第二十八話 悔しい
夏希は泣いていた。パトカーの中で。1度、友達を見捨ててしまった。やはり、奈実を置いて逃げるべきではなかったのだ。そして、自分も捕まった。奈実との約束が果たせなかったのだ。残ったのは後悔だけだった。
自分はなんてクズなんだ!
なんで、友達を見捨てたんだ!
奈実もまた私と友達になってくれたのに!
なんで!
なんで!
なんで!
夏希は叫んだ。狭いパトカーから音が漏れる。それは雨に溶けてどこかへと消えた。気付けば警察も驚いてこちらを見ている。急に麻薬がほしくなった。悔しさや悲しみ、色んな物が混ざって夏希の心を傷付けている。その痛みを和らげるための防衛本能だった。
忘れたい!
逃げたい!
吸いたい!
夏希の麻薬への欲しさは螺旋階段ではなくエレベーターのように一気に爆発した。
『シンナー……ちょうだい…』
運転席にいた高橋弘樹は横の長池麻央に目で合図した。麻央は心理学のエキスパートだ。主に麻薬をしてしまったものの心を整理するなどの仕事に当たっている。夏希が捕まったのは奈実のわずか5分後のことだった。あの時はパトカーが2台来た。一般人からの通報だった。なぜ、その者がこの集団のことを知っていたのかは分からない。そして、その情報が具体的で合理的、かつ、その人物が集団の人物の名前や人数を読み上げたなどのことで警察が今回の確保を行ったのだ。しかし、謎が多すぎて警察は困惑していた。
なぜ、その人物は集団の場所を知っているのか
なぜ、集団の人物の名前を知っているのか
なぜ、今、大阪倉庫いることが分かっていたのか
警察はその電話は集団の誰かかとも考えた。しかし、それでは電話の主も捕まることになる。だからその可能性はない。
謎は深まるばかりであった。
『落ち着いて。加々井夏希ちゃん。』
そう麻央が声をかける。夏希は荒い息を繰り返した。麻央は危険だと判断し、高橋にパトカーを道の端に止めるように指示した。パトカーを止めると麻央はすぐに後ろの席に座り夏希の背中を擦った。夏希が少し落ち着いたその時、高橋の携帯がなった。高橋が出る。
(高橋さん、あとの3人全員確保しました。)
『あぁ、そうか。一応、警察署に寄ってくれ。では、切るぞ。』
(はい……)
高橋は携帯を閉じた。すると間を置かずに携帯がなった。今回は非通知だ。
『はい、もしもし』
(やぁ、高橋さん。加々井夏希は大丈夫?)
なっ!
なぜ、オレの名前を知っている?
更に不思議なことが起こった。
(え?長池麻央さんと国道の道の端で休み中?)
全部、現在地も誰と来たかもばれている。
こいつ……
何者だ……
『おい、お前何者だ!』
電話越しに笑い声が響く。そして、問いにこう答えた。
『オレはBです。別名はGですかね?』