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落語調(店主と若者の面接)

荒井結弦【古書店主 60代)

テレビ局員(20代)


JR山手線五反田駅前内側ロータリーから北に曲がって伸びる中央通りを進んだ、その曲がりっぱなの先にある、モルタル二階家のすすけた古本屋五反田書店(通称『五反田他人房書店』)内での、店主荒井結弦(通称『他人房結弦』)とテレビ局員との面接のシーン。


「あなた、いま、いくつだっけ?」

「25歳です」

「若いなあ~」

「ええ、ですから、登録をしに来たんです」

「わかってますよ。体力は?自信ある?」

「ええ、人並みに」

「いや、人並みじゃだめなんだ、ウチは。馬並みじゃないと」

「・・」(がっかりしたふう)

「まあ、それは、あくまで冗談。やることはわかってるよね」

「ええ、隣の部屋で夫または彼氏が凝視する中、行為に励むということですよね。お相手の女性と」

「そのとおり。度胸はある? 人前でいたしたことは?」

「ないです」

「まあ、普通はそうだよね」

「ええ」

(緑茶を飲みつつ)「ところで、あなた、お茶は好き?」

「えっ?」

「そんな、晴天のへきれきみたいな驚き方しなくたっていいじゃない。お茶、緑茶は好き?」

「まあ、嫌いじゃないですけど。ウチの父も母も、毎日飲んでますから」

「そうなんだ。じゃあ、合格だ」

「そんなに・・そんなに、簡単なんですか。こちらの試験って・・もっと、厳しいって聞いてましたけど」

「ああ、そうか。あなた、原宿テレビにお勤めだったっけ。そういやあ、なんか、はき違えた若者がひとり来たっけなあ。あくまでウチは離婚の危機にある夫婦・カップルを元のさやに戻すのが本分だっていってるのに、違った目的で来た連中を片っ端から追い出すっていったら、もったいない、とかほざいてさ」

「はあ」

「そうかと思えば、違うって言ってるのに、どうせ、夜な夜なFC3あたりの無料コサツエロ動画を渉猟してんだろう、『NTRと同じことをやればいいんですよね』とか、いっぱしのわかったふうの口を叩きやがって」

「ち、ちがうんですか?」

「当たり前じゃないか!!! 何考えてんだ。あれは、アダルトビデオの売らんかなだろ、あくまで」

「そうだったんですか・・私はてっきり、現代の夫婦の実態を表しているものか、と」

「あなた、ほんとに、原宿テレビ?」

「ええ、まあ」

「あそこ、だって、すごいでしょ、競争率。天文学的だよね」

「いや、そこまでではないですけど、まあ、昔の、司法試験以上の倍率であることは、たしかですよね。50倍以上ですから」

「話戻すけど、お茶飲むのね、家で」

「はい」

「鹿児島はいいよ。知覧の深蒸し茶はとくに、甘くてね」

「・・・」

「飲んだことない? 水出しの」

「一回、飛行機の中で」

「どうだった?」

「おいしかったです」

「そうでしょう。今年も鹿児島が静岡を抜いて、お茶の生産量日本一になったって。これで二年連続だって。お宅の局のネット記事で読んだよ。それでね、テアニンなんだよ、甘いのは。甘さの源は。80度のような熱さだと、抽出されない。逆にカフェインが出てくる。だけど、60度以下、とくに夏場なんか、0度に近いので出すと甘いんだ。これがいいんだ。やみつきになってね。私なんか最近じゃ、鹿児島市内の一番大きい小売り店から、一度に5袋注文してる。一月で、2袋も消費しちゃうからね」

「そんなに」

「そうだよ。だって、あなただって、ペットボトルのお茶飲むでしょ」

「ええ、飲みます」

「あれに比べたら、はるかに経済的だよ」

「まあ、たしかに。ペットボトル500MLの加藤園の『やーい粗茶!浅蒸し』だって、ゆうに160円くらいいきますからね」

「そうだよ。こっちは茶葉だからさ。適当に金属の茶こしに入れたって一回で三杯は出せる。それをどうだろう。20回くらい、いや、30回近くいくかな。つまり、90杯。コップに2杯分がペットボトル500MLだとしても、45杯。1700円台の茶葉で十分高級品だから、ペットボトル1つ分で37円の計算だ。すごいでしょ。経済的でしょ」

「あの、たしかにそうなんですけど、それとこれとは何の関係が・・?」

「まあ、ききなさいよ。あなたの生殺与奪は僕が握ってるんだからね。いやなら別に、ウチで副業してもらわなくったって、いいんだからね」

「いやいや、やりますやります」

「あなたね、くれぐれも、味見してやろう、などというさもしい料簡じゃないよね」

「えっ・・・」(絶句)

「なんだ? あやしいなあ。即答できないの?」

「いや、できますよ、もちろん。ていうか、できませんよ、もちろん」

「どっちなんですか?」

「そっち」

「二代目広沢寅造の森の石松と三十石船じゃないんだから。とにかく、あなたには、あくまでも黒子に徹してもらわないと」

「わかってます。依頼者であるご主人を喜ばせるため、ですよね」

「ちがうっ!」

「喜ばせるんじゃないんですか?」

「喜ばせるのは、ご主人じゃない。喜ばせるのは、奥さんだ。彼女さんだ。ご主人悦ばせてどうするの。嫉妬させるの。あなたの仕事は。嫉妬の炎を燃えたぎらせるの。ご主人の心の中に。わかった? しっかりしてくださいね」

「すいません」

「まあ、ただね、実際のところなんだけど・・・別に、悦ばせるところまで行かないってことが、結構あるんですよ。ケーススタディーとして」

「それはまた、いったい、どんなケーススタディーでございましょう」

「タオルが投げ込まれるんですよ、ご主人から。白いタオルが」

「・・・?」

「知りません? 昔の動画、見たことありません? 文字通りですよ。『もうやめろ』と声がかかるわけです。対戦している最中に。セコンドから」

「・・・」

「具志堅用高みたいに。14度目の防衛戦の12ラウンドみたいに」


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