第二十七話 裏切り2
パトカーのサイレンが濡れた空にこだました。しかし、奈実は逃げなかった。逃げることを諦めたわけではない。もう頭がぼろぼろなのだ。体も、精神も。夏希は止まった。麻薬に溺れたトモダチを救いに。パトカーはもうそこまで来ていた。しかし、夏希は勇敢に立ち向かった。
『奈実、逃げるよ』
そう言って、奈実の襟を掴んだ。しかし、奈実は反抗した。夏希の顔が固まる。
『は…やくに…て』
奈実はぼそりとそう言った。夏希は聞き取れない。
『え?』
『早く逃げて。』
『なんで?あなたは捕まるのよ?牢屋で過ごさなきゃいけないのよ?』
奈実は笑っていた。作り笑いなんかではなくこちらをみてにこりとしていた。そして、こう言った。
『私、幸せだった。』
夏希には意味が分からない。本当に頭がいかれたのかと思った。しかし、そうではなかった。
『みんなと会えて本当に幸せだった。いつも1人だったのに、みんなは私を受け入れてくれたから。』
夏希の目が濡れた。
『だから、一緒に逃げればいいじゃない!』
奈実はまた笑った。
『いや、私はもう無理みたい。』
と、言って足を指した。奈実の足は痙攣して震えていた。
『まさか……』
『そのまさかみたい。私、もう立てない。』
麻薬の副作用。それが今来てしまった。夏希は襟から手を話した。
『夏希は早く逃げて。頑張って勉強して、部外して、友達、そうねぇ……今度は私みたいな薬物所持者とは近付かないほうがいいかも。ちゃんとご飯食べて、風呂入ってたくさん寝て、ちゃんと休むときは休んで……』
もう既に奈実は泣いていた。
『最後に1個だけ。』
『ん?なに?』
『私といたこと忘・れ・な・い・で・ね』
夏希の目のダムが勢いよく決壊した。
『えぇ、分かったわ。』
それを聞いた奈実はもう何も言い残したことはないと言うようににこりと笑っていった。
『じゃ、早く逃げなさい。今・ま・で・あ・り・が・と・う』
夏希は全力で走り出した。涙を流しながら全力で走った。それと同時に警察が奈実を確保した。地面に押し倒されて手に手錠をかけられていた。
夏希の耳に奈実のありがとうが何回も響いていた。
2011/07/09 00:35 - No.27