第二話 更なる悲劇
パトカーから映る景色は色褪せていた。それはただ単に彩那が下に俯いてるだけで景色を見る余裕がなかっただけであろう。警察は普通に見ているのだから。警察官は彩那にきをつかって何も話さない。ただ、沈黙が支配した時間だけが過ぎていく。そして、顔をあげた頃にはもう、警察署だった。警察官が開けてくれたドアから無言で彩那は降りた。
そして、2度と縁がないと思っていた警察署の中に警察官に続いて入る。
そんな悲劇から更に2ヶ月程たった秋に近い夏。
彩那は無視される回数と一人でいる時間が少しずつ延びていった。
それから3ヶ月程すると、本格的ないじめが始まる。
『ねぇ、あたし今回のテスト2位だったんだけど、1位誰か知らない?』
と、同級生の中川舞に皮肉たっぷりに聞かれ彩那は
『え、ごめん、私が1位だった』
彩那は何でも出来る人間だったが、中でも勉強はダントツに出来た。
全国共通模試では10位以内を連発し、市でも一目おかれる存在だった。
彩那の答えを聞いて、舞の目が鋭くなる。
『なんであなたが1位なのよ!!両親もいないくせに!!』
『え!?』
まさか、そんな理不尽な返事が返ってくるとは一ミリも思っていなかった彩那は驚く。
『いいわ、覚えときなさい!!』
舞は大声で怒鳴ってどこかへ行ってしまった。
この時、彩那は勘違いしていた。
次のテストで勝負するかと思っていたのである。
翌日のことだった。
帰り道を歩いている、彩那に舞たちが現れた。
『ねぇ、暑くない?』
と、舞が聞く。良く状況が掴めない彩那は
『うん、暑いね。』
と答える。するといきなり舞は彩那に近づき、そのまま押し倒した。
後ろにはまだ水の張った田んぼが…。
『え!?』
という彩那の声と共にザブーンという音が響いた。
『よかったね、クールダウンできて~』
と、舞は冷酷な目と口調で泥まみれの彩那に言いはなった。
『感謝しなさいよ』
その言葉を最後に舞はどこかへ消えた。
『うぅ…臭いよ…。』
と舞は泥だらけの手を見ながら泣いてそう言った。
さらにこの泥が新たな悲劇を巻き起こす。
『結局、落ちなかったな~、この匂い…』
と、呟きながら登校すると、校門で先生に
『なんか泥ぐさいけど、なんかあったの?』
と尋ねてきた。彩那は下を向きながら
『実は…』
と言ったところで止めた。舞は優しい子と、学校で認識されており、友達を田んぼに突き落とした、なんて信じないと思ったからだ。
昨日までは彩那本人もそう思っていたのだ。
『ん?やっぱりなんかあったのか?』
と先生。
『いや、何でもないですよ~』
と、かわいい笑顔を見せた。先生も笑って
『そうか、良かった、勉強頑張れよ!!』
『分かってますって、先生』
と明るく挨拶を交わして校舎に入った。
しかし、現実は彩那に牙を向けた。
『ねぇ、あんたさ、泥遊びが趣味なんだって?舞から全部聞いたよ。私はなんて汚らわしい人と話してたんだろう、くっさーい!!』
と、仲が良かった斎藤愛が鼻をつまみながら離れていく。
『ねぇ、愛ちゃん、違うの!!』
と、誤解を解こうとしたが
『話しかけないで、汚くなるの嫌だから』
と、走って離れていった。
他の友達やクラスメイトも磁石が反発するように避けていく。
舞がイスに座りながらニヤリと微笑んだ。