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 東スラム街からたくさんの歓声が響いてきます。

 ここ数年間拠点としている東スラム街にある私の屋敷に向かってゆっくりとその歓声は移動しているのがわかります。

 テラスから見える景色にもたくさんの人々に囲まれて馬車がゆっくりと移動しているのが見えます。

 馬車の荷台はとても大きく、馬車を牽いている馬も6頭もいます。もちろん荷台に載っている物も山積みされ、その重量で車輪が道に深い轍を残しているほどです。

 その山積みされた物は血の一滴から骨の一欠けらまであますところなく使い尽くせる『資源』――『探索迷宮』の魔物の死骸です。

 通常は布などをかけて埃やゴミがつかないようにするのですが今はその布も取り払われ、魔物達の異形と巨体がありありと見るものを威圧しています。

 しかしその魔物達を見るスラム街の人々は威圧されてもどこ吹く風と歓声と熱いまなざしを向けています。

 魔物は使えないところが無いほどに全てが有用ですが、特に肉は非常に美味で栄養価が高いのです。

 スラムの人々にとっては威容を誇る魔物達も美味しそうなご馳走にしか見えないのでしょう。


 馬車を囲むようにしている人々の中には一見してスラムの人とは違ったまともな服装をしている人も散見できます。彼らは中層に住む平民達でしょう。

 平民達も普段は寄り付きもしないスラム街にこの日ばかりはやってきます。

 それはもちろんチームアルファという英雄の帰還を歓迎するため。

 そして彼らが持ち帰るたくさんの『資源』を見物するためです。


 荷台の布が取り払われているのもこの見物人のためでもあり、一種のパフォーマンスでもあるのです。

 チームアルファの成果の一部を披露することにより、実際に彼らの力の一端を感じることができるのです。


 本来資源は解体されたあとに卸されるので魔物を丸々見れることは稀です。

 チームアルファが荷台にわざわざ(・・・・)乗せている魔物は見た目と希少度が考慮されたものだけです。

 大きな馬車とはいえ、たかだか1台の馬車に載せきれるほど彼らの成果は少なくありません。

 他の探索者ならいざ知らず、私のお人形さんの最精鋭である彼らにはありえないことなのです。


 凱旋パレードのように馬車の周りを人々で埋めながらゆっくりと近づいてくるチームアルファをリートとしばらくの間眺めていると、やっと屋敷の敷地に到着したようです。

 一定距離を置いて馬車の周りに集まっていた人々はそこで解散となります。

 いくらスラム街で様々な善意的活動を行っている私の屋敷といっても無断で侵入することは許されません。

 凱旋パレードの延長としての侵入も当然ながら許されません。


 堂々とした後姿を民衆に向けるチームアルファのメンバーが敷地内で待っていた『候補生』達と敬礼を交わし、彼らに荷馬車を預けて屋敷に入っていきます。


「リート、では行きましょう」

「はい!」


 チームアルファを出迎える為にリートと手を繋いでゆっくりと向かいます。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「チームアルファ、リーダーアガチ以下6名。無事帰還致しました」

「無事に戻ってこれたこと嬉しく思います。皆さん、本当にご苦労様でした。

 あなた達が得た『資源』や『探索迷宮』の情報はとても貴重です。この街に生きる全ての人々にとってあなた達チームアルファがいることは望外な幸運といえるでしょう」


 チームアルファのリーダーを務めるアガチが右手を左胸の前に置き、左手を腰の裏に当てる敬礼をして帰還報告を行い、それに私が応えます。

 定型ではありますが、これも大事な務めです。

 リートも可愛らしく敬礼をして輝く瞳をアガチに向けています。愛らしいその瞳に見つめられてしまってはアガチが緊張してしまうのも無理はないことでしょう。

 今日のリートは裾にたくさんの花の刺繍をあしらったサマードレス風のワンピースです。

 髪を少しアップにして大人っぽい雰囲気を出していますが、リートがやるととても可愛らしくて大変よく似合っています。

 今もアガチの額には少し汗がにじんでいます。アガチ以外のメンバーは彼同様に敬礼をしたままガチガチに固まっています。リートの可愛らしさも罪なものです。


「勿体無きお言葉、このアガチ、リラ様の命とあらばこの命すら差し出す所存です」

「ありがとう。でもあなた達は私の大切な存在です。命を差し出すよりもその命を守り、より多くの『成果』を齎してください。

 故に、どんなことがあっても死ぬことは私が許しません」

「御意」


 リラインストラ・フォーデルング・シュトライアンツ。

 それが私の名前です。

 とても長いので普段はリラ様とか聖女様とかお姉ちゃんとか姉さまと呼ばれます。

 名前が3つ以上連なっている者は基本的に貴族かそれに準ずる者です。平民は大体2つ。1つとなるとソレ以下ということになります。


 アガチやチームアルファのメンバーは全員名前は1つしかありません。すなわち平民未満。

 私のお人形さん達は全員スラム街でスカウトした人ですので当然です。


 帰還報告が終わればアガチ達チームアルファは貸与物品の返却と各それぞれの精密検査が待っています。

 私のお人形さん達には私の手製のアイテムが貸し出されていますので、拠点に戻ってきたならば返却しなければいけません。

 特に『探索迷宮』のような強力な魔物が蔓延っている場所では特別なアイテムを数多く持ち込んでいますので管理は徹底されています。

 帰還したばかりの彼らですが、やるべきことはまだまだあるのです。


 ちなみに屋敷に到着後、しっかりと洗浄され清潔な服装に着替えた上での報告ですので凱旋パレードをしていたときのような魔物の返り血などが染み付いた状態では決してありません。

