第十六話 遂に
山梨県上空を飛ぶ飛行機。地上から見れば楽しい旅行や、出張のサラリーマンとしか見えないだろう。600弱の命を乗せた鉄の塊は後に日本、世界を変えようとしていた。
『おい、早く緊急警報を出せ。』
『今、やっているよ』
運転手のあわただしい声が運転室に響く。慌てるあまりぶつかる係員もいる。飛行機の中は大混乱だ。
『よし、緊急用ドアを開けてくれ。』
緊急用ドアが開いた。風が飛行機に入り込んできて、飛行機の中を冷やし始める。地上10000メートルにある空気は冷気の爆弾だ。緊急用ドアの近くはすでに氷始めている。
『こんなところに落ちたら死にますよ……』
女性が発した声は震えていた。それが恐怖なのか寒さなのかは分からない。が、まるでこれから日本に起こる大混乱を表したような、そんな声だった。
『早く降りろ。どうせみんな死ぬさ。生き残れる可能性があるだけラッキーだと思え。』
相変わらずナイフは女性の首から離れない。男たちは勘弁したように順番に落ちていく。そうしている間に飛行機は山梨県を越えた。時間的にはあと10分を切った。
『よし、次はこの紙を落とせ。』
慎太郎は次の指示を出した。係員は命令に従う。その時だった。2台の戦闘機が飛行機の回りを飛んでいた。
やられた!
慎太郎は怒りを抑える。冷静になれ。一番命取りになるのは感情的になることだ。
2頭の戦闘機と1頭の旅客機で悲劇は最終局面へと流れ込む。
悲劇の大事故まであと8分