第三十三話 囚人狩り
11月1日水曜日
冷たい床に温かい血が流れている。荒い囚人達の息遣い。そして、ニヤリと笑みを浮かべる警備員達。囚人達が次々に殺され、「囚人狩り」と呼ばれていた。
『全てはB様のために……』
口癖の様にそう呟く。囚人達は震え上がった。勇敢な男が
『おい、Bって誰だよ!』
と、叫ぶと警備員は銃を向ける。
『おい、囚人の分際でB様に呼び捨てだと?』
なっ!
男はすぐに手錠で繋がれた手を上に上げた。しかし、警備員は無情だった。
『死で償え!』
拳銃が火を吹いた。同時に男は血と共に吹き飛んで動かなくなった。ひいっと他の囚人が小さな悲鳴を上げた。
『なんてやつ……。』
どこからかそんな声が聞こえる。警備員は鋭く反応した。
『あん?何だよ。オレに文句あるのか?』
『あぁ、大有りだ!』
と、言ったのは男性。かなりの身体能力を持つ男性だった。銃がその男に向けられる。
『なぁ、今からゲームをしよう。オレは今からここを出る。B様の命令でなぁ……。』
『あん?お前がB様の手下だと?』
『あぁ、それもかなり有能な、なぁ……』
『で、ここから逃げるだと?』
『あぁ、そうだ。で、お前はこの手錠を外すことになる』
と、有り得ないことをポンポンと話す男に対し、囚人達は手でひたすら何かを祈った。
『ふざけるんじゃねぇ!』
再び拳銃が火を吹いた。男は手錠を前に出し、体を左にスライドさせる。見事に弾は手錠の繋ぎを切り裂いた。両手が自由になる。
『なっ!』
警備員に初めて焦りの表情が見えた。
『ほぅら、外すことになるって言ったろ?』
今度は逆に男が笑みを浮かべる番だった。
『く、くそっ!』
警備員は更に2発発砲した。しかし、男は華麗な身のこなしでそれをかわす。そして、警備員に一気に距離を詰めた。もちろん、警備員と男の間には檻がある。しかし、その檻には普通に想像出来るように隙間があり、男はそこに足を通した。下から銃が思いっきり蹴り上げられる。銃が空を舞った。その瞬間に既に男はジャンプして銃を掴んだ。その勢いで檻に付いている鍵をぶっ飛ばした。地面に着地したと同時に扉を蹴り開ける。鍵のない扉は普通の扉のようにばこんと開いた。その場にいた全員がポカンとなる。なぜなら男が手錠を壊したあとに動き出してからまだ2秒しか立っていないのだから。
まさしく戦闘のプロであった。
『まぁ、こんなもんか。』
男はこう言って出口へと歩き出す。警備員は額に汗をかいてこう尋ねた。
『あんた、名前は?』
『オレは、O1985PQだ。』
こいつは本物のBの手下であった。なぜならアルファベットと数字を組み合わせたコードネームを持っているのだから。
『こちら、洞口。洞口から全員へ。男が1人出ていくがそいつには手を出すな。これは命令だ。』
無線を取り出して洞口と名乗る警備員はそう言ったのだった。