2.少女、宣言す。
現在、僕の部屋には見知らぬ少女が一人。
追い出すか、警察に突き出すかすればいいんだろうけど、そんなに悪い子には見えないし……それに窓から落ちてくるなんてよっぽどだし、ちょっと心配だし気になるし、事情ぐらい聞いてあげてもいいんじゃないかと思いはじめている僕。
同時に、凶悪犯とかだったらどうしよう、とかすごく不安になっている僕。
それ故に何も言いだせない憶病な僕。
どうやら、相手もこっちの出方をうかがっている様子。
さて、どうしたものかと、先手を打とうと模索していると……
「ただいまー」
姉の声だ。
高校生活1年目の姉は、帰宅部のためいつもこの時間帯に帰ってくる。自転車でわずか10分という距離にある地元の高校は、名門校としてなかなか知名度が高い。そんな高校になぜ姉が通えているのか、理解不能な話だが。
――――姉貴は、僕の中で史上最強で最低だ。
まぁつまり、『逆らえない相手』。
エピソード(?)は色々あるが……皆にもいるだろう、頭が上がらない、すなわち自分の日常を脅かすような存在が。
たとえるなら、女房に尻引かれている夫。
そんな姉が、帰ってくるなり『ただいま』と言っている。いつもなら、無言で階段を駆け上がり、自室のドアを勢いよく閉めて静かになるはずだ。
これは、なんらかのリアクションを取れというメッセージか。
あるいは一種の脅し文句か……
ここ数年、目に見える被害は被っていないが、姉のまとう空気が目に見えて変わったのは事実だ。
「お、お帰り~……」
「……割れる音、聞こえたんだけど」
「…………」
――――それか……!!
脅しじゃなくて良かったと本気で安堵すると、割れた窓ガラスと――少女を見やる。少女は空気を読んでいるのかいないのか、沈黙したままだった。となると、僕の取るべき行動はたった1つ――
「さぁ……? 僕のトコは大丈夫だけど」
姉がふぅんとうなずいて、ばたん!とドアを閉める音がして、そして嵐は去った。
何が『大丈夫』なんだか。窓が原型を留めていないというのに。
「……いいんですか?」
――――自分のことを言わなくて。そう言いたげな少女の真っ黒な瞳。
この少女がガラスを突き破ってきたとき、本当は警察に通報しようかと考えていた。どういう事情があるにせよ、ぼくにはどうしようもないのだから……。だけど――姉が帰ってきたことで、僕は現実と言うやつを思い出したのだ。
僕は、大人しい性格だ。
その原因には、少なからず姉が関わっていると思う。
幼い頃から、大きな問題を起こしたことはない。
典型的な『良い子』だったと自負している。なぜならば、そうした方が自分にとって都合が良く、最も平和に安全に生きることができると、小さいながらにも理解していたから。つまりだ、
問題を起こす = 姉に迷惑がかかる = 自分にメリットなし
結論を言おう、警察沙汰になれば困るのは僕の方だ。
ともかく、この少女には、姉に気づかれないようにこの家から早々に立ち去ってもらわねば……などと考えていると、それまでずっと座りこんでいた少女が立ち上がり、何かを決意したような目で僕を見る。
――――イヤな予感がした。
「――――――決めました。私、ここに住みます!」
一点の曇りも迷いもなく、その少女は堂々と宣言した。初対面のはずの、この僕に対して……




