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 西スラム街は東スラム街と比べると住んでいる人の数が少なくなります。

 その分建物が多くなり、働く場所という印象が強いところになります。

 しかし住んでいる人はそれなりにいるのでこちらでも炊き出しは行われます。

 東スラム街の時と同じように広場に準備をしていつものように炊き出しは行われました。

 特に大きな問題もなく、少々のトラブルは住人達が率先して対処してくれるので声の大きい(・・・・・)威勢のいい元気な人は私が会いに行きます。

 今までの経験上そういった人達の方が評価(・・)が高くなる傾向にあります。ですが全てが全てそうというわけでは当然ありません。

 大抵は空振りに終わりますし、見つかってもせいぜいが評価2止まり。なかなか難しいのが現実です。


 ここ数年の炊き出しやその他様々な活動でスラム街に住む人達の大半は私のスキル(白紙のノート)で確認が済んでいます。

 それでも尚炊き出しなどが行われているのはスラム街に流入してくる人が日々絶えないからです。意外に掘り出し物がいたりするのですよ?


 ですが残念ながら今日()収穫なしのようです。

 評価2なら3人ほどいたのですが、他は評価1でした。残念です。

 最低でもスカウトを始めるのは評価3以上なので評価2以下ばかりでは収穫はなしなのです。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「お嬢様様。南スラム街の定期治療は10日後となっておりますので普段通り3日前から、神殿から人員を借りて予備治療を始めてもよろしいでしょうか?」

「えぇ、今回もよろしくお願いします。寄付はいつも通りの額でお願いしますね」

「畏まりました」


 跪いて確認を取った騎士が部屋を出て行きます。

 もう10日後には南スラム街の定期治療の時期です。早いものですね。

 1月に1回のペースで南、東、西の順に炊き出しに重ならないように定期治療を行っています。

 スラムには教会(・・)での治療を受けられない人がたくさんいます。

 そういった治療を受けられずに怪我や病を悪化させて亡くなってしまう人は非常に多いのです。


 教会では寄付と引き換えに怪我や病の治療を受けることができます。

 しかし寄付金にも最低限の金額というものがあるのが事実です。特に教会は神殿と違い、寄付の最低額が高く平民でも高水準の生活を送っている人や貴族を相手に治療を行うのが通常です。

 神殿は敷居が下がり、寄付金は少なくてもいいのですが教会よりも質が圧倒的に劣ります。

 効果の高い治療を行える『スキル』持ちは教会に引き抜かれていってしまうので神殿ではあまり効果が高くない『スキル』を必要としない薬などでの治療となります。

 教会がお金持ち向けとするなら神殿はそうでない人向け。しかし神殿でも最低限の寄付金は必要です。食べていくにはお金が必要なのですから当たり前です。善意だけでは生きてはいけないのです。


 そんな治療を受けられずに死んでいく人達にも稀にですが高評価を得ることができる人がいます。

 そんな人達を逃さないために定期治療を行っているのです。

 予備治療は継続して薬が必要な人などを対象とした、既に評価を受けた人(・・・・・・・・・)への薬の受け渡しなどをメインにしています。

 私自身が出向いて行う治療は未評価の人や重病重傷の人がメインとなります。

 神殿からもらえる薬はあまり効果がないので重病重傷の人は死亡率が高く、私が治療を行うことで死亡率はかなり下がっていますがそれでも多くの人が死んでいきます。

 評価1,2程度ならいくら死んでも構いませんが、評価3以上はもったいないのでそうはいきません。

 なので定期治療はとても大事な務めです。


「お姉ちゃん、てーきちりょーがんばろうね!」

「えぇ、リートを助けた時のように苦しんでいる人をいっぱい助けてあげましょうね」

「うん!」


 リートは3年前に腐樹病という病で死に掛けていました。

 ちょうど定期治療を始めようとしていたところで実験的に見てまわっていたところでした。今では年相応の健康体になっていますが、当時はそれはそれは凄惨な状態でした。

 腐樹病は四肢が樹のように堅くなり、徐々に腐っていく不治の病です。


 今にも倒壊しそうな家とも言えないような建物には腐臭が漂い、リートを発見したときにはすでに両親は腐り落ち死んでいました。

 腐樹病は接触感染で広がる病。

 リートを発見し、すぐに『白紙のノート』で確認した次の瞬間には騎士が制止するのも構わずに私はリートを抱き起こし、ノートを使って彼に『神聖魔法Lv5.000』を取得させて(・・・・・)実行しました。


 リートの幸運だって点は、『才能値(・・・)』が今までで最高(・・)の値を持っていたこと。

 『Lv(・・)』が2だったことにより、『スキルP(・・・・)』があったこと。

 そして何より『ユニークスキル(・・・・・・・)』をもっていたこと。


 私の『スキル』である『白紙のノート』は対象の情報を読み取ることができます。

 ゲームのように力や素早さなどのステータスが見えるというわけではなく、見えるのは『名前』、『Lv』、『才能値』、『スキルP』、『スキル』、『属性』、『その他』です。


