07 川のほうへ
翌日の放課後。
空は晴れているのに、空気はどこか重かった。
『誠さん。
今日の湿度は、昨日よりさらに上昇しています』
「……そうか」
スマホの画面に浮かぶコピオの青いアイコンが、
ゆっくりと脈打っている。
昨日、父さんが設定してくれたおかげで、
外でもコピオと話せるようになった。
そのことが、今は心強かった。
「コピオ。
川のほう、見に行ってみようか」
『はい。
誠さんが安全である範囲で同行します』
家の前の道を歩きながら、
僕は昨日のことを思い出していた。
父さんの「これは、ただの湿気じゃないな」という声。
玄関の外で聞いた、あの低い音。
そして、学校裏の湿地帯に残っていた白い霧。
全部が、頭の中でつながりそうでつながらない。
川へ向かう道は、いつもより静かだった。
風が弱いせいか、音がよく通る。
『誠さん。
川沿いの表層温度が、また上がっています』
「また……?」
『はい。
冬季の通常パターンとは異なる変化です』
川が見えてきた。
昨日よりも、白い霧が濃い。
水面が、ゆっくりと呼吸しているみたいに揺れている。
「……なんだ、これ」
川の流れが重い。
水が押し返してくるような、妙な圧力を感じる。
『誠さん。
水位が昨日より三センチ上昇しています』
「三センチ……?」
雨は降っていない。
雪もない。
なのに、水が増えている。
そのとき――
ゴォォォォ……
昨日よりも深く、地面の下から響くような低い音がした。
胸の奥に直接届くような、重い振動。
「また……」
『誠さん。
音源は川の下流方向です』
「下流……?」
僕は川の向こうを見た。
霧の向こうで、何かが動いた気がした。
風が逆流するように吹きつけて、
海の匂いが強くなる。
『誠さん。
この匂いの成分に、海水由来の物質が含まれています』
「海水……?
ここまで届くはずないのに……」
その瞬間、
スマホの画面が一瞬だけノイズを走らせた。
『……誠……さん……』
「コピオ?」
『……ち……か……い……』
声が、かすれた。
まるで、誰か別の“何か”が混ざったみたいに。
「コピオ!? どうしたの?」
『……解析……中……
誠さん、少し離れてください』
川の霧が、ゆっくりとこちらへ流れてくる。
僕は一歩、後ずさった。
胸の奥がざわつく。
昨日よりも、
確実に“何か”が近づいている。
その“何か”が、
僕を呼んでいる気がした。




