第一章・本能寺の変-第四部:相対
やっと完成。
―前回までのあらすじ―
紅蓮に包まれた本能寺で急報を伝えし成利は信長公の返答に愕然とする。
されど、彼は納得しない。
股肱の臣であるからこその葛藤。
信長公の語ることは現状において正しく真実。
されど、この絶体絶命の状況であるからこそ、臣下としての忠義が試される時。
成利は口にする。
“某・森成利をはじめとした我等家臣一同の生命を以って信長様を生き永らえさせ、我等が生命を天下布武への礎と成しまする”
その恋慕にも似た厚き忠義の思いをその心に秘めて………………。
この恋慕に、忠義に、信長公は如何に答えるのだろうか………………。
―Side out―
“謀反の開幕”はなり謀反に関わる者達は“始動”した。
そして、彼らの思惑など関係無いかの様に運命は“流転”して行く。
謀反と言う舞台は最早止められない。
~舞台は“始動”してしまったのだから………………。
運命は変えられない。
~“流転”する運命の行く先を握る鍵が、
彼ら自身にあった事を彼らは理解し得ないのだから………………。
そして、彼らの見る未来は、思惑は、願いは、紅蓮に包まれた本能寺で“相対”する。
―Side 信長―
------喩え信長様の命に背いても、
織田弾正信長様に忠義を誓いし我ら織田家家臣団一同の命を以って
信長様をこの本能寺より脱出させ、
信長様の命を生き永らえさせ奉る。------
成利を初めとした家臣団の言の葉を聞き信長公は、内心で微笑んで思った。
---直ぐに己だけでも脱出すれば良いものを………
この状況下でも尚この信長に付き従う物好きの多い事よ。
信長公の考えている通り状況は絶望的なまでに追い詰められている。
既に明智軍は突入して来ており、当初総勢約百名ほどいた見方勢はある程度討たれて現状では約八十名も居れば良い方である。
兵士達も信長公を見捨てて逃げた方が楽だろうに……。
だと言うのに、この現状でも尚、未だに信長公に従うと言うのは、信長公の考えている通り物好きな人間か、単なる馬鹿か……。
しかしそのような行為が為せるのも、単に忠義の為せる業なのか……。
そして信長公は思っていた。
---面白い!
「この信長を生き永らえさすじゃと?
ふっ、言うようになったではないか、蘭!」
---これだから人生は面白い!
何の刺激もない人生など所詮死んだも同然じゃ!
---たまらない!
このゾクゾクする感じは、嘗ての桶狭間での今川軍との戦以来ぞ!
---生と死の狭間でこそ、人は己が“生”を実感できると言うもの。
---やはり、人の世は真たまらないものよ。
---そして、物好き共もこの状況下で、この信長最期の余興に付き合おうとしている。
---なら、今信長が為すべきは……、
「最期の最期にこの様な面白き事があるとは、天も粋な計らいをする。
誰ぞ、武器を持てぃ!」
「信長様、こちらに!」
「ふむ。
蘭!あれだけの大言を吐いたのじゃ!
自身の思うまま、願うままに動き、この信長を生き永らえさせて見せぃ!」
「はっ!
我が身命に賭しても!」
さて金柑よ、主はこの獄炎の中、どんな顔をして信長と対峙する?
