最終章(中編) 本当の慎太郎
『慎太郎……』
と彩那が呟く。
なんで?
死んだはずでは?
『久し振りだな、彩那……』
『なんで……生きてるの……』
彩那が掠れた声で聞く。慎太郎の目にあの頃の温かさは無かった。
『死んだ振りをして裏から動かしていたのはオレだ。オレはいじめのない世界なんて作ろうとは思っていない』
Bと彩那は驚いた。
『まずはみんなに苦しんでもらう。オレが苦しめられた分だけなぁ』
慎太郎は銃を取りながら言った。そして、それを彩那に向ける。
『まずはお前だ、彩那。全てはお前から始まったのだ』
彩那は思わず一歩引いた。
『しかし、お前もいじめられていたからなぁ、なるだけ楽に死なせてやるよ』
バンと銃声が轟いた。しかし、彩那には当たっていない。それはWだった。Wが彩那を倒してかわしたのだ。
『W、なぜここにいる』
慎太郎の声はあまりにも冷たい。
『学校から尾行していた。警察は全員殺してきたぜ』
とW。慎太郎はまだ笑っている。
『来なければ死ぬことも無かったのになぁ』
『彩那は死なせない。命に変えてまでもな』
『フハハハハ。何を言い出すかと思ってみれば、そんな下らないことかよ。じゃ、命に変えて守ってみろよ』
再び銃が黒く光る。Wも慎太郎に銃を向ける。
『彩那を撃ったらオレがお前を撃つ。お前に死ぬ勇気はない』
『なるほどなぁ。オレはこんなところで死にたくはないな。だが、』
とそこで慎太郎は一旦言葉を切り、
『お前たちの下は一枚のガラスだ。撃てば一度に二人が落ちるぜ』
と繋げた。Wに焦りが見える。腰からナイフを取り出した。
Wと慎太郎の距離は約十メートル。勝算は30パーセント。だが、やるしかない。
足に力を入れる。一気に力を爆発させる。
『くっ』
慎太郎は焦る。その焦りが失敗を引き起こす。
近い……
近い……
早くしようとすればするほどうまくいかない。
銃が火を吹いた。しかし、銃弾は右上にあがり周りのガラスが割れる。
『くそっ!』
Wが慎太郎の腕を押さえたのだ。その時にナイフが右腕に当たり、血が垂れる。
『離せよ!!』
と慎太郎は手を振り払った。その時に引き金を引いてしまった。
銃声と共にWが倒れた。頭を撃ち抜かれて即死である。
『なっ。違う、違うんだ。殺す気なんてなかったんだ』
この時、彩那は今までの慎太郎を見た。
あの優しかった慎太郎。本当の慎太郎だ。弱いものを守り、涙を流す、あの彩那を守っていた慎太郎だった。
その慎太郎を変えたのは間違いなく
『稲垣、あなたよ』