第一章・本能寺の変-第三部:流転
今回の話は、読む人によってはBL臭を感じる方もいらっしゃるかも知れませんが、これも、同性愛に寛容だった時代を描いた結果なので、受け入れていただけたら幸いです。
どうしても苦手な方は飛ばして頂いて、次回投稿の第四部から読んでいただいても、大局的には問題ありませんのでご安心下さい。
―前回までのあらすじ―
本能寺は包囲された。
光秀公の軍の弓兵が火矢を放つ。
放たれし火矢は、その姿を紅蓮となし本能寺を包み込む。
光秀公は、兵六百を率い突入を開始した。
一方、状況把握をした成利は、非常事態を信長公に報告すると共に本能寺からの脱出を進言。
されど、成利の報告により誰よりも正確に状況を理解した信長公に焦りの様子は無く、泰然としていた。
故に、放たれし言の葉は至って簡潔。
“是非に及ばず”
唯、それだけである。
―Side out―
“謀反の開幕”はなり、人々の様々な思惑は“始動”し始めた。
動き出し流れる様に転がりだした時は止まらない。
この謀反の先にあるのは“希望”か、それとも何者かの掌の上で踊らされた末の“愚者の反乱”か。
さて、この謀反に関わりし者達の運命はどう“流転”して行くのやら。
―Side 三人称―
――――――明智十兵衛光秀謀反!――――――
成利にによるこの報告は、信長公、成利を除いた本能寺に宿泊する総勢約100名の兵士たちにも多大なる動揺を齎した。
これは、動揺と困惑の中で生き残るために、又、何としても信長公を命に代えても脱出させ彼を生き残らせようと言う忠義のために、紅蓮の本能寺で“流転”する運命に翻弄されながらも数多の兵士と共に足掻き続け、散っていった武将“森 成利”の記録の一幕。
―Side out―
―Side 成利(蘭丸)―
「是非に及ばず。」
成利は、この信長公の言葉を聞いて愕然とした。
―――是非に及ばず―――
即ち、“その必要はない”と言う事。
つまり信長公は、“既に本能寺を脱出する事は諦めた”と言っているも同然なのである。
それを裏付けるように、信長公は更に言葉を紡ぐ。
「金柑の才は信長より優れず信長に及ばぬ。
されど、信長には匹敵する。
その金柑がこの本能寺を囲む陣を組んだと言うなら、脱出は最早望めぬ。
唯一の可能性である金柑の軍からの裏切り者の出現も見られぬ以上、そこに希望を見出す事もまた適わぬ。
これ即ち、この信長の天命は、この本能寺にて果てるが運命と言う事、ぞ。」
「~~~~~っ。」
成利は、あまりの悔しさに唇をかみ締めた。
成利は聞きたくなかった。
~信長公のこの様な言葉を・・・。
成利は見たくなかった。
~信長公のこの様な顔を・・・。
成利は認めたくなかった。
~信長公の天下布武がこの様な形で頓挫してしまう事を・・・。
成利は許せなかった。
~信長公の天下布武を謀反と言う形で頓挫させた張本人である光秀公を・・・。
信長公が率いるどの武将よりも、日ノ本に生きる総ての人間の誰よりも、まるで恋慕の想いを抱き続ける女性の様に一途に、信長公による天下統一を天下布武を信長公と共に歩む事を一途に夢見ていた武将“小姓・森 成利”であるが故に・・・。
成利はここで再び頭を垂れ、今度は信長公の考えに異を唱える。
「信長様、いくらこの蘭が信長様の小姓であり貴方様の命に背く事罷り成らぬ身なれど、此度ばかりは命に従う事適いませぬ。
信長様が如何な事言おうとも、某、森可成が三子・森成利を始めとする信長様に忠義を誓う我等家臣団一同の命を賭して貴方様を御守りし、無事この本能寺より脱出させる所存。
此度の命に背いた罰は、脱出を終えた後如何様にも下知なさいませ。
如何様な罰も甘んじて受ける所存でございまする。」
―――そう、喩え今日を以って貴方様と共に天下布武の道を歩めなくなったとしても・・・―――
そう続く言葉を表に出さず、
―――唯、貴方様に生き続けて欲しい―――
まるで恋慕の様な忠義の思いを、その心に秘めて・・・。
―Side out―
こうして、成利の運命は動き出した。
まるで坂道を転がり落ちる玉の様に、止まる術を失ったかの様にだんだんと動きを早めて、彼を始めとする兵士達の運命は“流転”して行く。
続く
前書きでも云いました通り、今回は若干のBL臭が漂っています。
この様な描写になった理由としては、信長に男色の気があったという史実と、その相手が成利だったらしいと言う噂を基にしたからです。
当初は第三部も信長・光秀にスポットを当てて話を展開する予定でしたが、信長と光秀を鉢合わせない方針にした結果、この二人の視点で描くと物語にズレが生じる恐れがありました。
そうなると「じゃあ、誰の視点で描けば良いか」という事になり、一回は「一般兵視点」で行こうかとも思いましたが、信長方の代表として成利にスポットを当てる事になりました。