第十話 嫌な予感
時計の針は9時半を回ったのにやたらと暑い。本当に暑かった。
『なんで、こんなに暑いの!?』
と、行き場のない怒りが夜空に小さく木霊した。
公園の入り口から入ると真ん中に噴水が見える。ここはデートの待ち合わせ場所。
噴水の右には並木道があり、左には遊びに使われる用具があった。
誰もいない公園に慎太郎が姿を見せた。
『遅くなってごめん、待った?』
これもいつものパターンだ。慎太郎は時間にルーズでほとんどといっていい程、約束に遅れる。彩那としてはもう慣れていた。慣れさせる程、遅刻ばっかりすんなよ!!と強気にいってやりたいところだがまた別の機会にしようと彩那は思った。
慎太郎は彩那が持っているスーパー袋に着目しており、頭の上にハテナが見えた。
彩那は理由を説明するためにベンチに誘導した。
『なんで、今日はいきなり?』
だから今からそれを説明するんだって!!何のためにベンチに座らせたと思ってるのかな?
慎太郎は相変わらず察しが悪い。だがそれもまた個性、つまり色だと思う。そして、私とピッタリ隣り合わせになれたらいいな、と彩那は心のなかで思った。
それは叶わない願いだと言うことは無論知るはずがないのだが…
『実はね、家の鍵なくしちゃって…』
と、彩那は弱々しく呟いた。そして
『スペアキー、渡したでしょ!?あれ、返してくれないかな?ホントに悪いんだけど…』
と、付け加えた。すると、慎太郎は急に大笑いし始めた。
『はっはっはっ!!なんだよ、そんなことかよ!!』
そんなことと言われ、少し気分が悪くなったが笑顔で振る舞う!!
『もぅ、仕方ないでしょ!?』
『まぁな、仕方ないから家泊まってけよ!!』
『え!?』
彩那は本気で驚いた。その様子をみた慎太郎は
『なんだよ、いやかよ~……。』
と笑った。
『全然、嫌じゃないし!!』
『お?マジで?襲っちゃうかもよ?』
それを聞いた彩那は顔が赤くなった。
『慎太郎のバカ!!』
と、下を向きながら言った。
『なんだよ、照れてんのか?かわいいな!!彩那のそういうとこ、大好き』
彩那は顔が更に赤くなった。
『もう、それ以上言わないでよ!?』
『つか、冗談だって』
と慎太郎が言うと、お互いに笑いあった。
しかし、この笑いはもう少しで途切れてしまう、そんな不安を二人とも嫌な予感として心に抱きながら…