第三十一話 悪魔の産声2
彩那は怒りとも悲しみとも分からないような気持ちにドプリと沈んでいた。こいつが、こいつが慎太郎を殺したんだ。きっと適当な理由を付けて慎太郎を騙して犯罪に走らせ、そして殺害した。こいつは人殺しだ。信じたらまた間違いなく慎太郎と同じ運命を辿る。
『じゃ、慎太郎はあなたに殺されたって言うのね?』
『いや、そうは言ってないだろ?』
と、そこは反対した。
『何がどう違うのよ。ふざけないで!』
彩那は立ち上がった。その衝撃でイスがガタリと綺麗なフローリングに倒れた。
『落ち着け、川島彩那……。』
Bはあくまでも冷静だった。彩那の激しい怒りにも全く動じない。
『いつか話す。時が来たらな。慎太郎のことについては。それより今は別の話だ。座れ。』
彩那は少し冷静になってイスを起こした。
『で、話って何?』
Bは少しフッと笑った。そして、タバコを取り出す。
『まずは、自己紹介から始めようか。まだオレのこと信じられないだろ?』
彩那はコクりと頷いた。するとBはまた少し笑う。さっきから表情は冷酷な顔か、フッと笑うような顔しか見れず表情から気持ちを読み取るのは専門家でも無理だろう。
『オレの名前はBだ。Bと呼べばいい。年齢と性別は見りゃ分かるっしょ。それ以外に教えることはないな。』
……。
彩那は黙ってしまった。なぜなら教えてもらえたのは結局何もなかったのだから。
『で、私も自己紹介した方がいいの?』
『いや、別にいい。お前のことは全部分かってるからな。』
なんで?
初めて会った人に全てを見透かされた時の気味の悪さは計り知れない。
『嘘つかないでよっ!』
という反応になってしまうのも仕方がなかったのである。
『名前、川島彩那。大阪府大阪市の都内病院で1994年5月28日生まれの17歳。大阪市暁小学校を卒業。その後、大阪市立中学校を卒業。中学校をトップの成績で卒業。クラスは3年C組の出席番号は26番。』
と、個人情報をケロリといってみせた。彩那は黙る。
『クレジット番号とか携帯の電話番号、メールアドレスなんかも全部分かるぜ。もちろん、元彼の名前とかも全部分かるぜ。』
Bは彩那の全てを知る者だったのだ。