第三十話 悪魔の産声
復讐が全国各地で始まってから24時間が過ぎた頃であった。ニュースでは内閣の退陣について報道している。かなり良い内閣総理大臣だったらしいが彩那には興味がなかった。キッチンに漏れてくるテレビの音が彩那をイライラさせる。なぜならば、この男はコーヒーだけ要求して自分に作らせているあげく、自分は呑気にテレビを見ているのだから。図々しいにも程があるのではないか?と、彩那は込み上げてくる怒りを無理矢理ねじ込み抑えてコーヒーをカップに移した。白い蒸気がコーヒーを一層引き立てる。そして、それをそのままテーブルへと運んだ。
『おおう、サンキュー』
これがコーヒーを見た男の第一声。本当に軽すぎる。眠たいなかで頑張ったのにサンキューですまされた。本来は『美味しそうなコーヒーをありがとうございます』が常識ではないだろうか。しかし、この男は常識とか何も無さそうな、いかにも馬鹿オーラ丸出しであるのでまぁ、いいかと彩那の頭の中で処理された。彩那は男の前に座る。
『で、一体どうやって入ってきたの?』
彩那はまずそこから聞いた。しかし、自分が悪いことには気付いていなかった。
『いや、普通に玄関から入ってきたけど?』
と、男はコーヒーを口に含みながら答える。
『だから、どうやって鍵開けたの?それとも壊した?』
『いや、だから普通に開けて入ってきたって』
これに、彩那はポカンとしてしまった。記憶の糸をたどる。昨日は確か、昼に帰ってきて……で、寝て……。あれ?そこから記憶がない。つまり、3時くらいからずっと寝ていたのである。それに、昼に帰ってきたため鍵も開けっ放しである。毎日、夜に鍵を閉めていたからである。
『お前なぁ、犯罪都市の大阪で鍵開けっ放しで寝るって無用心すぎる。つか、この家広いなぁ。1人にしては。オレも住もっかな。』
とか、冗談を抜かした男は後悔した。なぜならこの手のタイプの冗談は女子高生には通じないからである。案の定『絶対やだ!!』と叫ばれた。
『うるせぇよ!!冗談だっつうの。つか、オレが誰か分かるのか?』
『はぁ?分かるわけないじゃない。』
すると、男の目がいきなり鋭くなった。まるで視線の槍である。刺された気分だ。
『オレはBと言うものだ。慎太郎にハイジャックをさせたのも復讐の連鎖を起こしたのもオレだ。』
男の声は氷のように冷たかった。