第四十五話 ミス橘
転校生と言うのは孤立しやすい。なぜならクラスに馴染めないからである。新しいクラスになった時はまだクラスの雰囲気が出来る前なので馴染める。しかし、転校生の場合はそうはいかない。クラスでも大体一緒に行動するトモダチが決まり、仕事分担も決まっている。そこに入ろうとする者はクラスにとって邪魔者以外の何者でも無いのである。
しかし、彩那の回りから人が消えることはなかった。ずっと前からここにいたかの様に完璧に馴染めていた。今は昼休みである。女子数名が彩那に学校案内すると言ったため廊下に出た。その時であった。
『おい、ミス橘のお出ましだぜ。』
と男子が騒ぎ立てた。少し先輩が見えたかと思うと瞬く間に人混みになる。これが不思議だった彩那はトモダチに聞いた。
『ねぇ、ミス橘って?』
彩那が聞いたのは相崎怜奈だ。結構モテるらしいが彩那に一瞬で撃沈された。と本人が弁当を食べる時言っていた。
髪は茶髪で耳にはイヤリングを着けていた。肌は白く顔立ちも綺麗である。彩那はかわいいと思ったのだが、さっきそのことを言ったら『鏡みたことある?』と言われた。つまり、自分の顔を見たことがあるか、見たらそんなこと言えないだろう、と言うことである。
『ミス橘って言うのは橘高校で一番の女子を決めるの。三年E組の白川由梨先輩が今のミス橘』
彩那はふーんと頷き、近寄って行った。先輩の人気は凄かった。写メの連発である。それも男子だけかと思ったのだが女子も多い。とにかく顔だけではなく全てが愛されていた。
由梨は見かけない顔の彩那を見つけた途端に周りの男子に聞いた。
『あれは誰?』
『「超噂の転校生」、川島彩那です』
それを聞いた由梨は人混みを抜け出して来た。集団ごと動くがそれを由梨が止める。こうして、彩那に続く道が出来た。怜奈たちも彩那から離れた。こうして、集団の真ん中にポッカリと穴が開き由梨と彩那が見つめ合う。
由梨は鳥肌をたてていた。初めて出会った自分よりも上の人。美女高校と言われる橘高校はレベルが高い。とは言っても大阪第一とは比べ物にならないのだが、東京都有数のレベルの高い高校であった。そして、その頂点に登りつめたのにそれ以上の相手が来てしまった。
自分は無力な存在だと思った。自惚れていた。
問い
容姿がダメなら勉強ではどうか?
彩那が日本トップクラスの偏差値を誇る大阪第一高校から転校してきたのは知っている。
答え
負け。
問い
性格ならどうか?
噂では性格も明るく社交的で良い。と聞いている。
答え
引き分け
問い
運動神経ではどうか?
答え
分からない。
とにかく容姿が自分よりも遥かに上だと言うこと、学力にいたっては雲の上の存在だ。完璧にミス橘の座は奪われたのである。
くそっ……
嫌だ……
せっかくここまで来たのに……
静止する二人を見て周りは、
『どうかしたのか?』
とみな、疑問に思っていた。そして、決着の時
由梨がガクリと膝を曲げた。そのまま止まる。すなわち由梨の敗北。強いていうならミス橘の政権交代。
歓喜の声が上がった。彩那は全く意味が分からないまま立っているが周りは全てを理解したのだ。
言うな……
言っちゃ駄目だ……
全てが無くなる……
『三年E組、白川由梨はミス橘の座を1年D組、川島彩那に引き継ぎます。』
と一気に言った。由梨の目から涙が溢れでた。全く勝てる要素がない。自分の運動神経は普通だから多分負けているだろう。
勝てなかった……
歓声が上がる。怜奈達が寄ってきた。
『凄いよ、彩那』
『本当に倒しちゃったの?』
とうるさい程に言われた。当の本人は全く理解していないのだが。
『ちょ、そこ開けてくれるかな?』
そういって入ってきたのはあの男だった。