 凱旋パレード中は返り血なども勲章のような効果がありますが、そんなもの帰還報告には当然必要ありませんので。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 貸与物品にはたくさんのアイテム、装備などがあります。

 『探索迷宮』には強力な魔物が蔓延っていますので、そんな中を手ぶらで歩くなど正気の沙汰ではありません。

 中層で販売されている鉄製の武具などでは浅い階層ならなんとか、といったところですが少し階層を深めるだけであっという間に屑鉄に成り下がります。

 『探索迷宮』の攻略が私のお人形さん達以外ではなかなか進まないのがこの点にあります。


 私の手製の装備達ならば深い階層の魔物達の攻撃も防げる強力な強さを持っているので問題ありません。しかし当然ながらそれだけでは消耗しすぎてしまうため装備者の技量も当然必要です。

 ですがやはり私の手製の装備は格が違うのです。

 素材はここ数年は魔物の素材をメインにしていますが、中層で販売されている鉄製の武具などと同じ素材で作っても違いがはっきりと出ます。


 ここにも私の『白紙のノート(ユニークスキル)』が活躍しています。

 『白紙のノート』の対象に出来るモノは人だけではないのです。武器防具、果ては道具や素材まで対象にすることが出来ます。

 しかし素材ではあまり多くのことは出来ませんので普段は使いません。主に使用するのは武器防具になります。

 武器防具にも人同様に『スキル』を取得させることが出来るのです。

 ただの鉄の剣が『スキル』を取得することにより、折れず曲がらない耐久力の異常な鉄の剣になったり、同じ鉄をも軽々と切り裂く鉄の剣になったり、羽根のように軽い鉄の剣になったりするのです。


 『スキル』を取得した武器防具は通常とはまったく異なる性能を持ち、取得させる『スキル』に応じて千差万別の遺物武具(アーティファクト)となるのです。


 『探索迷宮』では探索者の遺品以外にも極々稀にですが装備品が手に入ることがあります。

 この装備品の特徴は私のお手製の装備達と同じように『スキル』を持っている点。

 大昔の装備であることが多く、今は失われた技術により特殊な性能を得た強力な装備として有名です。

 それが遺物武具(アーティファクト)


 ですが私はその遺物武具(アーティファクト)を自在に作り出すことが可能です。もちろん白紙のノート(スキル)を使っている以上、その制限内(・・・)で自在に、ではありますが。


 武器防具にも人と同様に同じ手段で『スキル』を取得させている以上、『スキルP』と『属性』の制限を越えることは出来ません。

 武器防具は身につけている状態で魔物を殺せば経験値を得ることが出来、『Lv』が上がります。

 そうやって『スキルP』を貯めた装備に『スキル』を取得させるのです。

 ですので作ったばかりの装備には『スキル』は取得させることが出来ません。


 そして道具は身につけているだけでは経験値を取得してくれません。

 戦闘中にしっかりと意識して道具を使っているという感覚(・・)を持っていなければいけないのです。

 この感覚(・・)が非常に大事で、道具の経験値を増やせるメンバーは限られています。

 そのため『スキル』持ちの道具は、武器防具よりも管理が厳しくなっています。

 アーティファクトは遺物武具(・・)というだけあり、武器防具しか見つかっていません。

 アーティファクトを『白紙のノート』に似た『スキル』で作成していたのなら道具がまったく出てこないのも頷けます。

 私自身もまだ数点しか道具に『スキル』を取得させることが出来ていませんし。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 返却手続きは滞りなく済んだようです。

 チームアルファは今精密検査を受けている頃でしょう。

 その後はメンバーそれぞれに簡単な報告書を提出させ、休暇となります。

 『成果』の解体や整理はチームアルファの仕事ではありません。スラムに布告した雇用はここで使われます。

 『候補生』達ももちろん参加しますが、主な役割は監視と指示です。


 明日には屋敷の敷地内にある『学校』で『祭り』が行われるでしょう。

 リートも今から楽しみにしているようです。

 ふさふさの耳がせわしなく動いて、艶々の肌触りのとてもよい尻尾もぶんぶん振られてとても上機嫌です。


「明日が楽しみですね、リート」

「うん! はやくあしたにならないかなぁ?」

「ふふ……。すぐに明日になりますよ。でもその前にお勉強しましょうね」

「はい!」


 真剣な表情とは裏腹にやっぱりせわしなく動いている耳に頬を緩めます。明日が楽しみですね。




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