 『名前』はその通りにその人の名前です。

 『Lv』はゲームなどに出てくるような存在の強さ……ではなく魔物(・・)を殺す事により得られる経験値のようなものをためることにより上昇する数値です。

 存在の強さではないのは『Lv』が上がっても身体能力などが向上するということはないからです。

 ですが『Lv』を上げると『才能値』分の『スキルP』が手に入ります。

 『スキルP』は『スキル』を手に入れるために必要ですが、普通の人は『スキル』を任意に取得することはできません。

 『Lv』が上がったときに低確率で『属性』に合わせた『スキル』を『スキルP』が自動で引かれて(・・・・・・・)取得するのが一般的な『スキル』取得方法です。

 ここで問題となるのが『スキル』を取得するのが『Lv』が上がったときであり、『属性』に合わせた『スキル』である点。

 取得できるのは『属性』が合い『スキルP』が足りる中からランダムとなるのです。

 一般人が任意に狙った『スキル』を手に入れるのは非常に難しいのです。何より『Lv』はなかなか上がりませんしね。


 しかし私はそんな法則を無視して『スキル』を任意に取得させることができます。

 これも『白紙のノート』の能力の1つです。

 ですが条件がいくつかあります。

 まず通常の方法同様に『スキルP』が足りなければ取得できませんし、『属性』も合っていなければ無理です。

 それでも『Lv』が上がったときと低確率という制限がない、非常に有用な能力です。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 リートを抱き起こした時に腐り落ちた右腕は嘘のように生え、あとは腐り落ちるだけだった残りの手足もすぐに綺麗な皮膚に戻っていきました。

 痩せ衰え、すでに骨と皮しか残っていなかった体にも若干ですが肉がつき、今すぐにどうこうなる状況ではなくなったようです。

 リートを蝕む腐樹病は目論見通り、完治させることができました。

 正確には『スキル』の中でも希少とされる『魔法(・・)』の中でも、さらに希少な『神聖魔法』を取得させ、実行したからです。

 一般的に『神聖魔法』を取得するには、その下位となる『元素魔法』を取得し、長い時間をかけて熟練し使いこなさなければいけません。

 ですが私の『白紙のノート』ではそれを無視して『スキルP』と『属性』の許す限り強力な『スキル』を取得することができます。


 不治の病とされている腐樹病ですが、実際のところ『神聖魔法』による治療で完治することができます。

 ですが必要とされる魔力は進行状況にもよりますが、莫大です。

 この莫大な魔力をリートは『ユニークスキル』でカバーできました。


 私の力だけではリートは救えなかったでしょう。

 ですがリートの持つ『ユニークスキル』――『特殊:魔力極大化/青 Lv10.000』と私の『白紙のノート』により彼は今も元気な顔を私に見せてくれます。

 接触感染する腐樹病ですので当然リートに触れた私も感染しましたが、『神聖魔法』であっという間に完治しました。病原菌が潜伏しているかもしれませんので周辺及びその地域の人々をまとめて『神聖魔法』で滅菌しておくのも忘れてはいません。

 それから天涯孤独となったリートは私と共にいます。

 彼の『ユニークスキル』と『評価5』の能力は非常に有用です。

 もちろん可愛い可愛い表情や仕草は見ていて飽きないくらいに素晴らしいです。


 リートのおかげで定期治療は非常にやりやすくなりました。

 『神聖魔法』はありとあらゆる病や怪我を治療できます。もちろん制限はありますが、即死じゃなければほとんど元に戻せるでしょう。

 そのためにスラム街だけではなく、平民や貴族にまで治療を頼まれることがあります。

 平民や貴族はお人形にするには持っているもの(・・・・・・・)が多すぎます。

 ですので彼らからは病状や怪我に見合った金額を徴収させてもらっています。

 教会からの横槍などもありますが、基本的に私には通じません。なぜなら神殿のトップは私のお爺様ですから。

 教会と神殿は仲があまりよくありませんが、その力関係は伯仲しています。

 神殿は教会の下位存在のように思われがちですが決してそのようなことはないのです。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 定期治療の前にはチームアルファの帰還があります。

 その後のスラム街での仕事に対する雇用の処理はもう終えていますので、あとは騎士に任せておけば問題ありません。

 布告後の処理ももう私が監督する必要はないほど手慣れています。ですがこういう手慣れた時こそ危ないのできちんと監督する予定です。

 何事も慣れた時が肝心です。


 リートのふわふわの耳と髪の毛をゆっくりと撫でながら再度報告書に目を通します。

 爽やかな風が吹き抜けていく中、ゆっくりとした午後は過ぎていくのでした。


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