事を褒めて2人の頭を撫で撫でしてあげればやっとニューイの笑顔が出てきました。やっぱり涙目なニューイよりも笑顔なニューイの方がいいですね。

 連れてきた当初は酷い毛並みだった猫耳も今ではリートに負けない艶やかな毛並みを誇っています。1日中撫でていても飽きない自信がありますが、もうスケジュールは押しているので出発です。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 D-36はD-35――私達の街から徒歩で1日もかかりません。馬車で移動している私達ならもうちょっと早くなります。ですが日帰りの予定ですのでそれほどのんびりもしていられません。今日はここでニューイの『Lv』を出来れば上げておきたいのです。


「お嬢様、偵察が2km先に魔物の群れを発見したとのことです」

「わかりました。ではここでやりましょう」

「はっ」


 馬車を降りて展開している騎士とチームブラボー(・・・・・・・)が安全を確保している場所でさっそく狩りの準備を始めます。魔物との距離はまだ2kmもあります。ですがその程度の距離はすでに私達にとっては射程範囲内(・・・・・)です。


 『スキル』を取得させることが出来た数少ない道具(・・)の1つ――『無限袋(アイテムボックス)』から分解された『アンチマテリアルライフル』を取り出します。バレットM82を原型にした大型狙撃銃はすでに外観からこのファンタジー溢れる世界をぶち壊しています。


 この迷宮世界で大型狙撃銃を作成するにはどうしても耐久性が問題となりました。12.7mm弾が発射された際の衝撃に銃自体が耐えられなかったのです。最初はニューナンブなどの構造が比較的簡単なリボルバーを作成して試射したのですが、1発目で暴発。実験のために離れて試射したのが功を奏したものです。その後この世界の鉄が脆すぎる事が判明して、様々な素材を試してみました。結局のところ対費用効果がまったく釣り合わず『探索迷宮』で使用する事は諦めることにしました。しかし銃製作実験自体は続け、最近チームアルファが持ち帰った特殊金属――黒霊鋼を使うことによって耐久性をカバーすることが出来ました。黒霊鋼は入手が困難で私が使う分を確保するのがやっとです。まだまだ銃が『探索迷宮』で使われることは無いでしょう。音や弾薬の問題もありますし。


「らいふる!」

「リーねぇ、らいふるってなに?」

「すっごい音がでるんだよ! ばがーんって!」

「ふぅん……?」


 組み立て終わった『アンチマテリアルライフル』を敷物が敷いてある地面に設置します。リートが目を輝かせながらニューイに銃の事を教えていますが、彼にとっては銃は音が大きな玩具程度にしか認識していません。これが数kmも先の魔物を即死させる事が出来る武器とは思ってもいないようです。

 リートは何度かこの『アンチマテリアルライフル』を撃ったことがあります。ですが魔物を殺しているとは教えていません。ただすごい音がしていたことしか知りません。

 『アンチマテリアルライフル』を撃った時の衝撃は全てリートの『スキル』で消すことが出来ます。そうでなければ5歳児のリートがこのような大型狙撃銃を撃つことは不可能でしょう。


「さぁじゃあまずはリートがお手本を見せてくれる?」

「はい、姉さま!」


 リートに触れて『魔法:元素/緑 Lv5.231』を選択し、『アンチマテリアルフィールド』と『ウィンドヒット』をリートとニューイと私に実行します。これで『アンチマテリアルライフル』が発生される衝撃で私とリートと彼に引っ付いて離れないニューイが傷つくことはありませんし、『アンチマテリアルライフル』の射程を大幅に広げ、命中精度を上げることができます。


 敷物に寝そべりながら『アンチマテリアルライフル』を構えるリートはなかなか堂に入っています。座っている私が見やすいように変形しているスコープを覗き、魔物の群れに適当に照準を合わせてあげてからリートにハンドサイン(・・・・・・)で指示を出します。

 引き金を絞る小さな手により、12.7mm弾が凄まじい音と衝撃を発生させて魔物の群れに向かっていきます。激しい衝撃は3人に張られた『アンチマテリアルフィールド』が吸収し、音だけが私達を襲いますが事前にイヤーマフをつけているので問題ありません。


 スコープをずっと覗いていた私には魔物が2,3匹まとめて消し飛んだのが見えていました。もちろんリートとニューイはそれを知ることはありません。


「ね、すごい音でしょ?」

「おみみ、いたい……」

「だいじょうぶ?」

「きーんてするの」


 イヤーマフをしていても初めて聞く凄まじい音にニューイは専用のイヤーマフのついた猫耳を小さな手で隠すようにして涙目です。そんなニューイも大変可愛らしいですが、そんなニューイを気遣い撫で撫でしてあげているリートも可愛らしいです。


「さぁ、ニューイ。次はあなたの番よ?」

「……ゃぁ……」

「ニューイ、だいじょうぶだよ! ボクがついてるもん!」

「うぅ……わかった」


 渋るニューイですが、リートの頼もしい言葉に頷いてくれます。見ていたとはいえ、初めてのニューイに手取り足取り教え、私の合図があるまで引き金には絶対に指をかけないことを教えます。勉強を教える時のようにまじめな私の言葉に素直に頷くニューイ。

 浮き足立っている魔物達にまた適当に照準を合わせてニューイに合図を送ると、彼は大きくて綺麗な目をきつく閉じて引き金を引きました。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 今回の遠足ではニューイの『Lv』は上がりませんでした。

 10発も撃てばニューイも慣れてきて大きな音がする玩具(・・・・・・・・・)に夢中になってくれました。さすがに10発も撃たれ、群れの仲間が吹き飛んで行けば魔物も散り散りに逃げ惑います。ですが展開している騎士とチームブラボーにより逃走ルートを限定され、狙撃場所に戻され、ニューイに吹き飛ばされます。

 こうしたサイクルで何度もニューイは魔物を知らないうちに屠っていきましたが『Lv2』まではまだまだかかるようです。リートの時は『Lv』がすでに2でしたのでもっとかかっています。私は銃を使わずに魔物を殺しているので計算が違い、予定通りとはいかなかったようです。ですが次の遠足ではきっと上がってくれるでしょう。ニューイに取得させる『スキル』も決まっていることですし、早めに遠足に来れるようにしなければいけません。



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