フ…フフ…フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ………………。
―Side out―
―Side 光秀―
---ワァァァァァァァ………
----キンキンッキンッザシュッ………
--キンキンザシュッザシュッキンキンキンッググググッ………
---カンッザシュッキンキンッ………
----ダダダダダダ………
本能寺の境内では、突入した明智軍約六百と本能寺を守る成利率いる織田残存勢力の激しい剣戟が飛び交っていた。
そして光秀公も自ら刃を交えながら本能寺の中を駆け抜け、唯ひたすらに信長公の姿を探していた。
“此度の己が行為は、朝廷や日ノ本に住まう天下万民の安寧の切っ掛けとなる”
その思いを胸に抱きながら……。
そして、本堂のある程度手前の部屋に突入した時、目の前に一人の男を見つけた。
男の名は、森成利。
尾張織田家当主・織田弾正信長公の小姓であり、織田軍配下の武将・森可成の第三子にして、森長可の弟である男。
成利は光秀公を見ると、スゥーっと目を開き口を開いた。
「お待ちしておりました、光秀殿。」
「蘭丸殿……。」
「光秀殿、貴殿にどの様な思惑があろうと最早言葉は要りません。
“信長様に対して謀反を働いた”
この事実だけでも万死に値します。
喩えこの身が果てようと、貴殿には此処で死んで頂く。
その為ならば、今この瞬間より蘭は修羅となりましょう。」
---スゥー。
そう言うと、成利は持っている刀を正眼に構え、目を閉じた。
「森可成が第三子にして織田信長が小姓、森成利。」
---カッ!
そして、閉じていた目を開いてその視界に光秀公を入れ、言葉を続ける。
「修羅となって、いざ、参ります!」
---ダンッ!!!
成利は勢い良く踏み込み、その正眼の構えから一撃必殺の剣線を描く。
だが……、
---ガキンッ!!!ググググググ………。
一人の男が割り込んで来た。
そして、その男は成利と光秀公に向かって言う。
「光秀殿、蘭丸殿、お二方の戦いに割り込んだ事は申し訳ない。
されど蘭丸殿、貴殿の相手は某が務める。
さぁ光秀殿、行きなされ。」
「忝い。また後ほどお会いしましょう。」
---ダダダダダダダダ………………。
光秀公は、男に感謝するとそのまま本堂に向かって行った。
―Side out―
―Side 成利―
必殺の一撃を邪魔してきた男によって、光秀公の進行を許してしまった成利。
「くっ!?行かせませんぞ!光秀殿!!」
勿論、成利も追おうとするが……
---ガキンッ!!
殺気を感じて咄嗟に刀を構えると、先ほどの男の刀がぶつかった。
「貴殿の相手は某が務めると言った!」
---キンッキンッガキンッキンッググググ…カキンッキンッガキンッ………。
それから僅かに刃を交じわせたの後、二人は剣戟を止めて刀を納め、互いに距離を置いてそれぞれを視界に入れる。
「はぁっはぁっはぁっ……如何やら、貴殿を殺さないと光秀殿を殺す事も信長様の下に馳せ参じる事も叶わぬようですね。」
「はぁっはぁっはぁっ……先程から、そう言っているであろう。」
そう言われると成利は、一旦、光秀公を追う事を諦めて、目の前の男を殺す事に集中し始める。
しばらく二人は互いに瞑目した後、目を開き戦いを再開する。
一方は、己が主の戦いを邪魔されない為に……
一方は、早急に己が主君に徒成す者を追い、その者に鉄鎚を下す為に……
「織田家当主・織田弾正信長が小姓、森成利。」
「明智軍大将・明智十兵衛光秀が配下、安田国継。」
「「いざ、尋常に勝負!!!」」
主君を慕う二人の戦いが始まった………。
―Side out―
―Side 俯瞰風景―
国継に成利の相手を任せた光秀公は、紅蓮が放つ熱気に顔を顰めながらも、そのまま本堂に向かって本能寺の中を駆け抜けていた。
そして、本堂の手前の部屋が見えた時、そこから人の気配がした。
---バンッ!
光秀公は、その気配に気を配りながらも、その部屋に突入した。
部屋の中には気配通り一人の男が居た。
「信長様……。」
その男の名は、織田弾正信長。
そう、今将に、自分が徒成している張本人である。
信長公は瞑目している目を開くと、光秀公の顔を見て言った。
「何じゃ金柑。
此れだけの事を成してこの信長を殺そうとしている割には、随分と時化た面をしておるではないか。」
こうして、嘗ての主君と配下、信長公と光秀公は“相対”した。
―Side out―
続く
二次作品の設定集考えていたら、こっちを考える事が疎かになっていた。