第二十話 状況
彩那はただがむしゃらに走った。慎太郎の家は彩那の家から約3キロ。信号機ではさすがに止まったが、それ以外はただ走った。雨などは全く気にならない。いや、気にしている場合じゃない。髪は整えてない上に雨や汗で濡れて、ぐしゃぐしゃだ。彩那を見る人は驚いて1歩下がる。そのため、彩那は意外とスムーズに慎太郎の家まで行くことが出来た。
慎太郎の家の前で彩那は立ち止まった。ハァハァと荒く息をする。慎太郎の家は人でごった返していた。そう、刑事ドラマのあの感じだ。立ち入り禁止の黄色いテープが貼られ、警察が行き来している。
『少し、開けてください。お願いします』
彩那は強引に人混みを進んだ。一番前列まで来ると、
『何があったんですか』
と、警察を呼んだ。すぐに説明してくれた。
『佐藤慎太郎さんの両親が死んでいます。さらに慎太郎さんも乗った飛行機で事故にあっています。』
『じ、事故?』
彩那が聞き返すと警察は不思議そうな顔をした。おそらく彩那が知らないことに驚いたのだろう。そして事故について説明し始めた。
『飛行機が何者かに乗っ取られビルに突っ込んだんです。そして、まだ確信はありませんがその人物が佐藤慎太郎さんだと思われます。』
『そ、そんな……。じゃ、あのメールは……。』
といって慌てて口を抑えるがさすがに警察だった。
『メール?何のことです?』
彩那の額に水滴が伝わる。それが汗なのか雨なのかは分からなかった。
『いえ、何でもないです……。』
警察は笑顔で優しく接した。
『捜査にご協力してくれない?知ってることは言ってくれないかな?』
『……。』
彩那は口を開かない。いや、開けなかった。
『あ、いきなりおじさんにこんなこと言われてもね……困るよね……。名前教えてくれないかな?私は河上祐二と言うんだが……』
彩那は下を向いたままようやく口を開いた。
『彩那…川島彩那…』
祐二の顔が変わった。
『彩那ってもしかして1年前の銀行強盗に親を殺された?』
彩那は静かに頷く。彩那は直感した。この河上祐二は後々、敵になると……